第11話 貴重なアイテムは増やそう
「マール、そなたのおかげで王国は救われた。主力を失った魔王軍は暫くはおとなしくなるだろう。兵士達も十分に強くなった。約束通り、ユフィーアと旅立つ事を認めよう」
魔王軍を撃退して王都に凱旋した俺に対し、グーラー陛下は玉座から腰を上げ、諸手を挙げて労いの言葉をかける。
事実、原作でもこの勝利によって魔王軍は戦力を立て直す為に人間界への侵攻が大きく遅れる事となる。
早い段階で四天王もひとり失われたので、魔王軍の痛手は相当なものだろう。
更に実戦によって兵士達も熟練の域に達した。
訓練方法や戦い方についてはバランドル将軍にも伝授してあるので、もう俺がいなくても大丈夫だろう。
彼らにはあえて伝えていないが、他にも土木用のドリルを頭に被ってみたり、魔法書を武器として装備する事で異常な防御力や攻撃力を得る事ができるバグもあったりする。
さすがにこのバグを広めてしまうと世界の常識が色々ひっくり返るので、俺の胸の奥に仕舞っておこうと思う。
「このバランドル、マール殿には色々と教えられました。貴族であるという事を鼻にかけ、平民というだけで馬鹿にしていた自分が恥ずかしい。そのこの世の全ての理を知り尽くしているかのような知識の数々。皆はマール殿の事を理の勇者と呼んでおります」
「成程、竜殺しの勇者ユフィーアに理の勇者マールか。勇者が二人も揃えば魔王など恐れるに足りぬな。はっはっはっは」
バランドル将軍もすっかりと丸くなってしまった。
これもユフィーアと同じように好感度バグによるものだろうか?
おかげで色々と助かっているけど。
「マールにユフィーアよ、これは余からの選別である。旅の役に立ててくれ」
グーラー陛下の合図で、騎士の一人が俺に魔法の袋を渡す。
中身は大体想像がつく。有り難く頂戴しておこう。
「陛下、マール様と共に必ずや魔王を討ち果たして参ります」
ユフィーアが陛下に跪き、宣言をする。
いつの間にか魔王を討伐する旅に出る事になっているが、冒険者としても最終目標はやはり魔王の討伐なので、余計な口を挟まない事にする。
「うむ。吉報を待っておるぞ」
俺とユフィーアはグーラー陛下に敬礼をし、謁見の間から退室をする。
最初は陛下の前ではガチガチだった俺も、いつの間にか普通に話せるようになっている。
目上の人への対応スキルでも上昇したのだろうか。
俺達は王宮を後にするとまずは宿へ行き、部屋の中で魔法の袋の中身を確認する。
袋の中には名のある鍛冶屋が鍛えた剣や鎧、ポーション等のアイテムが大量に入っていた。
軍資金も一生遊んで暮らせるほどの金額だ。
「グーラー陛下は気前がいいな。普通は青銅の剣とか金貨50枚ぐらいだよね」
「え? さすがにそれは少なすぎるかと」
ユフィーアがキョトンとしてこちらを見る。
いけない、うっかり別のゲームの話をしてしまった。
原作では陛下に見送られてユフィーアと出立するシーンなどないから仕方がないな。
「ははは、冗談だよ。真面目に答えられても困る」
「ごめんなさい、普段冗談は聞き慣れていないので……」
「いや、謝らなくてもいいよ。分かり難い事を言った俺が悪いから」
俺は適当にごまかして魔法の袋の中身を整理を始める。
大量のポーションに混じって、エリクサーがひとつだけ入っていた。
エリクサーは貴重品だ。通常は店頭に並ぶ事もないし、ダンジョン深くの宝箱の中か、終盤のレアモンスターが極稀にドロップするのを拾うぐらいしか入手する術がない。
もしオークションで出したとしたら、豪邸が建ってしまう程の金額で売れるだろう。
当然一度使うとなくなってしまうので、勿体なくて最後まで一度も使用せずにクリアしてしまうプレイヤーも珍しくない。
でも手に入らないなら増やしてしまえば良い。
ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドにはアイテム無限増殖のバグ技があるのだ。
