第36話 ケモナーホイホイ
俺がお前達の主になるという言葉を聞いた巨狼フェイバーレインは豪快に笑った後、敵意をむき出しにして怒鳴る。
「人間ごときが我らを従えるだと? 貴様のような小僧など今この場で食い殺してくれるわ」
フェイバーレインは大口を開け、俺を一飲みにしようとする。
フェイバーレインの推奨討伐レベルは90程だ。
まともに戦ったら死ぬのは間違いなく俺の方だ。
しかしここで弱みを見せたらそれで終わりだ。俺は気丈に振る舞いながら話を続ける。
俺は魔法の袋から王家の墓で回収してきた財宝の一つを取り出し、フェイバーレインの眼前に掲げる。
「これを見てもまだそんな事が言えるかな?」
俺が掲げたのは古代魔族の王家の紋章が掘られた盾だ。
それを見たフェイバーレインの顔色が変わる。
「むう……それは紛れもなくサブナック王家の紋章。何故貴様がそれを持っている?」
「この盾はサブナック王国第25代目の女王、リリエーン陛下より授かった物だ。その意味は分かるな?」
多少大袈裟にしているが決して嘘は言っていない。
「なんと……あのリリエーン陛下が復活なされたというのか」
「そうだ、この俺が覚醒の呪文によってリリエーン陛下を長き眠りから目覚めさせたのだ。リリエーン陛下は今この近くの土地で国作りを励んでおられる。お前達も馳せ参ぜよ」
「ふむ……」
フェイバーレインは押し黙って思考を巡らせる。
「……あいわかった。マール殿、それが真実なら貴様は我らが主君の恩人という事になる。リリエーン陛下は今どちらに?」
「ああ、俺が案内しよう」
俺の想像通りここに封印されていた魔獣は古代魔族の国、サブナック王国に関係する者たちだった。
王家の墓で見た財宝の中には、王の前に跪く魔獣達の姿が描かれていた絵画などもあったのでもしやと思ったがその通りだったようだ。
もし違ってたらケツテレポートを駆使して全力で逃げ帰るつもりだったけど。
村まで逃げのびれば後はユフィーアが何とかしてくれるからね。
さて、折角だから祠から出る前にマーライオネットにメッセージでも残しておくとするか。
俺は『遇馬而開』と書かれていた石碑に文字を書き足す。
『怪盗マール参上。魔獣達は確かに頂いた。マーライオネットさん一足遅かったっすね。ねえねえ今どんな気持ち? (^∀^)9m』
「これで……よし?」
ここまで書いておいてなんだが、もう一捻り欲しいね。
原作ではマーライオネットとの戦闘は人気があるシーンだが、戦闘に突入するまでに多くの面倒くさいイベントをこなす必要がある。
特に葦毛の名馬エポォーヌを入手するのには骨が折れる。
馬の所有者である北方の騎馬民族の首領を相手に主人公が馬のレースで勝利しなければならないのだが、指が攣りそうな程ボタンを連打しなければならない。
このイベントの為だけに別売りの連射パッドを購入するプレイヤーも珍しくない。
残念ながら俺マール・デ・バーグは馬術の心得は皆無だ。
俺がこのイベントを突破するのは絶望的だろう。
ならば今俺がやるべき事はひとつだ。
「折角だからマーライオネットにはここで退場して貰おうかな」
俺はそう呟きながら、石碑の下の方に薄く文字を書き足す。
『馬仔獅子はこの石碑の下で死す』
そして最後に、石碑の周りにバクダン魔道具を分解して出てきた火薬を振り撒いて準備は完了だ。
「これでよし……と。では君達を陛下の所へ案内しよう」
祠から外へ出ると、残りの107個の玉もそれぞれ本来の獣の姿に戻る。
何れも原作では主人公と死闘を繰り広げた強力な魔獣達だ。
俺は108匹の魔獣を引きつれて開拓村へ向かう。
ちょっとした魔獣使いになった気分だ。
当初の予定では俺自身に従わせるつもりだったが、彼らのサブナック王家への忠誠心を見るとそれは無理そうなので、全員リリエーンに返却する事にした。
開拓村の付近までやってきたところでフェイバーレイン達を待たせ、俺一人で村に入る。
このまま進むと村人達が魔獣の襲撃だと勘違いしてパニックになってしまうからね。
俺は村に戻るとリリエーンを呼んでフェイバーレイン達に引き合せる。
「おお、こやつらは我がサブナック王家が使役していた魔獣どもではないか。よくぞ無事でいたものじゃ。今まで何をしておったのじゃ?」
「ははっ、リリエーン陛下が永い眠りにつかれた後、魔族と人間達の間に大規模の戦争が起きました。我らは懸命に戦いましたが人間達の罠に嵌り、彼の地で封印をされていたのです。それをこのマール殿に解放していただきました」
「ふむ。我がサブナック王家の僕まで蘇らせるとは、さすがはマールじゃ」
続けてリリエーンが魔獣達に現況を伝える。
王家の墓で蘇った経緯から、現在この開拓村で世話になっている事、王国は遥か昔に滅びている事、そしてこの村にコロッセオを建築中という事。
魔獣達はリリエーンの話に静かに耳を傾ける。
「そうでしたか、リリエーン陛下、申し訳ございません。我らが不甲斐ないばかりに……」
「気にするでない。今のわしは女王でもなんでもない、ただの村人Aじゃ。お主たちもこれからは自由にしてよいぞ」
「そういう訳にはまいりません。我ら108の魔獣は最後まで陛下の為にこの命を投げ出す所存です」
「ふむう……そこまで言うのなら、この村の開拓に協力して貰うとするかのう」
「はっ、なんなりとご命じ下さい」
「まずはその見た目を何とかせい。村人達が怖がってしまうわ」
「はは、それでは人化の魔術を使いましょう」
魔獣達は一旦玉の姿に戻ると今度は獣人のような身体に姿を変える。
耳としっぽが無ければ人間と区別が付かない者もいる。
「この姿ではどうでしょうか?」
「うむ、それなら問題あるまい。村人達にはわしから説明をしよう」
雌の魔獣も何匹かいたようで、その趣味の者にはたまらない姿になっている。
幸い俺はケモナー属性は無いので……と言いたいところだが、やはり獣耳少女の誘惑には抗える筈もなく、そのモフモフ具合を存分に確かめさせて貰った。
これは癖になりそうだ。
108匹の獣人達が加わった事でコロッセオの建築作業は加速的に進み、それから僅か数日でコロッセオは完成した。
◇◇◇◇
後日、封印の祠を訪れたマーライオネット将軍は石碑に書かれた文字に気付き、その文字を読もうと松明を近付けたところで周囲に撒かれた火薬に引火して大爆発を起こし、崩壊する祠と共に人知れずあえない最期を遂げる事となった。




