第67話 勇者のトラウマ
俺達は皆星の裏側まで転移する為にほぼ全ての魔力を消費してしまっていたので、魔界への扉を開くのは魔界行きを希望する者達全員の魔力の回復を待ってからという事になった。
また古代ロウラン帝国遺跡内の財宝についてはここにいるメンバー全員で山分けするという事で話がついた。
取り分が僅かとなってしまったヴェパルさんは地団駄を踏んで悔しがったが、宝物庫に到着したのは俺達の方が早かったので本来は後から来たヴェパルさんには分配される権利はない。
分けて貰えるだけ有難く思って欲しい。
翌日、遺跡近くの宿で十分な休養を取って魔力が全快した俺達はいよいよ魔界へ乗り込む事となった。
メンバーは俺マール、ユフィーア、ヘステリア、アレス殿下、ヘルメス、テーセウス、ヴェパルの七名だ。
それ以外の者はやはり魔界で戦うにはレベルが不足しているという事で辞退をした。
ヴェパルさんも全然レベルが足りていないのだが、「お宝の為なら命は惜しくない」という強い意志の前では俺達に彼女を止める術はなかった。
ちなみに現時点での俺以外のレベルはそれぞれユフィーアが165、ヘステリアが130、アレス殿下が128、ヘルメスが125、テーセウスが123、ヴェパルさんが70だ。
ユフィーア以外は原作の平均クリアレベルである150よりも下回っているが、ヘステリアには周囲の魔物を弱体化させる破邪の力があるのでこのレベルでも十分魔王に対抗できるはずだ。
むしろユフィーアが強くなりすぎているので逆に少し余裕をもって戦えるだろう。
魔界への遠征準備を終えた俺達はレイミルさんに案内されて町外れの広場にやってきた。
「それでは皆さんをこれから魔界へお連れ致します」
「レイミルさん、こんな何もない空き地に魔界への扉が隠されていたとは意外ですね」
「いえ、ある程度の広さの平らな地面があればどこでもよかったんです」
「あ、そうですか」
レイミルは杖で空地に大きな魔法陣を描く。
なるほど、確かにこの魔法陣を描く為にはある程度広い場所が必要だな。
「それではこの魔法陣の上に乗って下さい。危ないので外に出ないで下さいね。……はあっ!」
レイミルさんが魔力を解き放つと大地が揺れ、亀裂が走る。
ギュオオオオーン
パシューン
ゴゴゴゴゴゴ
原作のイベントでも聞いた効果音は地鳴りの音だったようだ。
地割れからは溶岩が噴き出すが、それは魔方陣の周りに張られた障壁によって俺達には届かない。
溶岩が収まると、その下から青白く輝く大きな扉が生えてきた。
「あ、あれが魔界への入り口……」
俺は原作をプレイした時、魔法陣は魔界への扉を呼び出す為の物か、魔界への扉がある場所へ俺達を転送する為の物かと思っていたが全然違っていたようだ。
「皆さん時間がありません、お急ぎ下さい」
「ありがとうレイミルさん。必ず魔王を倒して戻ってくるよ」
「はい、健闘を祈ります」
俺達はレイミルさんにお礼を言い、意を決して扉を潜る。
その瞬間俺達の視界が真っ白になる。
ピシューン
ゴゴゴゴゴゴ
キュイーーーン
そして再び原作のイベントで聞こえてきた効果音が響く。
何が起きているのかはさっぱり分からないが、自分の身体がどこかに引っ張られていくのだけは感覚で分かる。
次に気が付いた時、紫色の空と焦げ茶色の地面が目に入ってきた。
原作で見た光景と同じだ。
間違いなくここは魔界だ。
「着いた……のか?」
「ここが魔界……」
「よおし、行こう! 行こうぜ皆! 俺達の手で魔王を倒し、この戦いを終わらせるんだ!」
「おう!」
仲間達はご丁寧に原作と同じセリフを口にしてくれる。
皆の士気も充分だ。
このまま一気に魔王を倒してシンディア姫を救い出そう。
魔界は険しい山岳や深い谷が複雑に入り組んだ広大な迷路のようになっているが、原作をプレイした俺は魔王城までの道のりを完璧に把握しているので皆を先導して真っすぐに魔王城へ向かう。
そして見通しの悪い曲がりくねった渓谷を進んでいる時だった。
「皆さん、この先に何かが隠れています。気を付けて下さい」
ヘステリアが強力な魔物の気配を察知し、一同に緊張が走る。
魔界は魔王の影響下にある為に強力な魔物が多く生息している。
死の魔法を連発してくるブリザードデーモン、山のような大きさの一つ目巨人ギガントサイクロプス、タングステンをも溶かすという高熱のブレスを吐くアビスドラゴンなどは、原作では平均クリアレベルでも遭遇したら即全滅コースの凶悪モンスターだ。
しかし今の俺達のパーティにはその魔物達よりもさらに強いユフィーアと、破邪の力を持つヘステリアがいる。
余程致命的な判断ミスさえしなければ負けるはずはない。
それにいざとなったら俺が思いつく限りのバグ技を駆使して戦ってやる。
「マール様、私が様子を見てきます」
ユフィーアが斥候としての役目を志願するので、それを許可して先行させる。
俺達は何かあればすぐにユフィーアを援護できるように少し離れて後に続く。
「きゃっ……!?」
そして進む先でユフィーアは何かを見つけて小さく悲鳴を上げた。
「あ……あ……」
明らかにユフィーアの様子がおかしい。
恐怖で足が震えているのが離れた位置からも分かる。
ユフィーアが何を見つけたのかここからでは見えないが、今のユフィーアが恐れるようなレベルの魔物など魔界にはいないはずだ。
まさか何かのバグによって魔界で登場するはずがないクリア後の隠しダンジョンの魔物が出てきたのか?
だとしたらユフィーアでも危ない。
「皆、ユフィーアを援護してくれ!」
「おう、任せておけ!」
アレス殿下を先頭に、ヘルメス、テーセウス、ヘステリアの四人がユフィーアに駆け寄り、その視線の先にいる何かに攻撃を加える。
「GUAAAAAAAAAHH」
その直後にその何かの断末魔の叫びが聞こえてきた。
どうやら無事に倒せたらしい。
俺は少し遅れてユフィーアの下に駆け寄り、今にも倒れそうなその身体を支えて声を掛ける。
「ユフィーアしっかりしろ、いったい何がいたんだ?」
ユフィーアは小刻みに震えながら答える。
「マール様申し訳ありません……あれです」
ユフィーアが指を差す方向を見ると、そこにはアレス殿下達の一斉攻撃で無残なボロキレと化したオークチーフの死体があった。
「オークチーフ? 魔界ではかなり弱い部類の魔物じゃないか。どうしてこんなのに……あっ」
俺はここでハッと気づく。
ユフィーアは以前バグによって不死身となったオークチーフと戦った事がある。
どれだけ攻撃を加えても一向に倒れない首なしのオークチーフの記憶は彼女のトラウマになっていたのだ。
「ユフィーア、大丈夫だよ。俺がいるだろう」
俺はユフィーアを優しく抱きしめて、彼女が落ち着くのを待った。
事情を知らない他の仲間達は、竜殺しの勇者ユフィーアにも苦手なものがあったのかと意外そうな顔をしていた。




