第25話 あつまれ! 開拓の村
遺跡の中には所狭しと罠が張り巡らされている。
その為、ベースキャンプに屯している探検家や考古学者は入口の近くまでしか入って来られない。
それがこの遺跡の調査が進んでいない理由だ。
落とし穴、壁の穴から飛んでくる矢、突然下がってくる天井、坂を転がってくる巨大な岩など、ひととおりのお約束的な罠のゾーンを抜けて階段を降りると次は無限ループゾーンだ。
原理は分からないが、その升目状に張り巡らされた通路は、特定のルートで進まないと元の場所に戻ってきてしまう。
ここはまだ原作で攻略済みなので、道順はしっかりと把握しているから楽勝だ。
さらに地下へ潜ると、巨大な迷宮が姿を現す。
その大きさは下手なダンジョン探索型RPG一作分に相当し、普通に走破しようとすると20時間程かかる。
途中にはセーブポイントもない。
加減しろ開発スタッフ。
なのでここは壁をすり抜けるバグ技を使用してゴールまで一直線に進む事にする。
「この先を真っすぐ進めば下り階段だ。ユフィーア、ヴェパルさん俺が手本を見せるから真似をしてついてきてね」
「え? 真っすぐって……」
俺は壁に向かってジャンプをし、壁にぶつかる瞬間に装備している盾を外す。
外すと言っても手から離す訳ではない。
正確には持ち替えると言うべきだろうか。
盾を外した瞬間、そのモーションによって俺の位置座標が僅かにぶれる。
そのぶれを利用する事で、一瞬にして壁の向こう側に移動をするというバグ技だ。
壁の向こう側に到着した俺は、壁越しに二人に声をかける。
「こんな感じでついてきて下さい」
「え……?」
「あたしは今何を見たんだ……?」
二人の困惑する声が聞こえてくる。
それから何分待っても一向に来ないので、俺はもう一度壁すり抜けのバグを使用して二人のいる場所に戻る。
「何やってるの? 早くついてきてよ」
「ついてこいと言われても……」
「今何が起きたのか全然分からなかったんだけど」
「マール様、もっと分かりやすく教えて下さい。どんな原理で壁をすり抜けるんですか?」
原理を聞かれても、位置座標のぶれなんてこの世界の人間に理解してもらえるはずもなく、そういうものだと割り切って貰うしかない。
「うーん、理論的な話は説明するのが難しいな。とにかく俺の動きを真似をしてみて。盾を外すタイミングが重要だぞ」
俺はもう一度実践してみせる。
原作で何度も試したバグ技だ。タイミングを誤る事はない。
そして再び二人の所へ戻り、催促をする。
「さあ今みたいにやってみて。レッツトライ!」
「……分かりました、やってみます」
ユフィーアは盾を構え、壁に向かってジャンプをする。
「よし、今だユフィーア!」
「えーい、ままよ!」
ユフィーアが俺の合図で盾を外すと、そのまま壁の中に消えていく。
成功だ。
「できた……マール様、できました!」
壁の向こう側からユフィーアの声が聞こえる。
「うん、その呼吸を忘れないように。さあ次はヴェパルさんの番ですよ」
「お、おう……」
ヴェパルさんは俺とユフィーアを倣って盾を構え、壁に向かってジャンプをする。
「ヴェパルさん、今です!」
ドゴッ。
「がはっ」
……。
ヴェパルさんは10回程壁に激突を繰り返した末に漸くコツを掴む事ができた。
迷宮を抜け階段を下りると、遺跡を守る守護者と呼ばれる機械仕掛けの獣がうじゃうじゃいるゾーンだ。
これがまたこの時点で登場する敵にしては異常な程強く、多くのプレイヤーの心をへし折ってきた。
「皆下がって、あいつらは危険だ」
俺は徘徊する守護者を視認すると、ユフィーアとヴェパルさんを物陰に隠れさせる。
「何ですかあれ……魔物とはまた違いますね。生き物とも違う」
「本当に不思議だねえ。どうやって動いてるんだ? ひとつ持ち帰って学者達に売り捌こうよ」
魔法技術が発展しているこの世界にはロボットの概念はない。
ユフィーアとヴェパルさんは初めて見る機械人形に興味津々だ。
原作ではここからは守護者達に見つからないようにステルスゲームの感覚で進まなくてはいけない。
しかし原作と違って今の俺達にはユフィーアがいる。
「どうだユフィーア、あいつらを倒せそうか?」
「楽勝……とは言い難いですけど、やってみます」
ユフィーアは守護者に背後から近付き、その背中に剣を突き立てる。
「ピピッ」
背中を刺された守護者は電子音を鳴らしながらのたうち回り、やがて動かなくなった。
「思ったよりは強くありませんでしたね」
「あいつらって倒せるんだ……」
俺は原作では何度も守護者に挑戦をしたが、毎回ろくにダメージを与える事もできずに敗北していた。
全てのプレイヤーにとって悲願だった守護者撃破の瞬間をこの目で見る事ができて、感動のあまり思わず目頭が熱くなる。
ユフィーアはその後も迫り来る守護者の群れをいとも容易く殲滅して道を作る。
ここから先は原作プレイヤーが誰一人辿り着いていない未知の領域だ。
俺達は周囲の罠を警戒しながら奥へ進む。
更に階段を下りて先へ進むと、突き当りに小部屋があった。
その部屋の中央には金銀財宝に囲まれた黄金色に輝く大きな箱が安置されている。
「すごい、こんなの海賊やってた頃にも見た事がない」
お宝の山を目の前にして、ヴェパルさんの興奮も最高潮だ。
「マール様、真ん中のこれは棺ですかね?」
「そうだね。じゃあ中に入っているのは古代王家の……」
「とにかく開けてみれば分かるじゃん」
そう言ってヴェパルさんは無造作に棺の蓋を持ち上げる。
もし罠が仕掛けられていたらどうするんだ。
幸い罠は仕掛けられてはおらず、棺の中には王のミイラ……ではなく、ひとりの少女が横たわっていた。
その頭には山羊のような角が生えている。
人間ではない。魔族の少女だ。
「そうか、この遺跡は古代魔族の墓だったんだ……」
守護者と同様に、失われた古代文明の保存技術が使われていたのだろう。
その姿は腐りもせず、まるで生きているようだ。
これは新発見だ。
もし前世の世界だったら今すぐにでも攻略サイトの掲示板にこの情報を投稿しているところだ。
SNSにも投稿すればイイネ四桁はかたい。
「ヴェパルさん、もういいでしょう。彼女を眠らせてあげましょう。棺の蓋を占めて──」
「君、名前はなんていうんだ? 開拓村に移住する気はないか?」
「は?」
「ヴェパルさん?」
唐突過ぎて彼女が何を言っているのか理解をするのに少し時間が掛かった。
突然少女の遺体に勧誘を始めたヴェパルさんに、俺とユフィーアは目が点になる。
「ヴェパルさん、急にどうしたんですか? 疲れてるんですか?」
「……あ、そうか君達には見えていないのか」
「見えていない? 何の事だ? ……え、ちょっと待って、それじゃあこの少女はひょっとして」




