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【番外編完結】「醜い」と嫌われた豚令嬢、三年後に元婚約者に嫁ぐことになりました ~ただし離婚前提です~  作者: ボボブラ汁
番外編 ケンカップルの姫始め

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俺は平民だから……【クライヴ視点】


「へ? 下賤の?」


 ミラベルが、パチパチと目を瞬かせた。


 式では結い上げていた艶やかな黒髪を、今は解き流している。


 その姿は神々しいほど高貴で、まともに視界に収められない。


  眩しすぎる……。うっかり目を逸らしてから、自嘲の笑みを浮かべた。


 ほら、まだこんな調子だ。まったく、ダメな男だな、俺は。


 ──俺はミラベルを初めて見た日のことを思い出した。



 父は、恩人が売りに出していた別宅を購入し、俺たち家族はそこへ引っ越した。


 ボロボロのヴィラから一転して大邸宅だ。俺たち一家はいかにも場違いで、おどおどして見えたに違いない。


 だが、隣の屋敷──その恩人の本宅だ──の庭で、危なっかしいほど勢いよくブランコを漕ぐ女の子に気づき、そんな情けない姿を見られたくないと思った。


 貴族の令嬢を見たのは、それが初めてだった。完全にイメージ通りの高貴なお嬢様で、思わず身構えたのを覚えている。


 シンシアを食べさせるので精いっぱいだった俺は、両親と同じようにやせ細り、ひょろひょろだ。彼女の目に、どう映るのかが怖かった。


 彼女から、哀れまれたくなかった。


 だから胸を張り、堂々と挨拶したのだ。


 もっとも、彼女の視線は俺ではなく、妹のシンシアに釘づけだったが……。


 まあ、妹は可愛いからな。気持ちは分かるし、これなら隣人として上手くやっていけそうだと、その時思った。


 ──実際は、シンシアの取り合いになったわけだが……。


 ツンケンしたミラベルを除けば、ヘビントン侯爵一家は本当にいい人たちだった。


 ずっと裕福だったせいか、ミラベル以外は少し心配になるほどお人よしで、貴族の必殺技──ノブレス・オブリージュ攻撃──を惜しみなく繰り出してくる。


 嫡男のヒューバートはおっとりしていて、妹のミラベルよりもむしろシンシアに似ていた。


 だから、一緒にいると妙に和んだんだ。


 俺は死にかけるほどの貧乏を味わっているから、そのおおらかさが逆に不安だった。


 だからこそ、賢そうなミラベルがあえて番犬役をしているのだろうなと、俺は妙に納得していた。


 子供心に、貴族というのはみんなこうなのだと、勝手に思い込んでいたのだ。


 ──だが学院に入ってすぐ、その幻想は粉々に砕けた。


 王立学院の中等科に入学した際、身分で線引きされたクラス分けがあり、俺とミラベルの兄ヒューバートは、まったく別のコースに配属された。


 あの時に味わった嫌な感覚は、今でもはっきり覚えている。


 平民上がりの新興貴族と、古くから爵位を持つ家。


 その差を、制度として突きつけられた。


 兄弟同然に接してくれていたヒューバートが──ヘビントン侯爵家が、急に遠い存在になった。


 あの優しい人たちが手を差し伸べてくれたのも、結局は貴族としての義務、弱者への施しにすぎなかったのだと。


 無邪気でいられた子供時代は、そこで終わった。


 ……だが、ヒューバートは変わった奴だった。


 中等科の一年生の頃から、新興貴族向けの授業に興味を持ち、しょっちゅう俺のところに遊びに来ていた。


 俺は頼まれるまま授業内容を説明し、勉強も見てやった。何せ俺は学年一位だったから。


 学院のカフェテラスも、建物こそ共通だが、貴族と平民でエリアが分かれていた。


 にもかかわらず、ヒューバートはわざわざ混み合っている平民エリアに来て、俺と昼食を取りたがった。


 そんな貴族はほとんどいない。


 だからこそ、よく思わない連中も一定数いた。


 俺が学年一位なのも、貴族のヒューバートに勉強を教えているのも、気に入らなかったのだ。



 ある日、いつものように昼飯を食べていた時、王太子殿下の一行が通りかかった。


 殿下には特別室があるらしく、カフェテリアに姿を見せること自体が珍しい。


 俺はつい、しげしげと眺めてしまった。


 王太子殿下が、ヒューバートを見つけてふと立ち止まった。


「やあ、ヒューバート。それは東の国の天ぷらとかいう料理だな。美味であるか?」


 王族とはいえ、クラスメイトのヒューバートには気さくな口調だった。


 だが当然のように、殿下の目に俺は映っていない。


 王族にとって、高貴な血でない者は、ヒューバートの手元のカップと同じ扱いなのだろう。


「はい。殿下も召し上がってはいかがですか?」

「いや、私は今日はもう何を食べるか決めているのさ」


 そう言って、殿下は特別席へ向かっていった。


 俺とヒューバートが気にせず食事を続けていると、殿下の取り巻きの数人だけが、なぜか引き返してきた。


「おい、ヒューバート。こんなところで食べるなんて正気か?」


 そう言ったのは、マスカスター伯爵家の令息だった。


 確か、女を落とす手管を誇り、貴族クラスでも幅を利かせているという学生だ。


 ヒューバートは天ぷらをしゃくしゃくしながら、きょとんと顔を上げた。



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