第58話 鉱石の在り処
この世界には原作ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドの八人の主人公と同じ数だけアポロジーストーンが存在していたはずだ。
その内ヘステリアのアポロジーストーンは既に使用済みの為にこの世界から消滅している事が判明している。
俺は残りの七個のアポロジーストーンの所在を求めて原作の主人公達と接触をしてみる事にした。
まずは朝早くからユフィーアを連れて王都に屋敷を持つ商家の息子グレイド氏を尋ねる。
実家の事業が余程儲かっているのだろう。
その住まいは貴族の屋敷にも引けを取らない大きさだ。
俺は使用人に案内されて応接室でグレイド氏を待つ。
少しして恰幅の良い青年が現れた。
原作で散々見た顔だ。
グレイド氏に間違いない。
「ようこそマールさん。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「はい。実はあなたが所持していた──」
「失礼致します」
俺が用件を切り出そうとしたところで屋敷のメイドが紅茶をテーブルの上に置く。
その姿を見て俺は質問を続ける必要がなくなってしまった。
彼女の着ているメイド服には見覚えがある。
間違いなく俺が原作でアポロジーストーンと引き換えに入手した物と同じだ。
「グレイドさん、こちらのメイドさんの衣装はどこで購入されました?」
「ふふふ、マールさんもお目が高い。実はこのメイド服は非売品でして……」
「アポロジーストーン……ですかね?」
「おお、さすがマールさんは博識だ。その通りです。あの不思議な鉱石と引き換えに入手した伝説の一品ですよ」
この大馬鹿野郎。
貴重なアポロジーストーンをこんな事に使用するとは……と言いかけて俺は口を噤んだ。
俺も原作ではメイド服と交換して仲間に着せていた事を思い出したからだ。
意外な事にヴェパルさんはこの衣装がとても似合っており、俺は彼女を仲間にした後は最後までメイド服を着せて戦わせていた。
「メイドいいよね……」
「いい……」
俺は暫くグレイド氏とメイド談義に花を咲かせ、屋敷を後にしたのは昼食をご馳走になった後だった。
個人的には有意義な時間だったが、無駄な時間を浪費してしまった。
その間ユフィーアは退屈そうに欠伸をしていた。
今は俺の横で膨れっ面をしている。
さすがに悪い事をしたと思ったので、埋め合わせに甘いお菓子が沢山並んでいるお店に連れて行ってあげたら直ぐに機嫌を直してくれた。
その後も踊り子のカトレーヌ、剣士ジーク、遊牧民のネネと、順番に原作の主人公キャラと接触してみたが、どれもアポロジーストーンは使用した後だった。
皆アポロジーストーンとの引き換えでしか手に入らない服や剣や馬を所持していたので、嘘をついて隠している可能性もない。
やはりこの世界にはもうアポロジーストーンは残っていないのだろうか。
他の主人公達は全員海の向こうで活動している。
今から確認に向かっても時間がかかりすぎる。
こうしてる間にも魔王軍はこちらの事情などお構いなしに王都侵攻の準備を進めている。
これ以上時間をかける訳にはいかない。
諦めて別の方法を考えかけた頃、通信の魔道具を介してトリトン船長から連絡が入った。
「マールさん、あんたが探してるアポロジーストーンとかいう鉱石が見つかりましたぜ。丁度今フェルトの町にヴェパルさんが来てるんで聞いてみたら、まだ持ってるそうです。今からこっちまで来れるかい?」
「本当ですか? 直ぐに行きます!」
俺は急いで馬車を手配して港町フェルトへ向かった。
◇◇◇◇
フェルトに到着した俺は、待ち合わせ場所である裏通りの酒場へ向かった。
「マールさん遅いですよ。先にやらせて貰ってますよ」
「本当に久しぶりだねえ。あれから変わりはないかい?」
トリトン船長とヴェパルさんは既に出来上がっていた。
ピンクパール号の船員達も一様に赤ら顔をしている。
「ほらほらマールさん、駆付け三杯だ」
「いや、飲みに来たんじゃないんだけど」
「分かってる分かってる。でも酒が入った方が交渉事が円滑に進む事があるんですよ」
「おー、このちっちゃいのがユフィーアちゃんかい? ずいぶんとイメチェンしてしまったねえ」
ヴェパルさんは面白そうにユフィーアの身体を撫でたり抱き上げたりしている。
がたいの良い海の男達と姐御肌の元海賊に弄られて、さすがのユフィーアも委縮してしまっている。
この酔っぱらいどもめ。
「こほん、さっさと本題に入れせてもらいますよ。ヴェパルさんの持っているアポロジーストーンを譲ってくれませんか?」
「あはは、トリトン船長から話は聞いてるよ。でもね、マールさんの頼みとはいえこれほど貴重なお宝を簡単に譲る訳にはいかないねえ」
そうか、ヴェパルさんがアポロジーストーンを今まで使用しなかった理由は、これ自体をお宝と認識しているからだ。
つまり、同じぐらいの価値がある財宝となら交換してもいいと言っているのだ。
俺には以前王家の墓で手に入れた財宝がある。
その一部を差し出せば交換してくれるはずだ。
「ヴェパルさん、足下を見ないで下さい。それでどの程度の財宝となら交換してくれますか?」
「そうだねえ……王家の墓の財宝ならあたしもあんたと同じだけ持ってるからもういらないよ」
いきなり当てが外れてしまった。
「え……じゃあいったい何が欲しいんだ?」
「そうだね。マール、あんたが欲しいと言ったらどうする?」
「……は?」
この人、改心したからと安心していたがやはり海賊は海賊か。
俺の弱みを握って奴隷として使おうとでも言うのか。
しかしヴェパルさんの言葉を聞いたトリトン船長達は口笛を鳴らしながら盛りあがっている。
「ひゅーひゅー。こんないい女に言い寄られて、マールさん男冥利に尽きるねえ」
「羨ましいな。俺と代わってくれないか」
何を言っているんだこいつら。
代わって欲しいなら是非とも代わってあげてくれ。
何が悲しくて元海賊の奴隷なんかに……。
……いや待てよ?
俺はひょっとして大きな勘違いをしていたのかもしれない。
「ヴェパルさん、俺が欲しいって一体どういう意味?」
「説明をさせないでよ恥ずかしい。そのままの意味だよ!」
まさか俺は今求婚されているのか?




