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第59話 人生の墓場

 突然のヴェパルさんからの告白に俺の頭の中は真っ白になった。


 いやちょっと待って欲しい。

 そもそも俺とヴェパルさんはそんなに親しい仲でもない。

 一緒に行動したのも王家の墓を探索した時だけだ。


 そうだ、ヴェパルさんは俺をからかっているのに違いない。


 俺は苦笑いをしながら答える。


「ははは、ヴェパルさんは冗談がお上手ですね。でも俺は今真面目な話をしているんですよ。何とならアポロジーストーンと交換してくれるんですか?」


 しかし今度はヴェパルさんが真顔になって答える。


「いや、あたしは本気で言ってるんだが?」


「は?」


 酒場に気まずい空気が流れ、船員達も冷めた目で俺を見る。


「マールさん、いくらなんでも今の発言はないと思いますよ」

「彼女に失礼にも程がありますぜ」


 いやいやおかしい。

 何で俺が悪者みたいな雰囲気なんだ。


 本気で言っているなんてとても信じられないな。

 少し探りを入れてみよう。


「えっと、俺がヴェパルさんに好かれる理由が思い浮かばないんだけど。どこに惚れたの?」


「何言ってるんですかマールさん」

「無自覚なタラシって奴ですかねえ」

「マールさんに憧れてる女性ってこの国には星の数ほどおりますぜ」


「えっ、そうなの?」


 確かに考えてみれば俺は冒険者としてはトップクラスの活躍をしている。

 魔王軍四天王の内、三体の討伐に俺は絡んでいる。

 ゲームでは主人公が全ての中ボスを倒すのは当たり前の事だから気にもしていなかったが、現実でそれだけの功績があれば民衆から憧れの的になるのは当たり前か。


 ……という事は、ヴェパルさんは本気?


「ああもう恥ずかしいな! あんた達ちょっと静かにおし!」


 ヴェパルさんが一喝すると、一瞬で外野は静かになった。


「王家の墓であんたと一緒に行動した時に思っちゃったんだよ。あんたならあたしをどこまでも引っ張っていってくれそうだってね。殆どひと目惚れみたいなものさ。文句あるかい?」


「な、ないです……」


「結局あの時は何事もなく別れたけど、今になってあんたがあたしの持ってるこのアポロジーストーンを探して回ってるって聞いてピンと来たんだ。これはもう運命なんじゃないかってね」


「そ、そうなんだ……。でもその見返りに縁組を迫るってのはどうかと思う」


「欲しい物はどんな手を使ってでも手に入れるのがあたしのやり方でね。汚いやり方って言うのは重々承知の上さ。なんせあたしは元海賊だからね。さあ、返事を聞かせておくれよ」


 返事と言われても……。

 もしここで俺が申し出を受ければ、ユフィーアは元に戻せるだろうが俺はヴェパルさんと結婚をさせられる事になってしまう。


 酒場の中にいる全ての客が証人になる。

 受けてしまえば反故にはできない。


 俺はどうすればいい。







 ……ん?


 やり方はともかく、よく考えたらこれそんなに悪い話じゃないよな?


 ヴェパルさんは原作ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドでも人気上位のキャラだ。

 身内や部下には優しい頼れる姐御肌の人間だ。

 長い金髪に碧眼、スタイルも抜群。

 その容姿は西洋のトップモデルを思わせる。


 主人公として選択はしなかったが、俺も原作では彼女を仲間にして最後までパーティに入れていた。

 アポロジーストーンで手に入れたメイド服も彼女に装備させていたくらいのお気に入りキャラだ。




 あれ、断る理由がなくない?




「おっ、マールさんが悩んでるぞ」

「これはもしかするともしかするかもしれませんぜ!」


「マールさん、ここは男を見せる時ですよ」


 外野の声に押されて思わず首を縦に振りそうになる。



 いや待て待て。

 一生の問題をこんな簡単に決めてしまっていいのか。


 しかしアポロジーストーンがないとユフィーアは元に戻らない。


 そうだこれはユフィーアの為でもある。


 いい事ずくめじゃないか。


 何を迷う必要がある。



















 でも、心の奥底で何かが引っかかる。


 中々決断をしない俺に対して、周囲の声はやがてブーイングに変わっていた。


 その時だ。


「ねぇね、にぃにをとっちゃうの?」


 一部始終を眺めていたユフィーアが、ヴェパルさんの服を掴みながら上目遣いにそう呟いた。

 その純真な瞳を前にヴェパルさんはたじろぐ。


「ねぇね、にぃにをつれていかないで」


「うぐっ……」


 涙目で懇願するユフィーアの姿に、さっきまで騒いでいた船員達も口をつぐむ。


 長い静寂の後、最初に口を開いたのはヴェパルさんだ。



「……ふう。こんな強力なライバルがいたんじゃあたしに勝ち目はなさそうだ。アポロジーストーンとの交換条件は考えとくよ。ほら、こいつを好きに使いな」


 そう言ってヴェパルさんは懐から七色に輝く鉱石──アポロジーストーン──を取り出して俺に放り投げる。


「ヴェパルさん、いいのかい?」


「ああ、あたしの気が変わらない内に早く使いな」


「ありがとう。じゃあ早速使わせて貰うよ」


 俺はアポロジーストーンを握りしめて精神を集中すると、脳内にいくつかの選択肢が浮かび上がった。

 『パラメータを上げる』を選択し、続けて『対象:ユフィーア』、『項目:年齢』を選択する。


 後は元の年齢になるように上昇値を選択するだけで完了だ。


 しかし次の瞬間に俺の脳内から選択肢がパッと消える。

 俺の手の中にあったアポロジーストーンが何者かに力ずくで奪い取られたからだ。


「何をするんだ!」


 俺からアポロジーストーンを強奪したその小さな影は酒場を飛び出して逃走する。

 俺はそれを追いかけるが、その逃げ足の速さにあっという間に見失ってしまった。

 トリトン船長やヴェパルさんは酔っ払っているので追いかける事もできず、その様子を唖然として見ているだけだ。


「どうして……どうしてこんな事をするんだ……ユフィーア!」







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