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【番外編完結】「醜い」と嫌われた豚令嬢、三年後に元婚約者に嫁ぐことになりました ~ただし離婚前提です~  作者: ボボブラ汁
第二章 解けた魔法と新たな呪い

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誇りのある豚

 結局、ヒューバート様の代わりに、アーサー殿下がわたくしをダンスに連れ出すことになってしまいました。


 新興貴族のわたくしが王族と踊れるなんて、本来なら光栄なことなのでしょう。


 けれど学院時代の印象から言えば、彼は完全にガキ大将で、俺様ないじめっ子でした。


 王子様なのだから俺様なのは仕方ございませんが──。


 ヒューバート様との偽りの婚約が広まってからは、わたくしを見かけるたび「デブ」「豚」「成金」と揶揄ってくるようになり、当然いい印象などございません。


 社交界に不慣れなわたくしですが、ちょうど曲がゆったりしたワルツに変わり、どうにかついていけました。


 さすが王子様、ダンスはやはりお上手で、殿下のリードのおかげです。


 そこで渋々ながらもお礼を申し上げました。


「ありがとうござ……ぐぎぎ……います……ぎりぃ」

「何が?」


 シャンデリアの灯りを受けて、赤い瞳がおもしろそうに煌めきます。


「まさか殿下からダンスに誘っていただけるとは思いもよりませんでした。同級生のよしみでも」

「だって、ステイプルトン家は高額納税者だからな」


 ああ、左様でございますか。


「義理でも結果的に助かりましたわ。ヒューバート様のお披露目が王宮になってしまっては、彼が可哀想ですから」

「え? どうして」


 殿下は目を丸くされました。昔よく言っていたことではございませんか。


「この醜い豚女と美しい貴公子の組み合わせは、周囲には不快でしょうから」


 殿下は呆気にとられた後、こうおっしゃいました。


「どちらにしろ、式も披露宴もやるのだろう?」

「その時はベールでこの不格好な体を覆い隠す予定です」


 殿下はわたくしをじっと見つめ、曲に合わせてくるりと回転させました。


「……昔はこうやって回そうとしても、多分引っかかって無理だった」

「はぁ」

「今の君は豚じゃないよ」

「ありがとうございます」


 人間に昇格できたのですわね。


「学院で見かけた時はびっくりした。豚のくせに人の言葉をしゃべっているから」


 ──この人、王子でなければ殴っていましたわ!


「しかも清々しいほど自己肯定感の高い雌豚なんだもんな。参ったよ」


 こんっチキショーですわ! 顔に血が上るのが分かりました。黒歴史をいちいち抉る方ですわね!


「でも、誇りを持って豚をやってるなら、醜くはないんじゃないか?」


 誇りを持った豚とは?


「若い娘は心配になるほど痩せようとするだろ? コルセットで肋が折れそうなくらいクビレを作ったりさ」


 わたくしもよくやりましたわ。紐がちぎれてメイドと母が吹っ飛び血だらけになった時は、本当に申し訳なく思いました。


「君は食べることを選んだんだ。周囲の目や健康被害を理解した上で、それでも豚になると決めた」


 ち、違います。自分は可愛いと思っていたし、二度と栄養失調にならないようにと──。


「なあ、俺にはまだ婚約者がいないんだが……」


 話が唐突に変わりましたわね。


「殿下はこの国の王子ですもの。結婚相手を探すのは大変でしょう」


 ──性格が悪いから見つからないのですわ、と言いかけて飲み込み、無難な言葉を返します。


「まあ兄上がいるから急がんのだが……どうだい、俺にするか?」


 からかい過ぎですわ。呆れて見上げた瞬間、思いの外真剣な表情だったので、息を呑みました。


 しかも彼の目尻は下がり、瞳の輝きは炎のように揺らめいているのです。


「殿下?」


 彼からこんな甘ったるい目で見られたことはございません。今までは家畜を見るような目だったのに──。


「お、お申し出はありがたいのですが、すぐにでもヒューバート様と結婚するつもりで王都に参りましたので」

「ヘビントン侯爵家の窮乏を救うためだろう。プライドの高い彼が、それを喜ぶとは思えないがな」


 勘がいいですわ。ですがヒューバート様は領地のために決断したのです。亡きご両親から預かった大切な土地ですもの。


「苦渋の決断だと存じますわ。わたくしとでは跡継ぎを儲けられるかも怪しいのに」


 ──まあ、離婚するのでその点は大丈夫ですが。


「なぜだい? 豚過ぎて産めない体になったとか?」


 豚過ぎてって何でしょう。つまり健康を害していると思われているのね。


「いえ、おかげさまで医者には健康体だと──」

「では、ヒューバート卿の方に問題が?」

「それは……存じませんが」


 当然ディープキッスもしたことのない生娘なので、男性の事情は分かりません。


「彼は、わたくしを女性とは見なしてらっしゃらないと思うので」


 かつて裸で迫ったのに、幼児が風呂上がりに歩いているような扱いでした。


「たぶん、わたくしが全裸で歩いていても、誰も何も感じないと思います」


 自虐的に呟いたわたくしを見て、殿下は信じられないとでもいうように首を横に振りました。


「君が全裸で歩いたら、その辺りの男どもは全員死ぬよ」


 確かに見苦しいですが、死ぬほどでしょうか。


「そこまでおっしゃらなくても」

「いや、そういう意味ではなく。君は美味そうなんだ」

「まだわたくしを豚ロース認定ですの!?」

「……勘違いが凄いな、ヒューバート卿が気の毒だ」

「既にわたくしの勘違いで、多大な迷惑をかけましたわ」

「いや、そうじゃなくて──」


 ついに彼は、堪えきれなくなったかのように吹き出し、笑いだしました。


 意外にもバカにした笑い方ではなく、楽しげです。


 わたくしが困惑していると、視線を感じました。


 振り返ると、毛皮筋肉軍団から解放されたヒューバート様が腕を組み、固い表情でこちらを眺めておられます。


「おお、怖っ」


 殿下は彼の表情に気づき、ニヤニヤしながらそうおっしゃいました。


 そしてわたくしの腰に腕を回し、ギュッと密着してきたのです。


「ほら、ワルツだからもっとくっついて。次はもっとテンポが速いやつに変わるよ」


 ヒューバート様がこちらへ向かってこられました。やだ、わたくしったら。


「いけません殿下。二曲目になってしまいます。連続で殿下を独り占めしてはマナー違反ですわ。ヒューバート様にお行儀がなっていないと叱られてしまいます」


 殿下はまた爆笑しました。


「違うって。それで睨んでいるわけじゃない。やべー、おもしれー女」


 とにかく一礼して、まだお腹を抱えてケタケタ笑っているアーサー殿下を置き去りにし、わたくしは急いでホールの内側から壁際へ移動しました。


 ところが、少し表情を緩めたヒューバート様がこちらへ来ようとしたその時──彼の前に、ほっそりとした人影が立ちふさがったのです。


「ヘビントン侯爵、お久しぶりでございます」


 その女性には、確かに見覚えがございました。


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