結婚した理由
クライヴは仁王立ちになった私を見上げた。
整髪していない黒髪がサラッと額を滑り、私はそれをクシャクシャにしたくなった。
私の気持ちなんて知らない彼は、軽い調子で結婚した理由を、指を折りながらあげ連ね始めた。
「まあ一つは、披露パーティー用の料理をキャンセルするのがもったいなかったからだな。前日は百パーセント支払いなのだよ」
ええ……知ってた。そういう人だって。
「もう一つは、招待客に迷惑がかかるから」
はいはい。
私はへたり込むように座り、三つ目の指を曲げ、一緒に数えた。
「あとは?」
「君を……俺のものにしたかったから」
「はいはい……っ?」
「それと、君を抱きたかったから」
飄々とした顔で、指折り数えていく彼を見ながら、私はカクンと顎を落とす。
「ちょっと……なな、何言ってるのよ」
からかってるんだ。いつもみたいに。
「真面目に答えなさいよ、侯爵家と親族になって箔を付けたかったとか、妹をヒューバート兄様に取られた腹いせとか、そういう打算的なやつ」
私の顔に手を伸ばしてきた。え?
ええ?
長い指が私の頬に触れ、唇をなぞる。
えええ!?
私は首を横に振ってずりずり後ずさり「なんつって! もしかして今のでキュンときたのかい?」と彼が言い出すのを待つ。
しかしクライヴは、じっと私の唇を見つめたまま身動きしない。
その瞳は、執するように潤んでいる。
だんだん私の心拍数が上がってきた。え? まさか? 私のこと好きなの?
「だ……だって……今、ちゃちゃっとすませたいって」
動揺し上ずった声で私が言うと、クライヴは真面目くさった顔でうなずいた。
「さっさと始めたいんだ。緊張しすぎてなかなか勃たないかもしれないからな。時間をかけて君に挑まないと……。俺にとって夜は短いよ」
腕を掴まれ、引きずり寄せられる。
「ま、待って、待って! 待って!!」
オロオロしているのは私だけだった。
「え? ええ? つまり、どういうこと? 何をする気?」
クライヴは顔をしかめた。
「君はバカなのか? 初夜にすることは一つしか無いだろう」
バカ!?
「だってあなた、今までそんな素振りをしたことないじゃない!」
からかってくるし、突き放すし、何か言うと反論してくるし、喧嘩ばかりだったのよ!?
「大体いつもシンシアが一番だし、とにかくシスコンで、私なんかを──」
「シンシアは妹だから」
クライヴは、私を自分の腕の中にすっぽり収めた。
「ミラベル、君は女だ」
カッとみぞおちが熱くなった。
お、女! なんか、なんか、恥ずかしい!
見下ろしてくる瞳はランプの明かりを照り返し、てらてらと光っている。まるで──。
「君はどうなんだい、ミラベル?」
まるで、私を求めているような、死ぬほど欲しがっているような、そんな危険な感情の色を湛えて、彼は聞いてきた。
「俺みたいな、下賤の平民との結婚を、君は我慢できるのか?」




