両家の団欒と豚と来訪者
いよいよ式の前日となりました。
商用で出かけていたお父様も無事に戻られ、夕方にはヒューバート様も屋敷に到着されました。これで両家がようやく揃ったのです。
前夜祭代わりの両家の晩餐は、明日の披露パーティーの準備に追われる侯爵邸を避け、ステイプルトン家で催されることとなりました。
領地からまっすぐ我が家へ来られたヒューバート様を見た瞬間、懐かしさで思わず駆け寄りたくなってしまいました。離れていた日数はわずかだったのに……。
彼と会えなかった三年間を、よく耐えられたものです。
「いよいよだね」
ヒューバート様はわたくしに微笑みかけてくださいました。
その笑顔は、わだかまりのない頃の彼もので、ギクシャクした雰囲気はすっかり消えておりました。
クライヴお兄様のおっしゃる通り、領地で触れ合ったおかげですわね。
押しかけてよかった……。
晩餐の席では、お父様が気遣うように尋ねてきました。
「どうだね二人とも、今さらだが家族になる気分は」
けれどその声は、お兄様とミラベルの会話にかき消されてしまいます。
「え、うそ! ハレの日なのに、自分の燕尾服は新調してないの!?」
「既に何着か持っているのに、わざわざ新しく作る必要もないだろ。どうしてもと言うなら、この前の舞踏会でヒューバートが買ったのを借りるよ。サムシング・ボロウってやつ」
「それは花嫁が身に着けるものよ? それにヒューバート兄様のは、光沢があって派手すぎるわ。新郎より目立ってはダメなの」
「俺の結婚式でサムシング・オールドにするからいいだろ」
「だからそれ花嫁だってば! え、自分の結婚式、お古で済ませる気なの!?」
「まあ俺は、当分結婚なんてしないからさ」
ミラベルが急に黙り込み、ようやくお父様の声が食卓に響きました。
「あの……どうだね、ヒューバート、シンシア。独身最後の夜だが、落ち着いているかね?」
髪と影は薄いけれど、これでも敏腕の実業家なのですよ?
でもお父様の呟きに、わたくしまでしんみりしてしまいました。
娘を心配しているのね。
「やだ、あなた。わたくし寂しくなっちゃうわ」
お母様は目尻の涙をナプキンで拭います。
「でもわたくし、娘の花嫁姿を見られるとは思わなかったわ。シンシアどころか、ミラベルすら頑なでしたもの」
「わ、私はシンシアと違って、絶対結婚しないと言ったわけではありませんわ、夫人。ただ、お見合いはちょっと……」
ミラベルはふてくされます。
「あら、誰かに片想いでもしているの?」
お母様が興味を示すと、ミラベルはなぜか挙動不審に目を泳がせます。
「素敵、シンシアもミラベルも、すぐにわたくしに孫の顔を見せてくれるってことね!」
その言葉に、わたくしは口に含んでいたアップルジュースを吹き出してしまいました。
「汚なっ、ちょっとシンシア!」
ミラベルが顔にかけられてカンカンです。
けれどわたくしの頭の中は、お母様の言葉で一気に冷静さを取り戻していました。
「とにかくミラベルの結婚資金についても、私たちが用意するから、気を遣わないでくれ」
「そうよ、ご両親の遺言を守らせてね」
ヒューバート様は苦笑しています。
「今回、間に合わなかったものはありがたくお借りしましたが、ミラベルの持参金は僕が用意できると思いますよ」
ミラベルは嬉しそうに自分の兄を見ました。両親は少し物足りないようでした。故ヘビントン侯爵から受けた恩は、それほど大きかったのです。
面倒見はいいけれど容赦ないクライヴ兄様が、アップルジュースで濡れたミラベルの顔をナプキンでゴシゴシ拭きながらおっしゃいました。
「そうだミラベル、あのスカイブルーパールを買うために自分の宝石を売るなんて、馬鹿だろ。明日のアクセサリーはどうするつもりだ」
「ご心配なく。関係ないでしょ」
「関係ないことあるか! シンシアの結婚式なのに、君はみすぼらしい格好で出るつもりか」
「自分の燕尾服はどうなのよ! ドレスはちゃんとしたものがあります!」
果てしない兄妹喧嘩は、わたくしがヒューバート様に嫁いでも続きそうですわね……。
その時、玄関ホールの鐘が鳴りました。お母様が眉をひそめます。
「あら、こんな時間に誰かしら」
しばらくして執事のトマスがやって来ました。
「お食事中失礼いたします。ヘビントン侯爵にお客様がお見えです」
おそらく隣の屋敷を訪ねても当主が不在だったため、こちらへ来られたのでしょう。
──本当に、誰かしら。




