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【番外編完結】「醜い」と嫌われた豚令嬢、三年後に元婚約者に嫁ぐことになりました ~ただし離婚前提です~  作者: ボボブラ汁
第二章 解けた魔法と新たな呪い

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豚と貴公子のデート

 本日は予定どおり、教会の予約とドレス採寸の日です。


 身支度を整えながら、わたくしは顔の緩みを止められませんでした。


 ヒューバート様とドレス選び!? この身の程知らずの豚めが、貴公子ヒューバート様とデート!?


 嬉しいっ! 嬉しいっ!! うれし──ハッ!


 わたくしは我に返り、自分の頬をパチンと叩きました。


 デートではないのよ、しっかりしなさいシンシア。


 これはステイプルトン家に課せられた義務なのです。ヒューバート様の妻となり、債務返済に協力し……んふっ……ふふふっ……だめ、どうしても顔がニヤけてしまう。


 でもね……わたくし思うの。


 どうせ離婚するのだし、そのわずかな時間を思い切り楽しんだっていいのではないかしら。


 もうどなたとも結婚するつもりがなかったわたくしが、名ばかりとはいえ、ヒューバート様の花嫁を務めるのです。妻でいる間は、独り占めできるの!


 それだけではございません。ヒューバート様の「元妻」「前の奥様」って、一生呼ばれるではございませんか!


 ──ええ、今は独り身です。ですが、この醜い豚肉のわたくしだって、過去に結婚くらいしたことがございますのよ? え? どなたか知りたいの? かつて高嶺の令息と呼ばれたヘビントン侯爵ですわ──


 老後、こんな昔話をして周囲を驚かす自分の姿が浮かびました。お爺様方の武勇伝みたいなものです。


 そうですわ、今このときを楽しんでもいいではございませんか!


 お買い物して、公園を散策して、王都で大流行しているアイスクリーム屋さんに寄って、テラス席で休憩して、おしゃべりを──ナディーン様のこと以外の話題で──するのです!


 紛れもなく今日は、二人きりのデートなのですわ!


 そう思ったのに……。


 出発する時、ちゃっかりクライヴ兄様とミラベルが馬車に乗り込んできました。


 この豚めが危うくまた身の程知らずなことを考え始めたから、戒めの力が働いたのでしょうか……。


 わたくしの恨めしそうな視線に気づいたのでしょう。クライヴ兄様はトップハットのブリムをステッキで持ち上げ、片方の眉毛を上げてみせました。


「君たちがお出かけするのに、俺だけ仕事というのは耐えられんからな」

「そうよそうよ、ヒューバート兄様がシンシアを独り占めなんてずるいわよ! やっと会えたのに」


 お兄様とミラベルったら、こんな時ばかり息ぴったりですわね……。


 なのにブティックが立ち並ぶ通りに着くまでに、何度も大ゲンカが始まりそうになり、冷や冷やいたしました。


 この二人、どうして喧嘩ばかり……。


 その時、わたくしの呆れた顔に気づいたミラベルが言いました。


「そういえば、シンシア。昨晩のディナーでも思ったのだけど、もう少し華やかなドレスは無いの?」

「わたくし、あまり人の目に触れたくないの」


 せっかくのお出かけですが、わたくしがお洒落しても見苦しいだけだもの。


 黙ってしまったわたくしに、ミラベルは首を傾げます。


「昔はピンクのフリフリが好きだったのに……。でも今のシンシアは、違う意味で着飾らせてみたいわね。披露宴のカラードレスは私がチョイスするわ!」


 クライヴ兄様が口を挟みます。


「チョイスも何も、ゴールド一択だろ。式が白なんだからさ。本物の金箔を貼り付けてもいいくらいだ」

「シンシアが社交界の金の(シャチホコ)ってダサい二つ名で呼ばれてもいいの!? センスが成金すぎて笑っちゃう!」

「なにをぉ」

「なによ」


 また喧嘩ぁ……わたくしのドレスなんですけど?


 ヒューバート様の方に恐る恐る目をやると、困ったように二人を見ておられました。


「君たち、ちょっと静かにしてくれないか」


 ヒューバート様はやっとそれだけ言ったものの、クライヴ兄様とミラベルにあっけなく無視されていました。


 結局二人は目的地のウェディングドレス専門店に着くまで、ずっとギャンギャン騒いでいたのです。


 この二人こそ本物の兄妹ですわ。よく似ております。


 ドレス選びはとても楽しかったのですが、試着用のドレスを体に押し当てて姿見を見ると、憂鬱になりました。


 クリームブロンドの髪もやたら白い肌も、色素がぼんやりしていて、ドレスとの境界が曖昧になってしまうのです。


 それに、胸とお尻は相変わらず太っていて、なんだか蜜蜂かダンベルみたい。


 分かっていたことですが、ウェディングドレスって膨張色なのですわね。


 三代前のイザベラ王妃が隣国から嫁いできた際、白のドレスで式に臨んだことから、そういう慣習ができてしまったのです。迷惑ですわ。


「不格好この上ないですわね」


 鏡に向かって、小さく呟きました。


 ミラベルのようにスラリとした体形だったら、どれほど純白が似合ったことでしょう。


 せめて艶やかな黒髪なら……。


 その時、ヒューバート様がお店の店員らしき人を連れてきました。


 ちょっと内股で歩くこの店員さん、実はこのお店のドレスを全部作っているデザイナー本人だったようです。


 嬉々として、生地のサンプルや最新のデザイン集を見せてくれました。


 ……小指が立っているのが、ちょっと気になりますわ。


 やたらヒューバート様に馴れ馴れしいそのデザイナーに、わたくしは警戒してしまいます。


 この方、鮫令嬢たちと同じニオイがします! ヒューバート様にばかり話しかけてますわ!


 すると、デザイン集を覗き込みながら、ヒューバート様がおっしゃいました。


「僕の意見はいいから。シンシア、君が好きな物を選ぶといい」


 わたくしはしょんぼりしました。これは……この豚めの着るドレスになど、興味ないということなのでしょうか。


 いえ、もちろんこの醜い豚は、一緒に選んでほしいなんて贅沢を言っているわけではなく──。


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