豚といじめっ子の再会
その時です。
「お、ミラベル、久しいではないか」
軽快な声がして、ミラベルがウエッという顔をしました。
鮮やかな赤毛は王族の印。王太子殿下よりさらに赤味の濃い髪と瞳をこれ見よがしに見せびらかしながら、わたくしたちに近づいてきた男性がおりました。
──第二王子アーサー殿下です。
「君は没落寸前で、ドレスも買えないのではないかと噂されていたが?」
「ご心配には及びません」
ミラベルが不機嫌に応じました。頭に来るのは分かります。しつこいようですが、羊の放牧は、元々国の推進していた政策の一つです。
ですが、まさか王族に正面きっては言えませんものね……。
「アーサー殿下こそ、先ほどは王族席にいらっしゃいませんでしたわね?」
「カードゲームの勝負がつかなくてな。ダンスの時間に遅れてしまったのさ」
貴族を含む国民から巻き上げたお金を、アーサー殿下が巻き上げられていると思うと、キャッチ&リリースのようでいまいち盛り上がらないのではないのでしょうか。
「そういやミラベル。ヘビントン侯爵家に権威があった頃は、やたらとお高く留まっていたな。学院では悪役令嬢なんて呼ばれていたが、落ちぶれた君と踊ってくれる者がいないなら、どれ。卒業パーティーのパートナーのよしみだ。俺が相手をしてやろうか?」
「その必要はございません、殿下」
クライヴ兄様が、ミラベルの手を取りました。
「今、俺がダンスの申し込みをしたところです。ヘビントン侯爵令嬢とダンスをなさいますと、殿下のおみ足が危険ですので」
「どういうことよ」
ミラベルがぷうっと膨れます。
「君が踏んづけまわって、アーサー殿下がお怪我をするかもしれんだろう。練習の時、俺の爪が割れたんだぞ」
「そこまでじゃないでしょ、大袈裟ね」
「だいたい君は、妙に浮かれて落ち着いて踊らないから──」
果てしない喧嘩が始まりそうになった時、アーサー殿下とわたくしの目が合い、彼の興味がわたくしに移ったことに気づきました。
「おや。ヘビントン侯爵、その女性は?」
じろじろ眺められ、居心地が悪くなります。散々いじめたくせに、わたくしが分からないのね……。
仕方なくわたくしは足を引いて深く屈み、儀礼的な礼をしました。いっそ「初めまして」とご挨拶してもいいくらいだわ!
ふと……何かこう、胸の辺りにチリチリと視線を感じました。
「おっぱ──ふむ、俺がこんなけしからん体つきの女性を知らぬとは思えないのだが」
え? と顔を上げて殿下の方を窺うと、アーサー殿下の赤い瞳がトロンと潤んで見えました。
しかしすぐに、ヒューバート様の背中がわたくしの視界を遮ります。アーサー殿下から隠すように、わたくしの前に立ったのです。
隠しつつも、わたくしを殿下に紹介してくださいました。
「急遽婚約いたしました、ステイプルトン家のシンシア嬢です」
本当は、紹介するまでもないのですけどね。だってお話ししたことがございますし。ていうか、めちゃくちゃオモチャにされていましたし。
ところがアーサー殿下は、長身のヒューバート様の背後にいるわたくしを、背伸びして覗き込み、そして首を捻りました。
少し間があってから、おもむろに口を開きます。
「だれ?」
「ステイプルトン家の、シンシア嬢です」
「──は?」
「シンシア嬢です。アーサー殿下の同級生の」
殿下は、さらに考え込んでからおっしゃいました。
「もう一度申せ、ヒューバート卿。誰と?」
「ステイプルトン家の、シンシア嬢です」
年輩の御老人におっしゃるように、ゆっくりはっきり説明すると、ようやくアーサー殿下は言葉を聞き取れたようです。
いえ、それでも理解まではできなかったのでしょう。
「君の婚約者だった?」
「ええ」
「百貫デブの?」
「……もう少しふくよかでしたが」
「ば、ばかな」




