嘘も百回言えば真実になるのです
その日から、わたくしは本気を出しました。
彼に近づこうとする令嬢たちに、いかにわたくしたちが仲睦まじいかを吹き込んでまわったのです。
けれど皆さん、なかなかわたくしたちカップルのラブラブっぷりを信じようとしないのですもの。嫌になっちゃう。
そのせいで、婚約者がいるにもかかわらず、お見合いの申し込みがヒューバート様に送られてくるのですわ。わたくしがもっと頑張らなくては。
学院は噂を広げるにはうってつけの温床です。初めは誰も信じなかった婚約話でしたが、わたくしの地道な広報活動によって、徐々に生徒たちの間に浸透していきました。
もちろん、わたくしたちが愛し合っていることを認めたくない嫉妬深い令嬢たちから、さまざまな嫌がらせを受けましたけれどね。
階段を下りる時に足を引っかけられましたが、引っかけた令嬢の方が落ちていきました。わたくしを簡単に動かせるとお思いなの?
座ろうとした椅子を後ろに引かれましたが、あいにくわたくしのお尻は天然のクッション。痛くもかゆくもございませんわ。
他にも「デブ!」だの「ブス!」だの、常套句をぶつけられました。けれど、わたくしには何ら効き目はございません。だってデブとブスは同義語ではございませんもの。
わたくしは太っているかもしれませんが、ぬいぐるみのような癒し系。とても可愛らしいのです。
お分かりかしら? わたくしとヒューバート様との間には、もう誰も入り込めないの。
「我ながら結婚前にイチャイチャしすぎるのはどうかと思いますけど、わたくしとヒューバート様は三時間近くチュウをしていたことがございますわ。どちらが先に唇を放すか競争しましたの」
それを聞いた令嬢の中には、吐き気を催してトイレに駆け込む方もいらっしゃいましたが、きっとウブなのね。唇にキスなんてしたら妊娠してしまうかもしれないもの。
でもこれくらい言わないと、わたくしのヒューバート様が取られてしまいそうな気がしたのです。
自分で言った妄想は、いつしか現実のように思えてきました。わたくしとヒューバート様は本気で愛し合っているのだと。
「まあ、D専ってのは一定数いるからな」
ある日、そんな声がわたくしの耳に届きました。教室のすぐ外の廊下に、あまり見かけない──おそらく別の学年かコースの生徒──集団がいたのです。
どこかで見たことがあるような気がしますが、どなただったかしら?
声高に話しているその方は、ヒューバート様ほどではございませんが、ハッと目を引くイケメンです。けれど、その目つきはいかにもいじめっ子のそれでしたので、わたくしは警戒いたしました。
「みんな諦めろ、クリスティーナ嬢もだぞ。ヘビントン侯爵の目に留まりたいなら、暴飲暴食に明け暮れたまえ」
見覚えのあるその方は、ついに仲間を伴って教室内に堂々と入ってきたではございませんか。態度が大きいですわね。どなたなの?
「これくらいになるには、相当食わないとダメだからな」
初対面なのにわたくしの頭をポムポムするので、思い切り手を振り払いました。
「わたくしの頭にポムポムしてよいのは、婚約者のヒューバート様だけですわ!」
相手は目を丸くします。
「シンシア、ダメよ」
ミラベルの声がしました。見れば、教室内を覗き込んでいる彼女と目が合いました。わたくし驚いてしまいました。ミラベルとは別の校舎なのに、何をしにきたのかしら。
「そのお方は、第二王子アーサー殿下よ」




