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【番外編完結】「醜い」と嫌われた豚令嬢、三年後に元婚約者に嫁ぐことになりました ~ただし離婚前提です~  作者: ボボブラ汁
第三章 ナディーン再び

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醜い豚だと分かっているの



「明日領地へ戻るだなんて、性急すぎやしないかい?」


 舞踏会帰りの馬車の中で、クライヴ兄様がヒューバート様に問いかけました。


「しかし、僕が監視していないと、家令が勝手に羊たちを食肉加工屋に売り飛ばそうとするんだ」

「いい家令じゃないか」

「どこが!」


 兄様は呆れ顔です。実のところ、わたくしも同じ気持ちでした。どうしてこれほど頑なに、羊を売ろうとしないのでしょう。


「君が領地にかまけてばかりでは、王都の屋敷を切り盛りしている妹が寂しがるだろう?」


 兄様はさらにボソッと付け足しました。


「変な男も近づいてくるし」


 その言葉にミラベルが目を丸くします。

 けれどヒューバート様は、信頼しきった調子でおっしゃいました。


「だから、君に任せているんじゃないか。兄同然なんだからさ」


 クライヴ兄様は一瞬言葉に詰まり、すぐにトップハットのつばを下げ、目深に被り直しました。


「俺はどうやら、ミラベルの兄にはなれないな。妹はシンシア一人で充分」


 そう言って、わたくしの頭をぐりぐり撫でまわすのです。マーガレットが必死で整えたヘアスタイルが、台無しになってしまいますわ!


 ミラベルはプイッと顔を背け、真っ暗な馬車の外へ視線を投げました。


「こんな鬼妹が居たら、気が休まらないでしょうしね」


 ヒューバート様は苦笑を浮かべます。


「確かに君たち二人が揃うと、いつ喧嘩が始まるかと冷や冷やしっぱなしだ。気が休まらない」


 ミラベルが膝の上で拳を握りしめるのを、わたくしは見てしまいました。ミラベル……?


「だろう? だからヒューバートが傍にいてやらないと」

「結婚式までには戻るよ」


 ヒューバート様は、わたくしの方を見ずにそうおっしゃいました。

 もしかして、単にわたくしの傍にいたくないだけではないかしら?


 それも当然ですわよね。この醜い豚女とは、離れていた方がいいに決まっています。既に結婚しているナディーン様にまで、焼き餅を焼いてしまうような豚ですもの……。


 それに高潔な彼のこと。お金目的で婚約したのでは? という周囲の視線に晒されるのも嫌でしょう。


 わたくしが傍にいる限り、その疑念はずっと付き纏うのですから……。


 ならば、わたくしが身を潜めているべきでは? ミラベルがヒューバート様と兄妹水入らずで過ごせるように。


「羊が心配なんだよ。とにかく、一度戻らないと」


 ヒューバート様が根気よく兄様へ言ったその時、ミラベルがふと思い出したようにわたくしへ話題を振りました。


「そういえばシンシア、アーサー殿下に随分絡まれていたじゃない」


 急に話を振られ、わたくしはドキマギいたしました。隣のヒューバート様の肩に、なぜかピクリと力が入ったのが分かります。


 皆を安心させるためにも、わたくしはきっぱり主張しました。


「大丈夫でしたわ。昔のように、いじめられたわけではございません」

「昔はいじめられていたのかい? 学院で?」


 驚いたように、ヒューバート様が尋ねます。


 わたくしが彼の顔を見返すと、ヘイゼルの瞳が挙動不審に泳ぎました。


 優しい彼は、いじめられていたと聞いて動揺してしまったのね。


「いえ、本当のことをはっきりおっしゃる方だっただけでございます。わたくしは勘違いの自惚れ女でしたので」


 今思い返しても、恥ずかしくて死にそう。二度とあんな風に、自分を可愛いだなんて思わないようにしなければ!


 ミラベルが腕を組み、首を傾げました。


「あら、昔は豚とかデブとか罵られていたじゃない? たとえ本当のことでも、あれは立派ないじめよ」

「ミラベル、君はどうしてそんなキツいことを言うんだ」


 クライヴ兄様がミラベルを睨みました。


「シンシアは今も昔もシンシアだ。変わらず、誰よりも可愛い。なあ、ヒューバート」


 ヒューバート様は一瞬遅れて、上擦った声で同意されました。


「も、もちろんだとも! かか、か、変わらず可愛い!」


 ヘビントン侯爵家の兄妹は、嘘が下手なところが似ています。ミラベルは明らかに苛立った様子でした。


「お兄様たちがそんなだから、シンシアは──」

「ミラベル」


 わたくしは顔を覆って、彼女の言葉を遮りました。


「大丈夫です、わたくしは分かっているのです」


 自分が醜い豚だと、今は誰よりも知っているの。


 だって正直なヒューバート様から、過去にそう言われたのですから。


 顔から火どころか血が吹き出しそう。だからもう、容貌の話はやめて──。



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