どうすれば、この醜い豚野郎を好きになってもらえる?【ヒューバート視点】
「何度でも言うよ。君のせいじゃない。君は醜くもないし、豚でもない。分かるかい?」
あの時「醜い」と口走ったのは、俗世間の汚れを知らなかったシンシアが、初めて嫉妬をむき出しにして他者を攻撃したからだ。
今思えば、それは僕を好きだからこそ──僕を護ろうとした行為だったのに……。
それなのにシンシアは、あの時のことを今の今まで気にして、世界の終わりのように泣き、後悔し、自分を責め続けてきた。
僕は傷ついてないんだよ、シンシア。これ以上、僕のために泣かないで。
君からそこまで思いやられる価値は、僕には無いんだから。
僕は君が思うような清廉潔白な貴公子ではない。
今もよしよしと彼女をあやしながら、膝に感じる尻の丸みから意識を逸らそうと必死なんだ。
どうすれば彼女を僕のものにできるだろう。
彼女が欲しいと素直に伝えるのは、見た目に惑わされるクズだと、公言しているようなもの。
だからと言って、尊敬される兄貴分にも戻れない。
寝ている間に彼女に手を出しかけたどうしようもない僕を、どうすれば好きになってもらえる?
今も、涙が止まるまで抱きしめ、その額にキスするだけではなく、その先に進みたくなっている。
そんな不埒な感情を、向けてはいけない存在だったはずなのに。
「君は、僕にはもったいないくらいの素晴らしい女性だよ」
震える声でそう言っていた。
しかし彼女はこの世の終わりのように泣き続ける。
シンシアをあやしながら途方に暮れた僕は、とりあえず彼女を泣き止ませなきゃと考えを切り替えた。
「あ、そうだ。クライヴとミラベルは、結婚したよ」
「ふぇぇ~ん……ふぁっ!?」
良かった、やっと泣きやんでくれた。確かにびっくりニュースだろうな。
石のように固まり、一気に涙が引っ込んだ彼女に、僕は式の直前に起こったことを話して聞かせた。
正確には、クライヴを殴りつけた時のことだ。
散々妹に殴られて顔を押さえて呻いている僕に、クライヴがニヤニヤしながら言った。
「その顔じゃあ、シンシアが戻ってきても結婚式は無理だな。本物の貴公子を探して嫁がせるか」
「……ふざけるな」
「そんなセリフ、吐く資格無いだろ? それにほら、結婚式をキャンセルにするともったいないからさ」
そして次の言葉に耳を疑った。
「あ、そうだ。俺と結婚しないか、ミラベル。君が相手では初夜は無理だと思ったが、もしかしたらいけるかもしれない」
当然、ミラベルは殴ると思った。
だが兄の僕には分かってしまった。妹の猫のように吊り上がったヘイゼルの瞳が、キラキラ輝いたことに。
──うそだろ!? あれだけ喧嘩ばかりしていたのに!?
「クライヴ」
感極まったミラベルの声は、震えていた。
待て待て待て待て! 好きなのか!? 本当に!?
クライヴが両腕を広げ、ミラベルがその腕に飛び込もうとした時、彼はひとこと付け足した。
「もし勃たなかったら、ごめんな」
まず勢いのままミラベルが殴り、その後唖然としていた彼の両親が一発ずつ息子を殴り、最後に僕が殴った。
眼鏡が壊れたが、知ったことか。
「まあ、結局ミラベルは挑戦するようにクライヴの求婚を受け、結婚式は二人が出ることになったんだ」
「だ、だって、ドレスは?」
「シンシアのドレスだと板胸が丸見えだからと、急遽クライヴが既製品のウェディングドレスを買いに走った」
どうしてあいつはミラベルを怒らせようとするんだろう。
怒り狂って追いかけていった妹が、戻ってきた時にはなぜかいい感じにクライヴにしなだれかかっていたのも謎だ。
「ケンカップルだったのですわね!」
僕の膝の上で鼻をすすりながら、シンシアがうっとりと呟いた。その言葉で全て解決できたかのように……。
だから僕は僕で、魔法の言葉を口にしていた。
「それで? シンシア、君はどうなんだい?」
僕は彼女が思うような貴公子じゃない。
それでも……純粋な彼女を騙してでも、そして全世界からクズの詐欺師だと罵られても、僕は彼女を手に入れる。
「僕と結婚してくれますか?」




