第37話 勇者のリベンジ
コロッセオの完成の噂は瞬く間に王国全土に伝わった。
瞬く間に観光名所となり、連日大勢の人々が村に押し寄せ、開拓村の経済は大いに潤ったそうだ。
そしてコロッセオの完成から一週間後、ユフィーアとリリエーンの試合が開催される事となった。
前座としてヴェパルさんが勧誘した剣闘士と魔獣達の試合が行われた。
もちろん魔獣達が本気で戦えばフリーの剣闘士ごときでは相手にならないので、リリエーンが作ったブックの通りに試合が展開される。
魔獣達の演技力も中々のもので、観客達は八百長である事を微塵も疑わず、目の前で繰り広げられる白熱のバトルに視線が釘付けにされている。
剣闘士の大剣──模造剣──がフェイバーレインの喉元に突き立てられてその巨体が崩れ落ちた時、観客達の熱狂も最高潮となった。
観客はジャイアントキリングを好むものだ。
基本的には剣闘士側が勝利するシナリオだったが、雌の魔獣である虎娘ムッターティガー、鬼娘ムッターヤシャ、巨人娘アインブラウの三名は人化したときの姿が魅力的で、それぞれ個別のファンクラブが作られる程の人気だったので特別に勝ち星を許される事になった。
そして客席が大いに温まってきた頃にいよいよ本日のメインイベントが始まる。
俺は最後の試合のみ解説役を任されているので、実況席へ移動する。
闘技場の全ての選手が退場し、リングアナウンサーのコールとともに両選手の入場だ。
「それでは本日最後のカードをご紹介します。まず最初に入場するのは古代魔族の女王にして開拓村のアイドルゥゥゥゥ……リリエーンンンンンッ・サブナァァァァァック!」
「うおおおおおお、リリィ様ぁぁぁぁぁ!」
獣娘以上に熱狂的なファンを持つリリエーンだ。
観客の中には興奮して失神する者も現れた
コノロリコンドモメ。
「その幼い外見からは考えられない程のパワーファイターにして、テクニシャン! そのギャップがたまらないィィィィッ! リリィちゃあああああん、大好きだあああああああ」
何言ってんだこのリングアナは。
リリエーンは闘技場の中央までやってくると、観客達の声援に手を振って応える。
彼女もノリノリだな。
続いて反対側からユフィーアが歩み出る。
「対する挑戦者は元王国軍最強の騎士にして、現在最高峰の冒険者ァァァァァ、今まで討伐した魔物は数知れず、誰が呼んだか殺戮の女神、ユフィーアァァァァァ・ラスボオォォォーンンンン!」
いや、殺戮の女神なんて二つ名は聞いた事がないが。
誰だよ台本書いた奴は。
「現在は理の勇者こと、冒険者マール・デ・バーグの相棒として各地を転戦しているが、実質戦っているのはユフィーアひとりって話だぁぁぁぁ!」
ほっとけ。
「うおおおおおおおおお! ユフィーアちゃあああん!」
「マールなんかにゃ勿体ないぞおおおおおお」
「マールは死ね!」
リングアナのコールに呼応するように観客達から俺へのブーイングが始まる。
何だこの仕打ちは。
「さっきからうるさいですね……プチアンペア」
闘技場の中央に進みながら一部始終を耳にしていたユフィーアは、右腕を掲げて呪文を詠唱する。
その指先から放たれた電撃は俺にブーイングをしていた観客達とリングアナに降り注いだ。
「うぎゃ」
「ほげっ」
「ひぎっ」
コロシアムのあちこちで悲鳴が響き渡る。
ユフィーアが俺の代わりにあいつらにまとめてお仕置きをしてくれたので多少は溜飲が下がったが、一部の変態達は逆に「もっと痺れさせてくれ」といわんばかりに恍惚の表情を浮かべている。
見なかった事にしよう。
「それではレディー……ファイッ!」
レフェリーの合図で両者が一斉に動く。
ユフィーアは剣を抜いて斬りかかるが、リリエーンはそれを華麗なステップで悉くかわす。
勿論この剣も偽物なので当たっても死ぬ事は無いが、ユフィーアの馬鹿力の前では竹刀ですら凶器となり得る。
もしもの時の為に、闘技場脇には医療スタッフや回復魔法使いが待機している。
一方のリリエーンは背負っていた斧を手にして、頭上から振り下ろす。
こちらも偽物とはいえ、重量は相当なものだ。
まともに食らったらユフィーアといえどもダメージを受けるだろう。
ユフィーアは間一髪後ろに飛んでかわし、リリエーンとの距離を取る。
「いやあ開幕から激しい攻防が続きますね。それでは解説のマールさん、この試合、どう見ますか?」
「そうですね、二人の強さは互角ですが、実戦の経験の差でユフィーア選手がやや有利といえましょう。問題はリリエーン選手の底が知れない事です。いったいどんなスキルを持っているのか。それによって優劣は簡単にひっくり返るでしょう」
「はい、有難うございました。つまりどちらが勝つかさっぱり分からないという事ですね!」
「簡単に言うとそういう事です」
俺とリングアナのコントのようなやり取りをよそに、闘技場の中央ではユフィーアとリリエーンの睨み合いが続いている。
「このままでは埒が明きませんね」
先に仕掛けたのはユフィーアだ。
ユフィーアは頭上に剣を掲げ、電撃魔法を詠唱する。
「ライトニングギガアンペア!」
天空から放たれた電撃がユフィーアが掲げた剣の上に落ちると、その剣は眩い光を放つ。
「解説のマールさん、あれは一体?」
「ええ、あれはユフィーア選手が得意とする魔法剣のひとつですね。見て下さい、電気を帯びた剣がバチバチと放電しているでしょう。あの状態で斬ると更に相手を感電させる効果が上乗せされますので、相手に与えるダメージが通常の五倍……いや、十倍程にはなりますね」
「なるほど、しかしどれだけ強力な魔法剣でも当たらなければ意味がないのでは?」
「剣が放電しているんですよ。触れなくてもあの剣に近付いただけで相手は感電します」
「それは恐ろしいですねえ。ユフィーア選手本人は大丈夫なんでしょうか」
「ええ、ユフィーア選手は魔法防御力も高いですからね。実際あの状態で自身も少し感電していますが、彼女なら耐えられるレベルです。デンキウナギと同じようなものだと思って下さい」
「つまり根性で我慢しているという訳ですね」
「ええ、平たく言うとそうです」
ユフィーアは剣を構え直してそのままリリエーンに向けて突進し、勢いよく振り下ろす。
「秘技、ライトニングブレイク!」




