許すも何も、この身の程知らずの醜い豚が全面的に悪いので
ヒューバート様はわたくしの手を取り、ガス灯に照らされた夜の庭園を抜けて、ガラス張りの温室へと導いてくださいました。
久しぶりに彼の手の温かさを感じ、泣きそうになってしまいます。
昔は、この手はわたくしをヨシヨシするためにあるのだと思っていたのです。…… 違う女性をヨシヨシするためのものだなんて、考えもしませんでした。
温室の扉を開けると、甘い匂いが鼻をくすぐり、ヒューバート様が深く息を吸うのが分かりました。
「すごいね。これは南国の花かな」
わたくしは嬉しくて仕方なく、また、沈黙が落ちるのが怖くて、早口でまくしたててしまいました。
「クライヴ兄様にお願いして、南部の農園の果物が王都で育つか試していますの。アポーやオパイナポー、ママイヤやチンゴスマン、生で召し上がったことはございますか? わたくしの農園のフルーツは格別ですわ! 開発中のフルーツフラワーも、いつか王都で育てられるかもしれません!」
彼は黙って聞いていましたが、やがてぽつりと呟きました。
「君たちはすごいね」
わたくしは首をひねりました。すごい? 醜くてすごい?
「僕ら古い貴族は、祖先から受け継いだ土地の恩恵を享受するばかりで、還元してこなかった。羊は失敗だった。君から警告されていたのに」
──でも、それは国からのごり押しもございました。あまりご自分を責めないでいただきたいのです。
彼は温室のティーテーブルの椅子を引き、わたくしに勧めました。
「どうしても伝えたかったことがある」
彼も向かいに腰を下ろし、そう切り出しました。
「三年前、僕は君に酷いことを言った。申し訳なかった」
頭を深々と下げられ、わたくしはその王冠のような金髪を惚れ惚れと眺めました。
当時、この輝きを手に入れるためなら、どんな卑劣なことでもしたでしょう。
わたくしは、ヒューバート様の人の好さに呆れました。
──わたくしは、あなたの初恋をぶち壊したのですよ? 謝らなければならないのは、わたくしなのに。
「わたくしが全面的に悪かったのです。どうか、顔を上げてください」
「ナディーン嬢のことは、もういいんだ。君は自分の居場所をクライヴに口止めして、僕が直接謝りに行くことを拒んでいただろう? ……怒っているのかと……もう嫌われてしまったのではないかと思ったんだ」
「まさか!」
「君を傷つけたこと、ずっと気になっていた。僕を許してくれるかい?」
「許すも何も」
わたくしは微笑みました。
「この醜い豚めが、取り返しのつかないことをしたのです。ヒューバート様から謝罪されたら、立つ瀬がございません」
ヒューバート様はぽかんと口を開け、戸惑ったように聞き返しました。
「……いや……え? なんだって?」
「わたくしのような醜い豚が、身の程も知らずにもヒューバート様の恋の邪魔をしてしまったので」
彼の顔からみるみる血の気が引いていきます。
「だ、だからあれは言葉のあやで──」
狼狽えるヒューバート様の様子に、わたくしが首を傾げたその時──
「お嬢様~! 王都は冷えるべさ!」
農園から同行したメイドのマーガレットが、湯気の立つティーセットのトレーを頭に乗せ、膝掛けを両腕に抱えて危なっかしく庭を走って来たので、話はそこで途切れてしまいました。




