第45話 罠には罠で
「こんな扉抉じ開けろ!」
「突入ーっ!」
扉が破られると同時に、王国の兵士達が小屋の中になだれ込んできた。
「見つけたぞ。貴様らが怪人の正体だな。神妙にしろ」
兵士達は床に倒れているアレス殿下を救出すると、俺とヘステリアを包囲する。
そしてその後ろで一人の女性が高笑いしながら俺達を蔑みの目で見る。
「おーっほっほっほ。ヘステリアさん、まさか追剥になっているとは、落ちるところまで落ちてしまいましたわね」
「デメテルさん、どうしてここに……」
ヘステリアの疑問は尤もだ。
まあ俺がユフィーアに指示をして、匿名でこの小屋に犯人がいると垂れ込ませたんだけどね。
ヘステリアがデメテルの罠により神父様の毒殺未遂の冤罪にかけられた時、デメテルはヘステリアの死罪を望んでいたが、ヘステリアの日頃の行いから乱心扱いとされ、また未遂という事もあって王宮からの追放で済まされた。
ヘステリアを生かしておいてはいつか真実が明るみになるかもしれない。
死人に口なしという事で、デメテルは隙あらばヘステリアを消そうと機会を窺っていた。
王宮から追放された挙句、善良な市民から追剥ぎ行為を働いているとなれば彼女を擁護できる者はいないだろう。
これでデメテルはヘステリアを討つ大義名分が手に入る事になる。
デメテルは俺の目論見通り、この垂れ込みに目の色を変えて食いついてきた。
「ヘステリアさん、これがあなたの本性なのですね。もう言い逃れはできませんよ。さあお前達、このような罪人どもを生かしておく必要はありません。今すぐ斬り殺して……」
デメテルはほくそ笑みながら兵士達に命令する。
しかしここまでは全て作戦の内だ。
俺は当初の作戦通り一芝居打つ。
「デメテルの姉御、これは一体どういう事ですかい!?」
「は? 姉御?」
「用がすんだらもうポイってことですかい? 俺の兄貴に神父様の毒殺を指示した時みたいに、口封じってわけですかい?」
傍からは俺はまるでデメテルの指示で動いていた手下のように映っているだろう。
周りの兵士達も訝しげにデメテルの方を見る。
ヘステリアも状況が理解できずに茫然としている。
「な、何を言ってらっしゃいますの? 私はあなたの事なんて存じませんわ……」
「俺はもうお終いだ。こうなったら姉御も道連れだ。今までの悪行を全部ぶちまけてやる!」
「お、お黙りなさい! お前達、このような者の出まかせに耳を貸してはいけません。さっさと殺してしまいなさい」
「は、はあ……しかしこの者は抵抗する様子もありません。捕縛して然るべき裁判にかけた上で処するべきでは?」
「私の言う事が聞けないというんですか!?」
デメテルは苛立ち声を荒げる。
いよいよ本性が露になってきたな。
「待て、私もこの者の話を聞きたいな」
ここでアレス殿下が寝たふりをやめてゆっくりと起き上がる。
「あの神父の暗殺未遂事件には不自然な点が多かった。この者が何かを知っているというのなら、全て話してもらおう」
アレス殿下にそう言われれば兵士達も俺に手を出す事は出来ない。
デメテルはぐぬぬと悔しそうに歯ぎしりをしている。
「ああ、よく耳の穴をかっぽじって聞け。あの日俺の兄貴はこの女デメテルの命令で闇市場で毒を仕入れたんだ。後はその毒が入った水をヘステリアに神父さんの下へ運ばせれば彼女が疑われるって寸法だ」
ヘステリアの命令で毒を仕入れた後に口封じのために消された手下がいたのは事実だが、その男に兄弟などいない。
当然でたらめだ。
「な、何の事かさっぱり分かりませんわ! 証拠でもあるんですの?」
証拠と来たか。
馬鹿め、俺には原作の知識がある。
ヘステリアを貶める為にデメテルが何をやったのかも全て知っている。
原作ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドではヘステリアの冤罪を晴らすイベントでは推理アドベンチャーゲームが始まる。
当時の関係者達に地道に聞き込み調査を続けると、やがてデメテルの指紋がついたガラスの欠片の在り処にたどり着く。
それを魔法で当時の状態に復元すると毒の入った瓶になり、これが証拠となってヘステリアの冤罪が晴れ、真犯人であるデメテルが投獄されるというシナリオだ。
かなり面倒くさいイベントなのだが、ある日ひとつのバグが見つかった。
フラグ管理が上手くいっていないらしく、証拠品となる毒入りの瓶は復元されたものでなくてもいいという事が分かった。
途中の調査を全てすっ飛ばして、闇市場で購入した毒入りの瓶をデメテルに突き付ければそれでイベントクリアとなってしまう。
俺は懐からひとつの瓶を取り出して投げつける。
「これが何よりの証拠だ」
「これはなんだ……中に入っているのは毒か?」
「デメテルが神父様を毒殺する為に闇市場で購入した毒だ。こんな事もあろうかと俺が隠し持っていたのさ。ここれには彼女の指紋が付いているはずだから調べてくれ」
もちろん全部嘘だ。
これは俺が先日闇市場で購入した毒入りの瓶だ。
しかし原作通りならこれでヘステリアの冤罪イベントは解決するはず。
「う、嘘よ! そんなものが残っているはずがありません。そんなもの粉々にして森に埋めて……はっ」
デメテルが盛大に自爆してくれたおかげで呆気ない程簡単に片が付いた。
「ほう。詳しく聞かせて貰おうか。お前達、デメテルを拘束せよ!」
「ははっ、アレス殿下!」
「ち、違う……そうよ、これは罠よ! 全部この女が私を貶める為に仕組んだのよ!」
「うるさい、さっさと歩け!」
デメテルは喚きながら兵士達に引き摺られていった。
「まったくどの口が言うのやら。アレス殿下、これで一件落着……いやヘステリアの呪いも解けて冤罪も晴らせたので一石二鳥ですね」
──とアレス殿下に小声で話しかけたところで兵士達が俺とヘステリアに槍を突き付ける。
「お前達も来るんだ」
「ああ、やっぱりそうなりますよね」




