意識し始めたのは葬儀の日
ステイプルトン氏の事業はさらに──子供でも耳にするほど──大きくなっていった。
彼にはそういう才能があったのだろう。
クライヴは苦い顔で言っていた。
「財産全部つぎ込むとか、やりすぎることさえしなければ尊敬できる父なんだが……家族の生活資金くらい残しておけよ」
そんなの、失敗したら大変じゃない。ギャンブラーなの?
話を聞けば、ステイプルトン氏がやりすぎた時代、一家は餓死しかけ、本人はツルツルに禿げあがってしまったほどらしい。
やはり、ギャンブル狂に近いものがあったのではないかしら。
とにかく、彼らは侯爵家に多大な恩を感じていて、私たちにも何かと尽くそうとしてくれた。
そういえば、両親が亡くなったとき、誰よりも泣いてくれたのは、このステイプルトン一家だったのだ。
葬儀の日には、ヒューバート兄様に縁談を持ち込む貴族が何人も押しかけてきた。
叔父様や叔母様がさすがに止めて、代わりに応対してくれていたけれど、それでも隙を見ては、私にまでお兄様のお見合い相手の写真を押しつけてくる者までいたわ。
私は、亡くなった両親に代わって、お兄様を守らなきゃって思ったの。
ところが、私の代わりに彼らを追い払ってくれたのは、意外にもクライヴだった。
「そういう話は、今日この場では相応しくありませんよ」
いつもシンシアにベッタリだったクライヴが、その日だけは、葬儀が終わるまで私の肩を抱きしめてくれていた。
変なの……。平民に慰められるなんて。
シンシア以外どうでもよさそうなクライヴが、私に胸を貸してくれた。
それだけなのに、私の涙が止まったのは確かだった。
彼を男性として意識し始めたのは、おそらくその時からだ。
「この際だから、はっきりさせておきましょうか」
クライヴは頬っぺたを押さえたまま「殴ったな、父にも殴られたことがないんだぞ、母にはあるけど」と呻いているけど、知ったことか。
私はベッドの上に仁王立ちになって、彼に指を突きつける。
まさに悪役令嬢だ。
「クライヴ、あなたどうして私と結婚しようなんて思ったの? シンシアの持参金でヘビントン侯爵家はどうにかなりそうなんでしょ? だから私とあなたが結婚する必要なんてなかったじゃない!?」
要約すると「もしかして勃つかもしれない、でも勃たなかったらゴメンな」って言われて「はいそうですか」と受けちゃう私も私だけどね!
こういうのはもう、惚れた弱みというか……はー……。
ため息しか出ない。
惚れていると自覚したのは、そう、ヒューバート兄様とシンシアの婚約披露パーティーでだった。
今でもよく覚えている。シンシアが見世物のようにされた日のことを……。
あの時は、シンシアの気持ちをもう知っていたから、ちょっと憂鬱だった。
確かに婚約契約書は内々のものだし、気が変わればお互いの同意のもと、破り捨ててしまえば済むことだわ。
でも発表してしまえば、皆が知ることになる。
高嶺の令息と言われるヒューバート兄様と、ピンクのドレスを好んで着たせいで──可愛いけど──豚のぬいぐるみに見える成金令嬢シンシアのカップルを、はたして周囲が認めるのか。
そんな不安をよそに、あのパーティーは始まってしまったのだ。




