この豚めと話したい?
夕食後、お父様は撞球室へ、クライヴ兄様とヒューバート様を誘いました。
ヒューバート様は一瞬こちらを見ましたが、お兄様に引きずられるように連れていかれ、その後は長い間ビリヤードに興じておりました。
忙しい日々が続いていたので、男三人でゆっくり過ごすのは久しぶりだったのでしょう。
その頃、お母様とミラベルとわたくしも、パーラールームでお茶をしながらおしゃべりに花を咲かせておりました。
「まだまともに、ヒューバート兄様と話してなくない?」
ミラベルがそう言いましたが、正直、何から切り出せばいいのやら……。
出会い頭にはミラベルが居たので、ナディーン様の件を謝ることもできませんでした。本来なら真っ先にそうすべきだったのに……。
わたくしが黙っていると、お母様が助け舟を出してくださいます。
「久しぶりだから恥ずかしいんじゃないかしら。シンシア……ほら、変わったでしょう? 若い子の三年は大きいものよ」
確かに以前より変わりました。けれど──。
わたくしは未だに見苦しいままの、自分の胸を見下ろしました。
そこにあるのは、ヒューバート様がわたくしの顔から視線を下げた直後、片手の甲で口を押さえ露骨に目を背けた脂肪の塊です。
「まあ、たしかに。お兄様、話しにくくなったわね。前よりずっと気難しくなった」
ミラベルの何気ない言葉に、胸がズキリと痛みました。
その理由を、わたくしは知っているからです。
彼の初恋を壊したのはわたくし。
そして今度は、お金で釣って妻の座に収まろうとしている……なんと、俯瞰して見れば、とんでもない悪女ではございませんか!
悪女というのは、ミラベルのような気の強い美女がなってこそ絵になるもの。
わたくしのような醜女では救いようがないですわ……。ただの悪役です。
己の立ち位置に震え上がりました。
ヒューバート様の嫁が、醜い悪女だなんて……。
「ミラベル、あなたの結婚はどうするの?」
お母様が、親友だった前侯爵夫人の娘に、もっともな問いを投げかけました。
彼女は一気に暗い顔になります。
「うーん。お兄様ったら、羊も先祖代々の土地も頑なに売ろうとしないから、持参金は用意できないかも。でも持参金に釣られてくる人とは結婚したくないし、むしろ良かったわ」
「侯爵家の令嬢に失礼かもしれないけど、あなたは娘も同然なの。持参金はステイプルトン家が持ちます」
お母様がそう言うと、ミラベルは宙を仰ぎ、溜息をつきました。
「お兄様が許さないわ」
優しげな見た目によらず、頑固ですものね……。
「それに私も、夫人やシンシアのように仕事をしたいと思っているの」
「ええええ?」
ミラベルの言葉に、わたくしは仰天しました。侯爵家の令嬢なのに働く!?
「時代はどんどん変わっているわ。貴族の女性の選択が結婚か家庭教師くらいだなんて、もう古いのよ。シンシアを見てカッコイイと思ったの」
長引いた戦争の後、当主を失った貴族の家門も増えました。女子が相続できるよう議会で議論されているとも聞きますし、確かに世の中は変わりつつあります。
「いいわ、ミラベル。わたくしと共同経営者になりましょう! 農園経営をみっちり教えてあげる」
「わーい、嬉しいわ」
二人で手を取り合ってはしゃいでいた折、パーラールームの外からヒューバート様のお声がいたしました。
「シンシア、少しいいかい」
わたくしは思わず目を丸くいたしました。わたくしに話しかける声のトーンも、昔とはまるで違っております。
昔は「おいちぃでちゅかー?」とか「キャワユイでちゅね~」と、一オクターブ高くなっていたのですが……。
それが今では、背筋を這い上るような、低く落ち着いた声になっておりました。
やはりあんな仕打ちをしたわたくしを、昔のように可愛いとは思えないのでしょう。
わたくしが緊張しながら立ち上がると、彼は室内のお母様に恭しく頭を下げました。
「団らんのところ申し訳ございません、夫人。シンシアを少しお借りいたします」




