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23/25

4-5


「先輩ー!こっちの魔物がもうじき力尽きますよー!」

「うはははは!少し待ちたまえ!今行くよ!!」


抜けるような青空の下。地球よりも透明な風が吹く草原の中で、珍しく白衣をきちっと着込んだ刻止がペンを踊らせる。

バインダー代わりの木の板に貼り付けた紙の端をトントン突きながら歩く姿は旧校舎の夕影に見たそれと同じで、しかしその表情はずっと楽しそうだ。


実際刻止は非常に楽しんでいた。

たとえそのせいで爽やかな草原を大量の魔物の死骸で台無しにしていたとしても、知ったことではない。

彼にしてみれば広々とした素晴らしい景観など、紙に滲むインクより気にならないものなのだから。


さて、何故このような景観破壊に勤しんでいるのかといえば、昨日バーバの店でこの世界の毒を知ってしまった事が原因だ。

朝イチで冒険者ギルドに顔を出した二人は、受けられる討伐依頼をすべて受けてここ…ファーン平原にやってきたのである。

…実験をするために。


讃良の氷で拘束し、毒薬を投与。

その後どうなるかを観察した結果が刻止の綴った文字列であり、この有り様だった。勿論、投与する毒薬の中には刻止の毒も含まれる。


「ふむ、やはりこの世界の毒薬ではどの魔物もまるで体力が減らないね。ゴブリン、グラスウルフ、ファットラット、タイニーボア…うん!皆元気いっぱいだとも!毒状態も消えてしまっているみたいだし、もういいかな。さて、我輩クンの毒は…」

「先輩!ゴブリン53-Cに解毒薬投与しました」

「そのまま見ていておくれ。っと、グラスウルフ33-Eは投与後四十分で絶命か…」


揃いの黒縁メガネを指で押し上げながら魔動式時計と紙面を交互に見つめる二人は、冒険者というよりどこぞの調査員だ。

ここを通る顔見知りの冒険者達に二度見された数は両手でも足りない。


ちなみに、このメガネはルミルのすすめで買った魔道具である。

相手の生命力を可視化できる…要するに、HPバーが見えるようになるすぐれものだ。

壊れやすい上に自分よりレベルが上の相手には使えないが、安価な量産品なので駆け出しの冒険者には丁度いい一品だとか。

事実、刻止達にも大いに役立っている。…主に、正確な死亡判定をするために。


「あ、先輩!ゴブリン53-Cが死にました!解毒薬投与から三分です」

「うはははは!コレで今生きているのは…バーバ殿の毒薬を投与した群だけだね!よし、讃良クン!キリもいいし、遅くなったが昼にしようじゃないか」

「分かりました。あっちに見晴らしの良い場所がありましたから、行きましょう」


刻止とピクニックだと浮かれた讃良は、自分がこの光景を生んだ一人であるのに悪びれもせず「ここは空気が悪いですし」と刻止の腕を引いたのだった。勿論、トドメは忘れずに。


二人が狩り尽くしたのか、はたまた恐れをなして逃げ出したのか。

讃良がいい場所と称した小高い丘までの間、ただの一匹も魔物が襲撃してくることは無かった。実に平和な昼である。


シートを広げて腰を下ろしてもそれは変わらず、まるで本当にピクニックだ。

讃良は露天で買ったパンに具を見栄え良く挟み、紙とにらめっこする刻止へと甲斐甲斐しく渡していく。

尚、途中途中で"あーん"チャレンジを試みているが、すべて失敗したとだけ言っておこう。


「…うむ!大体分かってきたね!我輩クンの毒とこの世界の毒について」

「はい。何と言うか…」

「「まるで別物だね(ですね)!」」


実験に付き合わせた大量の魔物達を思い出しつつ、二人はそう声を揃えて答えを出した。

迷いなく言えるくらいには刻止の毒とエーデライズの毒はその中身が違っていたのである。


まずエーデライズの毒だが、どの魔物でもバーバ印の毒薬を投与してしばらくは生命ゲージが減少し続けた。

とはいえ、ほんの少し…良く見れば減ったかも?程度の、もはやアハ体験に近いレベルであったが。

おそらくは、これが"どく"という状態異常なのだろう。


しかし、個体や魔物の種類によってバラつきはあったものの、一〜三分もすれば生命力の減少は止まってしまう。

つまりは状態異常から回復してしまうのである。

この間に減った生命力などどう見ても一割にすら満たず、どく状態が消えた途端自然回復によって減るのにかかった半分の時間で満タンに戻ってしまうのだから、刻止はいっそ笑ってしまった。


