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【番外編完結】「醜い」と嫌われた豚令嬢、三年後に元婚約者に嫁ぐことになりました ~ただし離婚前提です~  作者: ボボブラ汁
第四章 ゴミと豚野郎

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豚なんて言ったか?【ヒューバート視点】

 

 ああ、なんということだ。


 あの可愛い子羊ちゃんが「ムラムラ」とか「欲情」とか、そんな言葉を口にしたぞ……今のは幻聴か? いや、幻聴に決まっている。


「クライヴ兄様がわたくしやミラベルにムラムラしないのと同じで、ヒューバート様もミラベルとわたくしにはムラムラしないのです。ムラリズムの原理ですわ!」


 幻聴ではなかった……。まさか曇りなき眼の天使から、そんな言葉が飛び出してくるとは。そしてムラリズムってなんだ?


 僕はショックのあまり脱力し、背もたれに身を預けた。


 いや、僕がミラベルにムラムラしないのは当たり前だ。妹なんだから。

 もちろん、クライヴがシンシアにムラムラしても変態罪。僕がこの手で射殺している。


 だが概ねその説明で、彼女の言いたいことは理解できた。


「なるほど」


 腕を組んでため息をつき、僕はシンシアを凝視した。


「君がご実家から飛び出した後、ミラベルが僕に話してくれたんだ……」


 ミラベルが? と涙で潤んだ萌黄色の瞳を僕に向けて小首を傾げるものだから、抱きしめたくて仕方なくなった。


 どうにか堪えたが……くそ。この子のこういうところ、ほっぺをスリスリしたくなる。


 しかし今となってはもう、彼女を抱きしめてはいけない。以前のような清らかな気持ちで接することができない自分に気づいてしまったからだ。


 正直、何をするか分からない。彼女は今の僕を分かっていない。


「シンシア、三年前に君が学院を辞めたのは、農園の経営を学ぶためではなく、静養が目的だったらしいね。なんでも……体を壊して激痩せして、禿げたとか」


 キャッとシンシアが顔を覆う。……いちいち仕草が可愛い。こういうところは変わっていない。


 僕はデレッとならないように眉間に皺を寄せ、真剣な表情を保ちながら尋ねた。


「それで頑なに、僕と会ってくれなかったんだね?」


 シンシアは肩までの髪を押さえ俯いた。ホクロのある耳たぶが剥き出しになり、思わず触れたくなって拳を握りしめる。


「それって……僕がキツい言葉でなじって、婚約破棄を強要したせい?」


 シンシアはびっくりしたように顔を上げ、フルフルと首を振った。


「それは違います。傷つく権利などわたくしには……あの……どちらかというと、自分のしたことが恥ずかしくなったからです。だって女嫌いなヒューバート様が結婚しようなんて思える女性は、めったに現れないと知っていたのに!」


 じわりと、萌黄色の瞳が潤む。


「後継者が作れないと侯爵家が困るのに……わたくしは」


 ──結局、僕が原因じゃないか。どれほどのショックを君に与えたのだろうね。君はどれだけ傷つき、苦しんだのだろう。


 僕はやっと腫れの引いてきた頬を摩った。


 クライヴとミラベルに、彼女の体調不良は僕のせいかもしれないと伝えたところ、言い終わる前にクライヴから殴られそうになった。


 結果的に殴られはしなかった。僕の胸ぐらを掴んだクライヴより先に、走ってきたミラベルが回し蹴りを入れたからだ。


 そういえばミラベルは、近くの公園に出没する東の異人ウォンさんから武道を習い始めたと言っていたな。なかなかいいキックだった。


 さらには倒れた僕に馬乗りになり、マウントポジションから何度も拳を振り下ろしてきた我が妹である。

 背後から「さすがにお前の兄が死んでしまうぞ! 白目を剥いてる、落ち着きたまえ!」とクライヴに羽交い締めにされ、ようやくやめてくれたが、その頃には僕の意識は朦朧としていた。


 それでミラベルは「クライヴだって同罪よ、この鈍感男っ!」と怒りの矛先をクライヴに変えたため、結果的に僕の命は助かった。


 だが、いくら妹の鉄拳で殴られても仕方なかったと思う。というか、もっと殴ってほしかった。もちろん、そういう趣味があるわけではない。


 自分で自分が許せなかった。誰でもいいから、シンシアのように髪が抜けるほど痛めつけてほしかったんだ。悪いのは、シンシアの気持ちに気づかなかった僕なんだから。


 僕は、目の前で震えているシンシアに改めて言った。


「三年前の婚約は、僕のことを好きでいてくれた君に対して、全く誠実ではなかった」

「そ、それは仕方ないことですわ! まさかわたくしめのような醜い豚が、ヒューバート様を男性として好きだなんて思いもよら──」

「すとーっぷ! もう勘弁してくれ、その『醜い豚』って言うの。悪かった。本当に悪かったから」


 居たたまれなくて、僕は深々と頭を下げる。


「あの時、僕も子供だった。ナディーン嬢に振られて、君に八つ当たりしたんだ」


 ……ていうか僕、豚まで言ったか? シンシアはどちらかと言えば、毛を刈る前の羊のイメージだったけど。


 もちろん豚は嫌いじゃない。ウサギやハムスターより可愛いと思う。


 こう、ポテポテしていて抱きしめたくなる。問題は、豚肉が美味しいところだ。だからこそ、ミニブタを飼うクライヴが正気とは思えなかった。


 僕はそういうのが割り切れない。情が移ると食用として見られなくなるから、あえて可愛いと思わないようにしている……。


 それにしたって、女性を動物に例えるのは失礼過ぎやしないか。僕はなんてことを……いや、あれ? 絶対言わないよな?


「醜いのは僕だよ。ナディーン嬢に振られたことを認められなかった、ナルシストの僕だ」


 この期に及んで人のせいにはしたくない。……だが、思えば、僕がナルシストになったのは、このシンシアが原因だったな。



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