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第35話 封印の祠



「ふむ、いいじゃろう。受けて立とう」


 リリエーンはユフィーアが投げつけた手袋を拾い上げる。

 これで決闘成立だ。


 俺はユフィーアがこんな行動を取った理由が分からずに困惑し、そっと尋ねる。


「ユフィーア、決闘ってどういう事? 穏やかじゃないね」


「マール様、私はまだ王家の墓でリリィに受けた屈辱を忘れていませんよ。リリィは私の全力の斬撃を素手でいとも簡単に受け止めました。私は呪いによって満足に戦えないマール様の盾であり剣でなければならないのにあの体たらくです。今こそ名誉挽回の絶好の機会なんです!」


「ああ、あの時の事か」


 俺は何も気にしていなかったが、ユフィーアはあの時の()()をずっと気にしてたようだ。

 そもそも俺がリリエーンをチート並に強い覚醒の呪文を使って復活させてしまったのが原因なんだよね。

 それにしてもまさかユフィーアがこの村に来たがっていた理由が決闘だったとは思いもしなかった。


 思わずリリエーンも呆れ顔をする。


「なんじゃそんな事か。わしにもどうしてあの時お主の剣を受け止められたのかはよく分からぬが……恐らく今でも同じ事ができると思うぞ」


「リリィ、あの時と同じ私だとは思わない方がいいですよ」


 ワールドイーター討伐の経験値により、ユフィーアのレベルは大幅に上昇している。

 今のユフィーアならリリエーンといい勝負をするかもしれない。


「それでは始めましょうか」


「うむ、いざ……」


 二人が建築中のコロッセオの前で対峙すると、周囲の空気がビリビリと張り詰める。

 その異様な雰囲気に作業員たちの手も止まり、二人の一挙手一頭足に注目が集まる。



 これは間違いなく血を見る事になるな。














「ユフィーア、まずはその大理石をあっちへ移動させるのじゃ」


「はい、これですね」


 リリエーンの指示で、ユフィーアが大理石をひょいっと持ち上げると、そのまま担いで奥の方へ持って行く。


「……始めるって建築作業の方?」


「決闘はコロッセオが完成してからです。コロッセオの大舞台でリリィさんを破り、私こそがマール様のお傍に立つに相応しい人間であると証明してみせます!」


「お、おう。ガンバッテネ」


 見学をしていた作業員達も肩透かしを食らっていたが、すぐに気を取り直して作業に戻っていた。


 しかしいくらユフィーアが馬鹿力とはいえ、一人加わったところで大勢に影響はない。

 やはりもっと人手が必要だ。

 ヴェパルさんも移民の勧誘を頑張っているようだが、とても追い付いていない。


 ユフィーアが建築を手伝っている間、俺にも何かできる事があれば……。


「ん、待てよ?」


 俺は原作の終盤に起きるとあるイベントを思い出した。

 確か開拓村の付近に封じられていた魔獣の封印が解かれ、その群れが村を襲うというイベントがあったな。


 この世界の各地には様々な種類の魔獣がいるが、近縁種も多く、ゲームを進めていくと先に出てきた魔獣の色違いだったり、身体の一部分が異なっているだけの魔獣が出てくる事も珍しくない。


 しかし、村の襲撃イベントで襲いかかってくる魔獣の群れは現存するどの魔獣とも異なる姿をしている。

 原作プレイヤーの中には、このイベントで出てくる魔獣は現在よりも遥か昔──古代文明の時代──に封印された魔獣という考察もある。


 そして俺はこの魔獣達の姿に見覚えがある。


 俺の想像通りなら、この魔獣たちは手懐ける事ができるはずだ。


「ユフィーア、俺ちょっと出かけてくる」

「おひとりでですか?」

「ああ、今日中には戻る」

「マール様、くれぐれもお気をつけて」


 開拓村を出て向かうのは魔獣が封印されているという祠だ。


 俺は厳重に閉ざされた祠の入り口の扉をバールのような魔道具で破壊して内部に侵入する。


 最初に目の前に現れたのは大きな石碑だ。

 石碑にはこう書かれている。


 『この祠はかつて世を乱した108の魔獣を封印したものなり。決して魔獣達を解き放ってはならぬ』


 だが俺はそんなものを意にも介さずに奥へ進む。

 どんな物語でも封印というものは解かれる為にあるものだ。


 長い通路の両脇には魔物の像が並んでおり、俺がその前を通る度に目を光らせ──


「引き返せ」

「引き返した方が身の為だぞ」

「カエレ!」


 ──などと警告を発する。


 本来はここで強制的に入口に戻されるのだが、バグ技を使えば突破は可能だ。


 やり方は簡単だ。

 まず、壁に向かって後ろ向きに幅跳びを繰り返す。

 当然壁に尻をぶつけるだけだが、この時バグにより内部処理されている加速ゲージが溜まり続けている状態になるのだ。

 そして加速ゲージが溜まっている状態で壁の逆方向へ移動を始めると、今まで溜めてきた加速ゲージが一気に解放され、まるで瞬間移動でもしているかのような速度で飛んでいく。


 お尻を突き出して凄まじい速度で飛んでいくその見た目から、通称ケツテレポートと呼ばれるテクニックで、一時期リアルタイムアタック界に旋風を巻き起こしたが、その後レギュレーション違反と見做された為に、今ではタイムアタックとは無関係な一般プレイヤーが個人的に楽しむ時に使用するのみに留まっている。


「引き……」

「引き……」

「カエ……」

「かゆ……」

「うま……」


 超高速で進む俺の身体は魔族の像の発する言葉を置き去りにし、入口へ飛ばされる間もなく通路を突破していく。

 途中で言葉がバグってた気もするが、この世界ではよくある事なので聞かなかった事にしよう。



 更に進むと小部屋に出てきた。


 その部屋の中には先程よりもさらに古い石碑が置かれている。

 石碑にはこう書かれている。


遇馬而開(マーにあってひらく)


 本来はこの封印を解くのは魔王軍四天王のひとり、馬仔獅子(マーライオネット)将軍だ。

 その名の通り、獅子の頭部に馬の身体を持つ魔物で、ゲーム終盤に主人公達と死闘を繰り広げる。

 草原を駈けまわるマーライオネットに対し、主人公が大陸一と謳われた葦毛の名馬エポォーヌに騎乗して戦うシーンは疾走感も相まって人気が高い。


 マーライオネット将軍が登場するのはまだまだ先なので、それよりも前にこの魔獣達の封印を解いて、味方につけようという作戦だ。


 石碑の後ろにはお札が貼られた壺が置いてある。

 俺はお札を剥がして壺の蓋を開けると、壺の入り口から眩い光が溢れだし、続けて大小108個の玉が飛び出してきた。


 その中の一際大きな玉が巨大な狼に姿を変える。

 108の魔獣の首領格であるフェイバーレインだ。

 その名はこの魔獣と対峙した者の末路、降り注ぐ血の雨に由来する。


「我らの眠りを妨げる者は誰だ」


 フェイバーレインは鋭い眼光で俺を見降ろしながら問いかける。


 ここで怯んではいけない。

 俺は平静を装いながら答える。


「俺の名はマール・デ・バーグ。お前達の主となる男だ」



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