毒薬の量を増やせば多少は生命力を削る力や持続時間が増すものの、ほぼ誤差の範囲と言ってもいい。

何より、程度はどうあれ解毒薬を使用した途端忽ちどく状態は消えてしまうのだ。ならば、この世界的には毒の強さなど正しく誤差なのだろう。

唯一、どく状態中は自然回復が止まるらしいという発見がプラスの収穫か。


一方で刻止の生成する地球の毒だが…エーデライズの毒を知った後だと、その異常性が浮き彫りになった。

まず、この平原にいる魔物であれば問題なく効く。それはエーデライズ産と変わらない。

問題なのは、その効き方だ。


「うはははは!確かになるべく即効性のあるものを選んだが…まさか可視化するとあのようになるとはね!」

「指数関数的…と言うんでしょうか。最初は何ともないと思ったら、後から一気に削っていきましたね」


地球産の毒とエーデライズ産の毒の違いはいくつか見つかったが、そのうち一つが即効性である。

毒薬は使用してすぐ魔物をどく状態にしたが、刻止の生成した毒は投与後しばらくはなんの変化も起こさなかった。

しかし、時間をおいて毒が回ったのだろう瞬間に恐ろしい事が起こったのである。


痙攣をし始めたゴブリンの生命力が凄まじい勢いで減っていく。

喘ぐような呼吸をし始めたグラスウルフの生命力ゲージが、動き始めたかと思えば一気に消し飛ぶ。

中にはじわじわと生命力を削るものもあったが、その減り方は毒薬の比ではなかったし、止まる様子もなく容赦なく端まで削った。


そう、彼の愛する地球の毒は目に見えてその凶悪性を叩きつけてきたのだ。

これには毒狂いもにっこり。頬が恋する乙女のように薔薇色に染まるのも致し方ないといったところか。


とはいえ、考えてみれば当然だろう。何せ彼が今回選んだ毒は、呼吸停止や心臓麻痺を引き起こすようなものばかりだったのだから。生命力…命をゴリッと持っていくに決まってる。

頭では分かっていても可視化されるとあまりの容赦無さに改めてその恐ろしさを実感した。


そして、何より恐ろしいのは…


「それにしても…解毒薬、ちっとも効きませんでしたね」

「世界が違うもの同士だからかな?泥に杭ってやつだったとも!」


解毒薬がまったく効かなかったことである。

症状が出た後でも、出る前でも…いつ使用しても毒は消えず、その効果を弱めることすら出来なかったのだ。

予想はしていたが、刻止はこの事実に手を叩いて喜んだ。「さすが!推しは最凶!!」と。

ペンライトの代わりに試験官を振り回したい気分である。

取り敢えず、うちわに書く文字は"侵して♥"に決めた。

ファンサによって比喩ではなく死ぬ。


「他の状態異常回復薬はどうだったのかね?」

シビレトール(麻痺消し)気付け薬(混乱解除)、癒病丹(病治し)、覚醒丸薬(眠気覚まし)聖水(解呪)清浄薬(腐敗除去)…どれも効果無しでした」

「うはははは!」


お気に入りのヒーローが活躍した時の子供よろしくきゃらきゃらとはしゃぐ刻止の手から、サンドイッチの具がポロポロと落ちた。讃良は聖母の笑みでそれを回収して自分の口へ入れる。


