第34話 宿命の対決
俺はラスボーン家の屋敷で一週間に渡り手厚いもてなしを受けたが、あまり長居をするのも悪いので王都へ帰る事にした。
シャルリックさんは悪い足を引きずりながら、妻のベアトリクスさんと共にわざわざ屋敷の外まで見送りに来てくれる。
「マール君、またいつでも遊びに来てくれ」
「ねえあなた、次にマールさんがいらっしゃる時はもう一人増えているかもしれませんわ」
「はっはっはっ、それは楽しみだ」
「え?」
何の事だろう?
【ツヴァイ】は俺とユフィーアの二人パーティだ。
今のところ特にメンバーを増やす予定はない。
「もう、お母様ったら……。さあ、マール様行きましょう」
「あっはい。シャルリックさん、ベアトリクスさん、お世話になりました」
俺達はユフィーアのご両親に別れの挨拶をして屋敷を後にすると、王都への帰路に就く。
数日をかけて王都に戻ると、早速ユフィーアのレベルを鑑定を行う為に冒険者ギルドへ向かった。
「マール様、自分の成長具合が数値化されるのはいいモチベーションになりますね」
ユフィーアは魔方陣の描かれた床の上に立ち、魔道具が全身をスキャンしている間、新しい玩具を買って貰った子供のように心を躍らせているのが目に見えて分かる。
俺も冒険者になりたての頃はあんな感じだったな。
クエストを終わらせて報酬を受け取ると、その足でレベルの鑑定を行ったものだ。
レベルが10になり、それ以上レベルが全く上がらなくなってからは鑑定はストレスでしかなくなったけど。
例えるなら小説投稿サイトに最新話をアップしても全くブックマークが変動しなかった時の気分だ。
ピピッ。
魔道具から鑑定完了を知らせる電子音が鳴り、ギルドのスタッフが結果を読み上げる。
「ええと、勇者ユフィーアさんのレベルは……155です」
「155!?」
「マール様、見ました? 前回よりも30も上がりましたよ!」
「お、おう」
「いやあ、やっぱり勇者様は凄いですよね。ここまでくると我々ギルドスタッフとしてもどこまで上がるのか目が離せませんね」
テンション高めな二人とは対照的に、俺は驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。
ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドの平均クリアレベルは150位程度のはずだ。
レベル155となると、クリア後の隠しボスともやりあえる。
それだけワールドイーター撃破で得た経験値が凄まじい数字だったという事だ。
そしてこれ以上レベルが上がらない俺はその恩恵を全く受けられない。
これはユフィーアには俺の分までしっかりと働いて貰わないといけないな。
レベルの鑑定も終わり、次のクエストを探す為に掲示板の前に移動しようとすると、ユフィーアが珍しくそれを遮り自身の意見を述べる。
「マール様、久しぶりに開拓村へ行きませんか?」
「開拓村? ああ、確かにあれから日数も経ったし、どれだけ発展しているか気になるな」
「決まりですね、さあ出発しましょう」
◇◇◇◇
馬車に揺られる事数日、俺とユフィーアは開拓村に到着した。
「どんな村になってるかな……って、なんじゃこりゃあ!?」
「ゴッシュさん、本当にここで合っていますか? 場所間違えていません?」
御者のゴッシュ氏は地図と睨めっこしながら言う。
「いや、ここで間違いないよ。それにしても前回来た時とはすっかり雰囲気が変わってるねえ」
雰囲気が違うどころの騒ぎではない。
ここは本当にレイフィス王国の中なのか?
俺達の目に飛び込んできたのは、古代ローマ帝国の遺跡のような建築物の町並みだった。
まるでその当時にタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。
「とにかく、村の中に入ろう」
村に入ると村長のシンドルフ氏が俺達を見つけて声をかけてきた。
「やあマールさんにユフィーアさん、久しぶりですね。どうです? この村も随分と発展したでしょう」
よかった、セリフはバグっていないようだ。
つまりこの異様な発展は決してバグではなく、開発者の想定内という事だ。
村がどう発展するのかは住民によって決まる。
こんな村になった原因として思い当たるのは、王家の墓で勧誘した古代魔族の女王リリエーンだ。
「シンドルフさん、リリエーン陛下はどちらに?」
「リリィちゃんなら向こうでコロッセオ建築工事の現場監督をしてますよ」
「リ、リリィちゃん……? いや、それはいい。リリエーン陛下だから愛称はリリィちゃんですか。それよりもコロッセオって何ですか? それに現場監督ってどういう事?」
一度に入ってきた情報と突込みどころが多すぎて脳みそがキャパオーバーしてしまった。
俺は深呼吸をして心を落ちつかせ、順番に整理をする。
「シンドルフさん、この村の皆さんはリリエーン陛下の事をリリィちゃんと呼んでいるんですか?」
「はい、もう自分の国は遥か昔に滅びているので陛下と呼ばれるのは違和感がある、もっと気軽にリリィと呼べと仰られまして」
「OK、それは分かりました。それで、村の中にコロッセオを作るってどういう事ですか?」
「リリィちゃんが民衆にはもっと娯楽が必要だと仰られまして。あの施設で定期的に剣闘士と魔獣を戦わせたり、色んなイベントをするんだそうです。そうすればこの村の事も話題になってもっと人が集まるだろうと」
腐っても元女王か。
ああ見えていろいろ考えているんだな。
「それで、現場監督っていうのは?」
「はい、リリィちゃんは失われた古代の高度な建築技術についての知識が豊富なんです。それに元女王というだけあって人の使い方を心得ています。普段はサボりがちな荒くれ者達もリリィちゃんの下ならちゃんと働いてくれるんです」
「なるほど。言われてみれば納得です」
「あと、見た目も可愛らしいのでこの村ではアイドルのような存在になっていますね。ご当地アイドルとして村おこしに利用する企画も挙がっているんですよ」
「そ、そうですか」
ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドは基本的にオープンワールド型のロールプレイングゲームだが、イベントシーンによって横スクロールアクション、格闘アクション、戦略シミュレーション、落ちものパズルなど様々なジャンルのゲームが始まる。
このままだと冗談抜きでアイドル育成ゲームまで始りかねない。
こんな多岐にわたる展開をしてるからデバッグが追いつかないんだよな。
「それでは俺達はこれで」
「はい、ごゆっくりなさって下さい」
俺達はシンドルフ村長と別れると、コロッセオの建築現場に足を運んだ。
「その大理石のブロックはあそこにアーチ型に積むのじゃ。その柱は入口の通路脇じゃ……ヨシ!」
そこでは黄色いヘルメットを被ったリリエーンが作業員に指示を出していた。
「こんにちはリリィ、調子はどうですか?」
俺が声をかけると、リリエーンは笑顔で手を振って応える。
「おう、お主たちか。久しぶりじゃな。見ての通り村民に娯楽を提供する為にコロッセオを建築しておるのじゃが、人手が足りなくてのう。お主たちも手伝ってくれぬか」
そりゃあ村の男達十数人程度でこれだけの規模の建築物を作るのは大変だろう。
「悪いけど、俺は力仕事はちょっと苦手かな……」
だが俺は協力できない。
レベル10の冒険者の腕力では足を引っ張るだけだ。
「私は構いませんよ。丁度身体を動かしたいと思っていたところです」
一方のユフィーアはやる気十分だ。
「でも代わりといっては何ですが、一つ条件があります」
「なんじゃ、申してみよ」
その時、ユフィーアは俺が想像だにしなかった行動に出た。
ユフィーアは右手の手袋を外し、リリエーンに投げつける。
「リリィ、あなたに決闘を申し込みます。受けて下さいますね?」




