わたくしは醜い豚なのでございます
わたくし、まだ子供でした。エゴイストだったのでございます。
ヒューバート様を自分のものにしたくて、彼自身の幸せを考える余裕がなかったのです。
自分への愛が勝っていたのでしょう。振られても、仕方なかったの。
婚約破棄を切り出したのは、契約通りわたくしからということになっておりますので、クライヴ兄様はわたくしが彼を嫌いになったのだと思ったようです。
原因をしきりに聞きたがりました。
「どうした? 遠くに嫁に行くくらいなら、そのまま結婚してもよかったんだぞ? いつでもこのお兄たんに会えるし」
お兄様、その目論見は失敗したのですわ。わたくしだって、そうしたかったのに……。
ミラベルにすら、詳しい事情は話しておりません。二人ともそれぞれ違う理由を想像し、わたくしを慰めてくれました。
「嫌になるのも分かるわ。ヒューバート兄様って昔からデリカシー無いのよ。クライヴと同じで」
「あいつ、君のオヤツを食べちゃったのかい? でもそれは俺が手紙で頼んだんだ。シンシアが食べすぎないようにって」
……本当のことは申せません。二人ともわたくしの味方をしてくれる気がするからです。だからこそ、ヒューバート様を責めてしまうのではないかと。
でも、違うのです。わたくしが彼の信頼を裏切ったの。彼の嫌うあさましい鮫令嬢に成り果て、愛し合う二人の仲を引き裂いたの。
この身の程知らずの醜い豚が、ヒューバート様の初恋をダメにしたのです。
恥ずかしくて、情けなくて、本当のことは言えませんでした。
「わたくし、違う方と恋をしたくなったの。彼からの婚約を受けたのは若気の至りだったわ」
仕方なく、ミラベルと家族にはそう説明しました。
そして卑怯にも「この話はもう聞かないで」と釘を刺したのです。
あの時のクライヴ兄様の、ショックを受けた顔といったら……。
※
ヒューバート様がフリーになったことは、瞬く間に世間へ広がりました。
そしてすぐさま、わたくしという婚約者の存在は無かったことになっていました。
高嶺の令息とこの醜いブタが婚約していたなんて、信じたくなかった人がほとんどだったのでしょう。
まあ、ありがたいことではございます。だって、ヒューバート様にこれ以上恥をかかせずに済みますもの。
ひどい仕打ちをした上に、彼の人生の汚点となるのは忍びないですわ。
ただ、学院内では散々でした。
「デブのくせにヒューバート様を振るって何様ですの!?」
「本当はあちらから振ったんでしょ?」
「けっきょくD専じゃなかったってことね?」
「どうしてくれんの! ダイエットしなきゃ!」
肥満率の高くなった学院で、怨嗟の声がわたくしに降りかかります。
ですが、甘んじて受けました。ヒューバート様がD専だという噂を信じさせてしまったのは、わたくしの責任ですもの。
本当は「彼に付きまとわないで」と言いたかったけれど……そんな資格はございませんわね。
ナディーン様と破局した今、ヒューバート様は新しい結婚相手を探さねばなりません。
侯爵家には跡取りが要る。女嫌いだから、などとはもう言っていられないはず。
たとえ相手がこのあさましい鮫令嬢たちでも……いつかは……。
あ……わたくしも、その一人でしたわね。
唇を噛み、黙することしかできませんでした。
「お兄様、領地から帰ってこないわね」
ミラベルに言われて、わたくしはフォークを置きました。
カフェテリアは──席は上流クラスと異なりますが──共同施設なので、最近はここで彼女と一緒に食べております。見渡すと、席はガラガラです。
学院のカフェテリアから大食いブームが去ったのは、やはりわたくしが振られた体になっているからでしょう。
第二王子アーサー様など、すれ違いざまに振り返りながら、両手でわたくしを指差して「う~ん、デブ!」と指摘していきます。
分かっておりますったら……。いつものように「それが何か? でもわたくし可愛いですわ」と毅然と言い返さず萎れるだけのわたくしを見て、怪訝そうにしていたのがちょっとおかしかったです。
わたくしの中の「ふくよかな女性は可愛い」神話は崩壊しました。どうやら限度があるようですわね。
ヒューバート様に振られたことで、完全に目が覚めました。
わたくしは、醜い豚なのでございます。