ぱっと見穏やかで美しい昼食風景だが、会話の内容は最悪だし、間接キスだと嬉しそうに呟く讃良の表情もまたヤバかった。


「後は魔法が効くかどうかだね」

「光魔法の『癒光(キュア)』とかですよね。…私が初級、取りましょうか?適性はないですけど」

「いやいや、そんな勿体ない事はしなくていいよ。ただでさえ戦闘面では讃良クン頼りなのだからね!キミが必要としていないスキルにポイントを割くのは避けたい」

「では、誰かに頼んでみますか?ちょっとリスクが高い気がしますけど…」

「うはははは!いや、リスクの低い人物にあてはあるとも!今は接触できないがね」


刻止の脳裏には、ほわほわした雰囲気の【聖女】が浮かんでいる。

称号のイメージからして、おそらく癒しという点では最上級だろう力を持っている可能性がある人物だ。

本人の性質は癒しからかけ離れているが…それはそれだろう。


「とにかく、魔法はおいおいだね!丁度いい冒険者でも見つけたら考えてみようじゃないか!」

「分かりました。では、そのように」


讃良も今は接触できないという所で誰なのか察し、何も問うことなくゆったり頷いた。


話が一段落した二人にしばし無言の時間が流れる。

それは決して居心地の悪いものではなく、腹と脳を満たした満足感からくる穏やかな空白だ。

湿度の少ないさらりとした風に長い髪を遊ばれつつ、ふと讃良は真上にある太陽を見て思い出した。


「…そろそろ、ですかね」

「ん?何がだい?」

「ほら、昨日の…先輩が毒をプレゼントした人です」

「あぁ!暗殺パーティーの!」

「その名称だとちょっと違う気がしますけど…そうです。その人です。そろそろ始まる時間かと思いまして」


昨夜刻止がアドバイスと称して毒を渡した男…クルードによると、暗殺の決行は本日の昼頃だったはず。つまり、今の時間帯だ。

否、もし刻止の毒を使ったとするならば、決行は昨日の夜中というのが正しいだろうが。


「あの人、使ったでしょうか?」

「さぁね!我輩クンとしては、是非とも使って感想を聞かせてほしいけども!」

「さすが先輩。ブレませんね!ところで、あれって結局何の毒だったんですか?」


ごろりとシートに寝転ぶ刻止を眺めながら、讃良は首を傾げた。

彼女は刻止の助手として何度も彼のお楽しみ(毒実験)に付き合っていたこともあり、毒の種類にも多少明るくなったが、だからといって小瓶内の粉末や投与方法のアドバイスだけで判別できるわけではない。

そんな彼女の好奇心に、刻止はぐっと笑みを深めた。


「あれはリシン。タンパク質の一種さ!」

「アミノ酸…?」

「とは全くの別物!我輩クンでも恐れる猛毒の一つだよ!」


同名の必須アミノ酸を思い浮かべた讃良に立てた人差し指を振り、刻止は興奮した様子で語りだす。

「あ、スイッチ押しちゃったな」と彼女は思うがもう遅い。


「コレはね、凄いのだよ!細胞に対して毒性を発揮する植物性の毒なのだがね、細胞をガンガン破壊していくのだとも!理論上ではあるが、ほんの僅かな量で人を殺せると言われているね!」


それを小さいとはいえガラス瓶いっぱいに渡したのかと、讃良の顔が失敗した福笑いのようになった。

しかしそんなことお構いなしに、刻止の口はスルスルと毒物を詠う。


「これが中々の遅効性でね?いや、だからこそ恐ろしい!効果が現れるのは毒を摂取してから数時間後だ。最初は風邪のような症状から始まって、そこから細胞を破壊された臓器や神経が異常をきたすのだとも!」


