邪魔者はわたくしですの?
ヒューバート様は、いつものヒューバート様でいらっしゃいました。
だって、ご自分を狙う女性が苦手なだけで、人嫌いなわけではございませんもの。
むしろ、人当たりの良い親切な方なので、この対応は極めて自然なものです。
それなのに、モヤモヤしてしまうわたくしは、なんと狭量なのでしょう。
「お父様ったら、ずっと酔っぱらっていて……何をしにここへ来たのやら。わたくし、恥ずかしいわ」
「ナディーン嬢、君がしっかりしているから大丈夫だよ。僕は尊敬している」
ヒューバート様は、慰めるために──あくまでも慰めるために!──ナディーン様をそっと抱きしめたのです。
その瞬間にナディーン様の頬が薔薇色に染まったのを見て、わたくしの胸はさらにモヤッといたしました。
もうっ……ヒューバート様は、ご自分の無自覚な行動が周囲に与える影響を、まるで分かっておられません。
ナディーン様は、わたくしの存在を忘れているかのようでした。
もしかすると、屋敷に仕える使用人の一人だとでも思っていたのかもしれません。
わたくしは、二人の世界にならないよう、強引に話に割り込みました。
「ハ、ハートフィールド伯爵領の一部が、北国エロストに割譲されたという記事を、新聞で拝見しましたわ」
ええ、もちろん同情もしております。ある日を境に、自分の領地が減るのですから。
ところが、ナディーン様は目を丸くなさいました。
なんと申しましょうか……わたくしが人間の言葉を話すとは思っていなかった、くらいの驚きようです。
「いま、人語を発しましたわ!?」
本気でそう思っていたようですわね!
ヒューバート様は首を傾げました。
「何がですか?」
「コンニャクシャとやらが」
「婚約者です、ナディーン嬢」
ヒューバート様が訂正なさいました。
「れっきとした人ですよ」
婚約者の紹介に「人ですよ」と、説明が必要だとは思いませんでした。ヒューバート様も、言ってから気づかれたのか、妙な顔をしておられました。
わたくし、どうにもこのナディーン様が気に入りません。
どうやら、あちらも同じだったようです。
わたくしたちの間に、火花が散りました。
でも、それも一瞬。ヒューバート様の遠縁ということですので、仕方なく愛想を振りまくしかございません。
「どれくらい、このお屋敷にご滞在の予定ですか?」
少々刺々しい口調になってしまったかもしれません。ナディーン様が唇を噛み、俯いてしまわれたからです。
「わたくしは……」
ヒューバート様がわたくしに目配せし「静かに」と合図なさいました。
「いつまでもいてくれて構わないよ。お父上は、アルコール依存症専門医に診せよう」
「お母様が亡くなってから、とくに酒量が増えて……。お兄様は跡継ぎのくせにギャンブルに走ってしまい、わたくし、どうしたらよいか分かりません」
しゃくりあげて泣き出してしまったナディーン様。わたくしも、どうしてよいか分からず、オロオロしてしまいました。
代々貴族として生まれた者は、働くことを軽蔑する傾向がございます。
ですから地代収入が減っても現実を見ず、ナディーン様のお父様やお兄様のように、お酒や薬物、ギャンブルに逃げる方が増えてきているようです。
まったく、国営カジノは失策でしたわね!
新興貴族は違います。わたくしの家も一時期は困窮し、死ぬような思いをいたしましたが、どんな困難にも打開策を見つけ出す強さがございました。
お父様は「転がっている儲け話に目がない性分」とおっしゃり、お母様はその補佐を見事にこなされました。クライヴ兄様も学生の頃から起業し、経営の幅を広げております。
しかしながら、ナディーン様のお父上は根っからの貴族。領地のことは家令に任せきりで、自ら動くつもりはないのでしょう。
「あの……申し訳ございませんでした。わたくしも、ナディーン様が滞在されることに異論はございません。だって、ヒューバート様のご親戚ですもの」
おずおずと申し上げましたが、ナディーン様は、わたくしの意見など初めから気にしていないようでした。
「ナディーン嬢、どうかあまり気に病まないで」
「ですが、わたくし……父を見ているのが辛くて──」
それ以上、二人の会話には入れませんでした。
わたくし、まるで邪魔者のような気分になったのでございます。