魔法の袋はその中にほぼ無限にアイテムを収納する事ができる魔道具だ。
袋の入り口が亜空間に繋がっており、ここを通ったアイテムは──原理はよく分からないが──異次元の物質に変換され、圧縮されて内部に収納される。
その物質の変換時が狙い目だ。
原作では、アイテムを魔法の袋に入れている途中でキャンセルをする──袋を閉じる──とバグが発生する事がある。
アイテムが半分以上袋の中に入っている時に袋の口を閉じると、そのアイテムはスポっと袋の中に入る。
逆に半分以上外に出ている時に袋の口を閉じるとそのアイテムは袋の外に弾き出される。
そして、アイテムが丁度真ん中まで入っている時に袋の口を閉じるとそのバグは発生する。
そのアイテムが袋の中に入ると同時に、外にも飛び出してくる。
つまり、アイテムが二つに増殖するのだ。
余談だが、リアルタイムアタック勢はこのバグでステータス上昇アイテムを量産してキャラを短期間で強化し、クリアタイムの短縮に励んでいたが、その後バグ技の使用はレギュレーション違反とされた為にその時の記録は全て抹消されてしまったという。
早速試してみるが、なかなか成功しない。
原作ではタイミング良くキャンセルボタンを押すだけで簡単にできたのだが、アナログだとまた勝手が違う
俺は何度も繰り返して挑戦する。
ユフィーアは当然ながら俺が今何をやろうとしているのか全く理解できない様子で、不思議そうに俺を眺めている。
このままユフィーアを放置する事はできないので、俺は錬金術の一種とだけ説明をする。
そして俺はその後何度も繰り返した結果、百回目にして漸く成功した。
袋の内外にエリクサーがひとつずつ。合計二つになっている。
「ふう、やっと二つか……せめて十個ぐらいは増やしたいからな。まだまだ先は長そうだ」
「マール様、すごいです。私もやってみていいですか?」
ユフィーアは目を輝かせながら志願する。
俺は集中しっぱなしで疲れたので、ユフィーアにやり方を伝授して実際にやらせてみた。
「うーん、なかなか難しいですね」
さすがの勇者ユフィーアもこれには苦労しているようだ。
十回、二十回と挑戦するも一向に成功する気配がない。
気がつけばもうお昼になっていた。
お腹の虫がぐーっと悲鳴を上げ、俺に食事をするよう催促をする。
「ユフィーア、そろそろ昼飯にしないか?」
「いえ、もう少しでコツが掴めそうなんです」
ユフィーアは意外と物事に熱中するタイプのようだ。
「そう。じゃあ、何か食べ物を持ってくるよ」
「お願いします、マール様」
俺は食堂へ行き、持ち帰りが可能なサンドイッチと飲み物を購入すると急いで部屋に戻った。
「ただいま。調子はどう……うわっ」
俺の足下にエリクサーが転がっていた。
よく見ると、ユフィーアの周りにも大量のエリクサーがある。
「ユ、ユフィーア……これ全部君が?」
ユフィーアはこくりと頷く。
ユフィーアの雰囲気がさっきまでと明らかに違う。
まるでモンスターと戦っている時のように、周りの空気がピリピリしている。
間違いない。彼女は今ゾーンに入っている。
ユフィーアは俺の方を一瞥だにせずに、低い声で話しだす。
「マール様、完璧に把握しました。このタイミングで袋の口を閉じるんです」
そう言いながらユフィーアが魔法の袋の口を閉じると、エリクサーがひとつ袋の外に弾き出されて床に転がる。
そして袋を開けると中からもうひとつエリクサーが出てきた。
間違いなく成功している。
その後もエリクサーは増え続け、その日の内に百個のエリクサーが俺の手元に残った。
どうやら俺は勇者を嘗めてたようだ。
あまりエリクサーを増やしすぎてしまうと世界の経済にも影響しそうなので、ユフィーアに増やし続けると副作用で悪い事が起きるなどの適当な嘘をついて、これ以上の錬金術の乱用はしないように言い付けた。




