第66話 門番
サタナーキがダンジョン階層移動魔法マロンヌの呪文を詠唱した瞬間、俺達の目の前には真っ暗な闇が広がっていた。
失敗して地面の中に埋もれてしまった……という訳ではなさそうだ。
呼吸もできるし身動きもできる。
単純に辺りが暗いだけだ。
それにしても足元にはごつごつしたものが散乱していて動きにくいな。
どこだここは?
いや、まずは皆の無事を確認しなくては。
「みんな無事か? とにかく誰かライトの魔法を使ってくれ」
「マール様、もう魔力が空っぽです」
「私もだ。誰か松明を持っていないか?」
「ちょっと待っててくれ。いくつかストックがある」
そう言ってグレイド氏が魔法の袋から松明を取り出そうとしたところで、前方から眩しい光が飛び込んできた。
「ここがお宝の部屋だね、ついに見つけたよ……って、あんたらこんな所で何してるんだ?」
照明の魔道具を持って俺達の前に現れたのはヴェパルさんとそのパーティの仲間達だった。
一人は魔法使いのローブを纏った初老の男性で、もう一人は治癒士の姿をした青年だ。
どちらも俺の知らないキャラだ。
今回の古代ロウラン帝国遺跡探索の為に一時的にヴェパルさんとパーティを組んだ冒険者だろう。
俺達の足元には金銀財宝が敷き詰められており、照明の光を反射してキラキラと輝いている。
どうやら転移された先は遺跡の宝物庫の中だったらしい。
さすがに距離があり過ぎて細かい転移先の場所までは計算では割り出せなかったな。
ヴェパルさんはこの場にいるはずがない俺達の姿を見て不思議そうに首を傾げている。
彼女がここにいるという事はまだ魔界への扉は開かれていないという事だ。
俺はほっと胸を撫で下ろし、緊張の糸が切れて脱力する。
「良かったやっと会えた。俺、ヴェパルさんをずっと探してたんだよ」
「何だいマール、地球の裏側まであたしを追いかけてきてくれたのかい。嬉しいねえ」
ヴェパルさんはそう言いながら俺に抱擁しようとするのをユフィーアが間に入って邪魔をした。
「……どうやらまだ懲りていないようですね」
「おっと、そんな怖い顔をするなよユフィーア。軽い冗談さ。それでこんな所まで何をしに?」
「実は──」
俺はヴェパルさんに魔界への扉について説明をする。
それを聞いているヴェパルさんのテンションが徐々に上がっていくのが目に見えて分かる。
「へえ、魔界に行って魔王の城に乗り込むのかい。それは面白そうだね。きっとこの遺跡以上のお宝が隠されているんだろうね」
ヴェパルさんは予想通りの反応をする。
魔界への扉が開く前に追いついてよかった。
「ヴェパルさん、そう言うと思ったから急いできたんです。今あなたのパーティのレベルはいくつですか?」
「あたしは70だね。こっちの魔法使いのマーリンが65で、治癒士のライナスが60だ」
これは冒険者ギルドの基準ではA級パーティーに該当する。
しかしファンタシー・オブ・ザ・ウィンドの平均クリアレベルは150だ。
バグ技を駆使しても魔王城の攻略は難しいだろう。
「ヴェパルさん、失礼ですけどそのレベルで魔王城に侵入したら間違いなく死にますよ」
「うぐっ……はっきり言ってくれるね。でもレベル10のあんたが言っても説得力がないよ」
「そうですね、やはりヴェパルさんのレベルでは無理ですよね」
治癒士のライナスが話に割り込んで俺に同調する。
「ライナス、どっちの味方してんだ!」
パーティメンバーの思わぬ裏切りに、思わずヴェパルさんも語気を荒げて詰め寄るが、ライナスはそれを意にも介さずに言葉を続ける。
「じゃあ皆さん一緒に魔界へ行きましょう。準備が良ければいつでも行けますよ」
「あんたいったい何を言って……」
ヴェパルさんはライナスの突然の変貌に困惑しているが、俺は直ぐに気付いた。
「……ライナスさん、あなたが魔界への扉を開く者──門番──だったんですね」
考えてみれば簡単な事だ。
原作通りなら門番は八人の主人公の近くに現れる人間だ。
今俺達の近くにいる主人公以外の人間は、俺、ユフィーア、アレス殿下、ヘルメス、テーセウスの五人だ。
俺はもちろん違うし、他の四人も門番ではない。
そうすると消去法でヴェパルさんの近くにいるマーリンかライナスのどちらかという事になる。
「はい、あなたの推測通りです。お久しぶりですねマールさん、それにユフィーアさん」
「あれ、ライナスさんは俺達と面識ありましたっけ? いや、確かあなたは魔法で姿を変えられるんでしたよね。だとしたら……」
「はい、あの時の姿はこっちでしたね……変化魔法トランス!」
ライナスは変化魔法の呪文を詠唱すると、その姿が美しい女性に変わっていく。
その姿には見覚えがある。
以前魔獣の森で出会ったレイミルさんだ。
「レイミルさん、あなたが門番だったんですか。あの時言ってくれれば良かったのに」
「私はずっと魔王を倒す事ができる人物を探していました。最初はホリンさんやミーリャさんこそがそうだと思ったんですが違っていました。そして次に現れたマールさんとユフィーアさんこそ魔王を倒す事ができる方だと考えましたが──」
思い出した。
確かあの時レイミルさんは俺達のパーティに加入しようとしていたけど、ユフィーアが反対の意思を示したので断ったんだった。
「──同行を断られてしまったので、已む無くまた他の人物を探し続けた結果ヴェパルさんに行き着いたのです」
あの時の選択ミスのせいでずいぶんと遠回りをしてしまったようだ。
しかしユフィーアに責任を擦り付けるのは筋違いだな。
「しかし魔族のあなたがどうして魔王を倒す人物を探していたんですか?」
これは完全に興味本位の質問だ。
そもそも原作では魔王撃破後に門番が黒幕だったというようなどんでん返し的展開はないのでそこは安心できる。
「全ての魔族が好んで魔王に従っている訳ではありません。私のように魔王の支配から脱却しようとして動いている者もたくさんいます。その為にもあなた達に力を貸していただきたいのです」
敵の敵は味方という事か。
開拓村のリリエーン達のように人間達と共存している魔族もいる。
魔王とその一派さえ倒してしまえば人間と魔族の対立はなくなるだろう。
そしてもう一つ確認をしておきたい事がある。
とても大切な事だ。
「ところで、レイミルさんの本来の性別はどっちなんですか?」
「性別ですか……」
レイミルさんは少し考えて答える。
「変身し過ぎて自分でも元の姿を覚えていませんので分かりません」
プレイヤーの想像に任せる。
うかつな設定による炎上回避を考えると無難な回答だった。




