第26話 開拓の村 デーモンキャンプ
原作ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドでは、移民対象者が主人公の視界に入ると青白く光って見える。
ヴェパルさんにはこの棺の中の少女が光って見えたというのなら、彼女は移民対象者という事だ。
王家の人間だとすると王女……それとも女王?
見た目はどう見ても子供だ。
まさか王妃という事はあるまい。
この少女を開拓村へ連れていったらどんな村が出来上がるんだろう。
そもそも生きてるのか?
アンデッドの可能性もあるな。
勧誘する際、まず対象の職業は何なのかと考えてしまうところが原作プレイヤーの悪い癖だ。
いや、考えるのは後だ。
まずはこの少女を起こしてみよう。
「おーい、生きてるかー?」
俺は声を掛けながら少女の頬を叩いてみる。
体温はある。
死んでいる訳ではなさそうだ。
しかし呼吸もしていなければ脈拍もない。
仮死状態というやつだろうか。
「マールさん、ちょっと待った。ここに何か書いてある」
その時ヴェパルさんが棺に書かれた文字に気付いた。
俺は松明を近付けてそれを読み取る。
「なになに……だめだ、経年劣化で殆ど文字が消えている」
「マール様、この部分、覚醒……呪文って読めませんか?」
「ああ、確かに」
「何の事かは分かりませんけど」
覚醒の呪文か。
この世界の人間には何の事は分からないだろうな。
しかし原作をプレイしている人間ならば誰もが知っている。
通常、ゲームを中断する時はメモリにデータをセーブするが、それとは別に覚醒の呪文と呼ばれる最大52文字のパスワードを使用してゲームを中断、再開する事もできる。
それを入力しろという事だろうか。
前世では大学ノートにいくつか書き留めていたが、さすがに暗記はしていないな。
でも一つだけ、裏技として有名になった覚醒の呪文がある。
開発スタッフの名前を並べた後、平仮名のぺを最後まで入力するだけの実に覚えやすい覚醒の呪文だ。
主人公はバグった名前のキャラで始まるが、レベルが異常に高く、実用性も十分。
俺は試しにその呪文を詠唱してみた。
「──ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺ」
詠唱が終わった瞬間、黄金の棺が眩しく光を放つ。
「う……ん」
少女が反応を示した。
どうやらこれで合っていたらしい。
「おーい、起きろ」
俺はペシペシと頬を叩き続ける。
「ん……」
反応はしているが、なかなか目を覚まさない。
もう少し刺激を強くしてみよう。
デコピンでもしてみたら起きるかな?
俺は少女の額の前で指を構える。
ガシッ。
その瞬間少女の腕が俺の腕を掴んだ。
「何じゃお主は?」
「お、おはよう。えっと、君は何者?」
ギリギリギリ。
少女の腕の力が徐々に強くなる。
「聞いておるのはわしじゃ」
俺の腕の骨がミシミシと軋む音が聞こえる。
「い、痛い! 何て馬鹿力だ」
「マール様!」
苦痛に歪む俺の顔を見て、ユフィーアは剣を抜き少女に斬りかかる。
「ユフィーア、それはやり過ぎだ!」
「大丈夫、腕を斬るだけです」
それも十分やり過ぎだ。
俺はユフィーアを止めようとするが間に合うはずもなく、ユフィーアの剣が少女に襲い掛かる。
しかし次の瞬間、ユフィーアの剣が止まった。
ユフィーアが自分で止めたのではない。
少女が俺の腕を離し、ユフィーアの剣を両手で挟むように受け止めている。
真剣白刃取りだ。
「つ、強い……」
ユフィーアは瞬時に頭を切り替え、剣を手放して少女との距離を取る為に後方へ飛び、攻撃魔法の詠唱を始める。
しかし俺には分かる。
ユフィーアではこの少女には勝てない。
「ユフィーア止めろ! この子に手を出すな」
「くっ……分かりました」
俺がさっき詠唱した覚醒の呪文で再開したデータの主人公は、今のユフィーアよりもレベルが30程高い。
ユフィーアの攻撃を簡単に受け止めた動きを見る限り、少女のステータスはその主人公と同等になっていると見て間違いないだろう。
移民対象者という事は、こちらから手を出さない限り俺達に危害を加える事はないはずだ。
俺は二人を落ち着かせると、少女にいきさつを話す。
「ふむ。マールと言ったな。お主達はここが何かも知らずにやってきたのか」
「今の人間は誰も知らないよ。数百年前には既に謎の遺跡って言われてたんだから」
「という事はわしは少なくとも何百年も……いや、もしかすると千年以上ここで眠っていたという事か。はてさてどうしたものか」
「それで、君は一体何者なんだ?」
「わしか? わしはサブナック王国第25代目の女王、リリエーン・サブナックじゃ。流行病に侵されて倒れたところまでは朧げながら記憶にあるが、恐らくわしの死後、いつかわしを覚醒の呪文で蘇らせてくれる人物が現れる事を信じ、臣下達がここにわしの身体に特別な処置を施して保存したのじゃろう。しかし覚醒の呪文とは夢物語かと思っていたが、実在したとはのう……それを知っているお主は何者じゃ?」
「ほんと、マールさんって何者なんですかね?」
「私もたまにマール様の事がよく分からなくなります」
三人の視線が俺に集まる。
「……いや、古い書物を読み漁って知識を得ただけの普通の冒険者だよ。それよりも、リリエーン陛下はこの後どうするんですか?」
「そうじゃな……もうわしの国は滅びておるようじゃし、どうしたものかのう」
「だったら開拓村に行けばいいんじゃない? ちょうど今村の発展の為に人手を集めてるところだし」
「ふむ……他に行く当てもないし、お言葉に甘えるとするかのう」
こうして古代魔族の王国の女王リリエーンが開拓村に移住してくる事になった。
ゲーム終盤に開拓村の付近に封印されていた魔獣が復活して村を襲撃するイベントが発生するが、覚醒の呪文の作用で大幅にパワーアップした彼女がいれば俺達がいちいち村の防衛に戻る手間も省けるというものだ。
リリエーン陛下が村にやってきた事で今後村がどう発展していくのかも興味がある。
ただ、バグだけは発生しないで欲しいと祈るばかりだ。
ちなみに部屋の中に敷き詰められていた金銀財宝は、リリエーン陛下の許可を得て三人で山分けをした。