知らずのうちに被毒させられ、風邪かと思いきや体の内側がズタズタになっており、やがて致命的なところまで蝕まれて死に至るのだろう、名も知らぬ誰か。


毒を盛られた相手が辿るのだろう死出の旅路を想像し、讃良は思わず口元を覆った。

日々刻止への溢れる妄想で鍛えられた想像力がいい仕事をしすぎたのだ。

阿鼻叫喚になっているだろうパーティー会場すら思い描けてしまったものだから、もはや気分は現場に居合わせた招待客Aである。


「もしかして、ですけど…先輩、ちょっと怒ってます?」

「おや、何故そう思うのかね?」

「いえ、毒のチョイスが殺意高いなと思いまして」


言われて、刻止は己の内側を覗く。

リシンを選んだのはひとえに、好奇心からだ。

この毒は普通、一介の学生が触れられるものではないのだから。

地球では取り扱えない兵器級の毒、精製や保存が難しい毒、入手が困難な毒…どんな毒でも、自分の知識とスキルによっていとも容易く手に入る現状。

それを利用しない手は無かった。


しかし、成る程確かに数多ある遅効性の毒の中でも自分は随分と強力なものを選んでいたらしい。

試したい毒や珍しい毒は強弱問わず沢山あったというのに、だ。

何故?と考え、刻止はようやく胸に燻るモヤに気付いたのである。


「そうか…うはははは!そうか!我輩クンは苛立っていたのだね!!」

「先輩が、ですか?ちょっと珍しいですね」

「うむ!我輩クンは毒を軽視するこの世界に、ほとほと参っていたらしい!故に、八つ当たりというやつだよ!」


自分はおそらく、叫びたかったのだ。


「毒をナメるんじゃない!ってね!」


誰に向けての吐露じゃない。これはあまりにも身勝手な子供の癇癪なのだ。

ヒーローは負けないもん!!強いんだもん!!と叫ぶそれと同じ。

まぁ、地団駄なんて可愛らしいものじゃない形で発散されたわけだが。


我ながらまだまだ幼いなと顔をほんのり熱くした刻止の髪を、讃良が優しく撫でる。

それがまるで母が子をあやすような手付きだったから、刻止は擽ったさを隠すように、あるいはその心地よさを甘受するように体を丸めて目を閉じた。

体力のない体はどうやら疲れていたようで、そのままストンと意識が落ちる。


「ふふ、大丈夫ですよ先輩。きっとこの世界に毒が回るのなんて、すぐですから」


何せ、毒嶋刻止という最高の毒が入り込んだのだから。

讃良はあどけない顔で眠る彼をどこまでも愛おしそうに眺め、周囲の騒音をすべからく凍らせたのだった。



ルミルはごっそりと積まれた魔石に、ただでさえ眠気で開いていない目をさらに細くした。そのまま意識をシャットダウンさせようとしていたが、隣の同僚に尻を抓られて渋々現実を見る。


