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【番外編完結】「醜い」と嫌われた豚令嬢、三年後に元婚約者に嫁ぐことになりました ~ただし離婚前提です~  作者: ボボブラ汁
第三章 ナディーン再び

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豚の乳枕

 ヒューバート様は、凍りついたように静止してしまいました。


 やがて、錆びた蝶番が軋むような緩慢さで首を動かし、わたくしのナイトドレス越しに太腿を凝視なさいます。

 

 そして目をぎゅっと瞑り、口の中で何ごとか悪態をつぶやいた後、ゆっくり横になられました。


 三年ぶりに、ヒューバート様の頭の重みが太腿にかかります。さらさらの髪の感触が、薄い布越しに伝わってきました。


 ──ああ、やっと。やっとですわね。膝枕だけは、唯一わたくしがあなたにして差し上げられること。


 涙ぐみながら耳元で囁きます。

 

「……どうですか?」

「ま、前より、クッション性が……」


 狼狽したように呟くと、彼はすぐに起き上がってしまったではありませんか。


 わたくしはがっかりいたしました……自分に。


 俯いた彼の顔は長い前髪に隠れて見えません。ですが、耳が真っ赤になっているようでした。


 失望させたのでしょうか。前のようにリラックスさせられなかったから。


 まだ太腿はムチムチしていたはずですが、やはり肉が落ちすぎたのかもしれません。


 そういえば、クライヴ兄様は軽々とわたくしを持ち上げていましたもの。


 今のままでは需要がないのですね……。


 お兄様の言うとおり、もっとムッチムチに太った方が良かったのかしら。


 まったく! わたくしはどこまでも役立たずの醜い豚女です。


「寝ようか」


 低くざらついた声に、わたくしは深く落ち込みながら頷きました。

 

「申し訳ございませんでした」


 すごすごとソファーに戻ろうとした瞬間、二の腕を掴まれます。


「どこいくの?」

「え?」


 彼は大きなベッドの上掛けを剥ぎました。


「慣らすために呼んだんだ。隣に寝てくれなきゃ」


 事務的な声でしたので、わたくしは大人しく従います。


 でも──寝相が悪いから潰してしまうかもしれません。


 体重は軽くなったとはいえ、胸はやたらプリンプリン。寝返りで彼の顔面に乗ってしまえば、窒息させてしまいそうなのです。


 あ、でも最初からわたくしが下にいれば、彼の上にこの肉塊が乗ることはないのでは?


「ヒューバート様。太ももより胸の上に頭を乗せた方が、ご満足いただけるかも。枕がわりに」


 水をゴクゴクと飲んでいたヒューバート様が、ぶふぁぁあっ! と吹き出しました。


「ぐはっ! カハッ! げほげほげほっ!」

「だ、大丈夫ですか」


 激しく咳き込みしばらくのたうち回った後、ようやく落ち着いた彼は、何かやらかした人を見るような目でわたくしを睨みます。


「誘っているのかい?」

「胸枕を? ええ、そうですが」

「いや、そうじゃなくて……」


 ──この子はまさか、自覚が無い? と彼が呟く声が聞こえました。


 失礼な。豚の自覚があるからこそ、間違って彼の上に乗らないように重しになってほしいのです。


「ヒューバート様、もういいかげんわたくしだって大人です。自分のことくらい分かっております」


 憤慨して申し上げると、彼はたじたじになりました。


「たしかに前より痩せました。でもまだ胸とお尻は凶器ですわ。圧死させてしまいます」

「確かに凶器だが、そういう意味ではなくてだね。君は女性としての自分をなんだと思っているんだ」


 あまり言いたくないことを言わせないでください。黒歴史なのです。


「あれだけ学院の皆から言われたら、目が覚めますわよ。そこまでバカではございません」


 正確には、ヒューバート様からきっぱり突きつけられたからですわ。


 真綿に包まれて育った幻想は霧散し、現実を見るようになったのです。


「さ、いらしてください」


 仰向けに寝転がり手を広げると、ヒューバート様はしばらく顔を赤らめて見下ろしていました。やがて、意を決したかのように、顔を胸に沈めたのです。


「……やふぁらふぁい」

「ち、窒息しますわよ。逆です」


 渋々向きを変え、彼は仰向けになりました。


 胸がふわりと擦れて、なんだかソワソワするような妙な気分になります。


「重いだろ?」

「ぜん……ぜん……温かくて、気持ちいい」


 少しでも彼が、昔の膝枕と同じようにリラックスしてくれますように。


 そう願いながら髪を撫でているうちに、わたくしの方が先に眠りに落ちてしまいました。


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