この豚めに天罰がくだったのですわ
わたくしはフォークを手に取らず、痛そうな先端をじっと見つめておりました。
そして、ぽつりとミラベルに言ったのです。
「よく考えたらヒューバート様、学院を卒業してすぐ当主になったのですもの。大変だったでしょうね」
遠縁のナディーン様を救うことも、当主として完璧であるために必要だったのかもしれません。
やだ……負け惜しみみたいで、醜い。
もちろん、それだけではないことも分かっております。
あのナディーン様は……わたくしの膝枕では癒せなかった何かを持っていたのでしょう。
彼女となら結婚したいと判断させる要素……きっとわたくしには無かったものです。
なんとなくですが、彼女が見せた裸に関係しているような気がしました。
あらためて、自分のしたことに怖気が走ります。あの女性嫌いのヒューバート様が、唯一自発的に結婚しようとした女性を、わたくしは……。
「食べないの?」
ミラベルが声をかけました。
「え?」
「お昼よ」
「食べましたわ」
綺麗になったお皿を持ち上げて見せると、ミラベルはメニューを広げながら言います。
「今日もサラダしか食べてないじゃない」
婚約破棄以来、わたくしは飲み物とサラダだけでランチを済ませるようになりました。
以前は隠れ食いを取り押さえられるほど食べていたのに、今ではおかわりどころかサラダだけでご馳走様ですものね。
ミラベルが気にするのも当然です。
でも、何を食べても砂を噛んでいるように味がしないので、どうしようもありません。
やがて、食事のたびにすぐフォークを置くわたくしを、ミラベルは本気で心配するようになりました。
「医者を呼ぼう」
ある日、痩せていくわたくしを見かねて、クライヴ兄様がおっしゃいました。
一時期は食べさせないように必死だったのに、今度は食べないことを心配しているのです。
お粥を手に、彼は深刻な顔をしています。
「そんな不健康な痩せ方をしてほしいわけじゃないぞ、シンシア。健康的に痩せてほしいんだ」
大好きなお兄様のために食べようと頑張りましたが、ついには吐いてしまい、言われたとおり受診しました。
「精神的なものだね」
医師はあっさり言いました。
「円形脱毛症にもなってる。気づいてた?」
ええ!? わたくしより先に、クライヴ兄様が頭をのぞき込みました。
「うわっ! 本当だ!」
お医者様が髪を梳くと、櫛にごっそりとクリームブロンドの癖っ毛が残りました。
「まだ抜けるね。どんどん広がっていくと思うよ。空気のいいところで休みなさい」
それを機に、わたくしは学院を辞め、王都から離れることを決めました。
お父様は南部の地主から土地を買い、大規模農園を始めていたので、そちらの屋敷で暮らすことにしたのです。
ミラベルは大変悲しみました。
ヒューバート様は領地に引きこもり、うちの両親も王都に戻ることが少なくなっていたので、わたくしまでいなくなれば彼女は寂しいでしょう。
元気になったら戻ると説得しました。正確には、頭を見せて納得してもらったのですが……。
その頃には髪がほぼ抜け、ボンネットで隠さなければならないほど──いえ、正直に申しますわ、ツルッパゲになっていたのです。
バチが当たったのですわね。