魔石とは死んだ魔物から飛び出す石のことで、必ず採れる品であるから討伐依頼の証明によく使われていた。

魔力の塊であり、様々な魔道具や装備品に使われるのであって困るものではない。


ないのだが…ルミルの前に積まれたそれは、如何せん量がおかしい。

落とさないように積み上げていく犯人は「これが賽の河原かな!」なんて笑っているが。


「あの、トキシ様…」

「ん?何かね?もう少し待っていてくれたまえよ!あと二個だから!」

「先輩、ダメですよ。後ろが混んでしまいますし、ここで諦めましょう?」

「えー?…まぁ、仕方ないね!!」


切り替えが早いのは大変素晴らしい事だ。しかし、だからといって先程まで一生懸命積み上げていたものを躊躇無く崩すのはいかがなものか。

ガラガラと受付の方にも転がってきた魔石を拾い集めつつ、ルミルは相変わらず変わった人だなと小さく吐息を漏らした。

とはいえその口には薄っすらと笑みが浮かんでおり、それに気付いた同僚達は肩を竦める。


「改めて、報告、受ける」

「うむ!よろしくお願いするよ!」

「ええと、報告したい依頼は…グラスウルフにゴブリン、それとファットラットの討伐です」

「ん。確認、する。待ってて」

「はい。お願いします」

「魔物、解体、隣で」


奥に去っていく背を見送り、讃良は今日まとめ上げたレポートに目を落としている刻止を振り返った。


「先輩、魔物はどうします?」

「ふむ…さすがに肉は怖いね!」


依頼にはなかったが、実験がてら倒したタイニーボアの肉などは普通に調理して食べられる。

最初こそ魔物の肉という事で抵抗があったが、食べてみれば味は豚肉のようで、あっさりして臭みもないので非常に食べやすかった。

肉屋ではそこそこいい値段で買い取りしてもらえるし、自分達の食料にもなるので倒した時は積極的に採取しているのだ。

しかし、それはあくまでも讃良の氷で倒した時に限られる。


「毒って肉にも入るんですかね?」

「どうだろう。分からないけど、もしもって事があるからね!我輩クンはオススメしないよ!」


今回はほぼ全ての魔物を刻止の毒で殺している。

使用した毒も多岐にわたり、肉や内蔵に残っているものがあってもおかしくないのだ。

とても市場には出せない。いくら彼とて無差別テロを起こすつもりはないので。


何より、毒入り肉を市場に回した結果巡り巡って自分達の口に入るかもしれないというのが嫌だった。

自分から毒を舐めるのとは違うのだ。もしかして、なんて変に気にしながら食事をしたくはない。


「では、肉は破棄してもらいましょうか」

「いや、理由を聞かれるのは面倒だとも。逆に、肉だけすべて貰い受けようではないか」

「でもそれだとアイテムボックスを圧迫してしまいますよ?」

「なぁに、明日にでも魔物の餌にすればいいさ!おびき出すついでに毒が移っているかも確かめられるしね!」

「あ、成る程!いいですね、それ!」


どうやら平原の魔物に穏やかな明日は来ないようだ。


「では、私は解体屋さんに頼んできます。先輩はここで待っていてください」

「うはははは!いつもすまないね!」

「いえ。先輩が迷子になるよりはましなので…」


興味関心好奇心に忠実な彼は、一人で歩かせるとどこに行くかわからない。

たとえ隣の建物までの道のりだろうと油断できないのだ。その足がまっすぐ目的地に向くことはまずないと言ってもいいくらいなので。


更に困ったことに、好き勝手歩いた道を本人がまったく覚えていなかったりする。結果迷子になり、誘拐か事件かと何度も讃良の肝を冷やしているのである。


讃良が離れ、ルミルを待つ間に再びレポートに目を落とそうと思った刻止だったが、ふと視線を感じて紙を捲る手を止めた。

さっと辺りを見渡すも、仲間と談笑している冒険者ばかりでそれらしい人物はいない。

しかし一点、どうにも入口近くの柱の影が先程よりも濃い気がする。


彼は目を閉じて逡巡し、やがて口元を隠していた白衣の袖の向こうでこっそり感情を見せた。


「すまないが、少し席を外しても良いかね?すぐ戻るよ!」

「はぁい、大丈夫ですよぉ。終わったら呼びますねぇ」


他のギルド職員に声をかけ、刻止は足取り軽やかにギルドの外へ出る。讃良に怒られそうだが、今回は仕方ない。


夜とはいえまだ人で賑わう通りに出た彼は、しかしここからどこへ行けば良いものかと地面をつま先で叩いた。

すると、それに答えるように向かいの建物の隙間でひらひらと肌色の蝶が招く。


さて、鬼が出るか蛇が出るか。

唇を湿らせていざ暗がりを覗き込んだ刻止だったが、彼を待っていたのは何てことはない。ただの紙切れだった。

拍子抜けである。


口を尖らせつつその紙を眺めるも、当然読めるはずもない。

いや、己の名前だけは読めたので刻止宛である事だけは分かるのだが…あいにく"アガレスの眼"はアイテムボックスと共に讃良が持っているので内容はさっぱりだ。


「ま、讃良クンが帰って来てから確かめればいいか!」


紙をポケットにしまった彼は回れ右した…が、すぐに見慣れぬ魔道具に目を奪われ、ひょこひょことギルドとは別の方向に歩き出した。

この後息を切らせながら探しに来た讃良にこっ酷く怒られたのは…まぁ、想像通りである。


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