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【番外編完結】「醜い」と嫌われた豚令嬢、三年後に元婚約者に嫁ぐことになりました ~ただし離婚前提です~  作者: ボボブラ汁
第二章 解けた魔法と新たな呪い

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こんな豚と踊らせる訳には……


 アーサー殿下はヒューバート様を押しのけ、わたくしの顎を掴んで顔を上げさせました。


「殿下っ!」


 ヒューバート様の咎める声を無視し、アーサー殿下はわたくしをつぶさに観察します。


「これは……驚いた。これがあの成金令嬢か」


 成金令嬢……。


「そうだよなぁ。侯爵家の窮乏は、ステイプルトン家くらいの金持ちじゃないと救えんもんな」

「──っ」


 ヒューバート様が言葉に詰まりました。


 それは彼にとって、まさしく辱めの言葉だったからでしょう。


 まったく、王族とはこういうものなのでしょうか!


 王太子殿下同様、アーサー殿下の表情には悪意が見えず、それがわたくしにはかえって腹立たしく思えたのです。


 わたくしは思いきり、アーサー殿下を睨みつけました。


 クライヴ兄様とやり合っていたミラベルが、わたくしの様子に気づき「シンシア、堪えて」と囁きましたが、悔しさは収まりません。


 殿下はヒューバート様を振り返り、おっしゃいました。


「シンシア嬢は学院を自主退学したんだよな。いつの間にか姿が見えなくなって、つまらなかったのを覚えているよ。ということは、ミラベルよりさらに久しい再会だ。積もる話もあるし、次のダンスを譲ってくれないか」

「しかしシンシアは僕の婚約──」

「ヒューバート様、大丈夫です」


 わたくしは慌てて彼の言葉を遮りました。


 積もる話などございません。どうせ、ダンベルのような妙な痩せ方をしたわたくしを、笑いたいだけでしょう。


 学院のカフェテラスで顎肉をタプタプされたように、今もなお部分的に体にしがみついているお肉を掴み、揉みしだくつもりかもしれません。


 典型的ないじめっ子です!


 ですが正直、これ以上ヒューバート様を辱められたくなかったのです。


 だって、わたくしは醜女で、お金でヒューバート様を買ったようなものですし……。


「アーサー殿下と踊ってまいりますわ」


 ヒューバート様がさらに何か言おうとしたその時、会場の入口からどよめきが広がってきました。


 王太子殿下が姿を現したからです。


 しかも、大きなクマの剥製を引き連れて……いえ、剥製は歩きませんわね。まさか本物!?


 わたくしを含め、ダンスに興じていた貴族たちも一様に身構えました。


 よく見れば、グリズリーではなく、顔を髭に覆われた大柄な男性たちです。その巨体に灰色の毛皮を纏っていたため、クマと見間違えたのでした。


「やあ弟よ。本日のパーティーの主賓、エロスト王国の王族がたった今到着された。鉄道を逆方向に乗ってしまったらしい」


 わたくしたちは慌てて腰をかがめ、頭を下げました。三年前、我が国が煮え湯を飲まされた北部山岳地帯の戦勝国です。


「そういう挨拶はエロストではしないそうだ。皆、顔を上げよ」


 王太子殿下が説明すると、クマ──ではなくエロストの王族の一人が前に出ました。


 そして野太い腕を突き出し、見せつけるように立てたのです。


「──????」


 アーサー殿下や周囲の貴族が戸惑う中、ヒューバート様が進み出て、同じように──ただし反対側の腕を出しました。


 グリズリーの顔が輝きます。


 二人は交差させるように片腕をぶつけ合い、次に反対側の腕をぶつけ合い、両腕を挙げてハイタッチ、最後に両手で互いを指差して「イエーッ!」と叫びました。


「斬新な挨拶だな。ヘビントン侯爵はなぜ知っている?」


 アーサー殿下が驚いて尋ねると、


「正式な貿易の開始が議会で決まりそうでしたので、先に基盤を整えておこうと、しばらくエロスト王国に通っておりました」


 ヒューバート様は控えめに答えます。


 なるほど、皆が北の蛮族と呼んで恐れていた意味が分かりました。クマの毛皮の下は裸です。


 さらに──これは……戦争に負けるのも納得です。全員が筋肉の塊。チラチラ見える胸筋はピクピク動いておりました。


 そういえば、蛮族の他に戦闘民族とも呼ばれていましたわ。


 ヒューバート様は、ポカンと口を開けて彼らを見ていたわたくしに、


「筋肉が好きなのかい?」


 とおっしゃいました。


 贅肉よりは好きです! どうやって鍛えたか聞ければ、わたくしの不格好な胸やお尻も……。


「ヒューバート、エロストの言葉が分かるなら話は早い。ちょっと彼らの相手を頼む」

「いや、言葉までは話せません。それに僕は婚約者とダンス──」

「クールハンドシェイクデキルオマエキニイッタ、サケヲクミカワソウ」


 ヒューバート様は、髭の人たちに連行されてしまいました。


 その時のすがるような目が、忘れられません。


 ──彼は立派な人です。


 婚約者としてわたくしと踊らなくては、という義務感があったのでしょう。


 しかし成金のステイプルトン家の令嬢と結婚することは、ヒューバート様にとってあまり名誉なことではございません。


 わたくしとダンスをしていれば、あちこちから「金目当ての結婚」と陰口を叩かれるはず……。


 それはプライドの高い彼が一番嫌がることに相違ありません。


 だって彼自身が、お金目当てに近づいてくる女性をあれほど嫌っていたのですから。


 そんなの、結婚披露宴の時だけで十分です。


 だからきっと、ホッとしてもいたのだと思うのです。



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