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第10話 実戦に勝る訓練はない


 王都から東へ50キロに位置するワノッペ盆地に王国軍が到着したのは太陽が丁度真上に昇った頃だ。


 予想では魔王軍がこの地に到着するのは約二時間後だ。

 俺は今の内に兵士達に食事を取らせ、迎撃の準備を進める。


「マール殿、それでどのように戦う?」


「特別な事はしませんよ。俺達冒険者が魔物と戦う時と同じです。まずは四人一組でパーティを作って下さい」


「了解した」


 バランドル将軍の指示で、兵士達は四人一組に別れ、合計七千五百組のパーティを作る。

 今度はそれを横に千五百組、縦に五列に並べさせる。

 盆地の両側は険しい山岳だ。これで迂回して背後を取られる心配はない。


 ここにきて俺は作戦の詳細を伝える。


「間もなく魔王軍が到着します。最前列の人はパーティ単位で仲間達と連携して目の前の敵に当たって下さい。パーティ内でひとりでも怪我人が出たら二列目と交代し、最後尾に下がってポーションで治療をして下さい」


「マール殿、乱戦では怪我など当たり前。怪我ごときでいちいち交代していたのではあっという間に戦線が崩壊するのでは?」


 普通ならそうだろう。

 だからバグ技を使わせてもらう。


「これから皆に防御の極意を伝授します。敵と戦う時に、まず盾を掲げて防御をする()()をして下さい。実際に防御をする必要はありません。そしてフリをしたら後は普通に剣で戦って下さい」


「え? どういう事ですか!?」


 兵士達がざわつく。

 正常な反応だ。


 俺だってこのバグの事を知らなければ「何言ってるんだこいつ」と思うだろう。


 これは所謂(いわゆる)防御キャンセルというバグだ。

 原作では防御コマンドを選択した後にキャンセルをして他のコマンドを選択すると、何故か防御状態を維持したまま他の行動ができる。


 具体的には受けるダメージが大幅に減る。

 昨日の訓練で兵士達はかなり強くなっている。

 ゴブリンやオーガ程度が相手ならほぼノーダメージだろう。

 さらに盾と剣の熟練度も同時にアップするというおまけつきだ。


 誰かが怪我をする度に後列と交代させる事によって、()()による戦死者を出す事を防ぐと同時に、全ての兵士を満遍なく鍛えられるという寸法だ。


「まあ騙されたと思ってやってみて下さい。実際にはできなくても、防御をするんだというが気持ちがあるのとないのでは全然違いますよ」


 俺はつい精神論のような事を口走ってしまった。

 この世界の人間にバグについて説明をする事は難しいから仕方がない。


「分かりました。昨日の訓練の事もありますし、俺達は総教官を信じます!」

「私もだ」

「おいらも!」


 皆聞き分けがいい子達ばかりだ。


 俺よりも年上ばかりだけど。



 ワノッペ盆地に到着して二時間後、前方より魔王軍が現れた。


 最後尾には竜人間(ドラゴニュート)の姿が見える。

 間違いない、魔王軍四天王のひとり、クロコワイバンだ。


 クロコワイバンは最後尾にて指揮を執っているようだ。


 これは理想的だ。

 強くなっているはいえ、さすがに一般兵ではクロコワイバンの相手をするのは厳しいからね。


 この中でクロコワイバンと互角に渡り合えるのはバランドル将軍ぐらいだろう。

 俺はバランドル将軍に耳打ちをする。


「バランドル将軍、暫くは我が軍の優勢が続くでしょう。魔王軍が攻めあぐねているところでクロコワイバン自らが出てくるはずなので、後は将軍に任せます」


「ふむ。私に手柄を譲ってくれるというのか?」


 バランドル将軍は先日の御前試合で俺に敗れた事で、俺の方が強いと思い込んでいる。

 実際には普通に戦えばバランドル将軍の方が何倍も強いのだが、そう思われていたままの方が何かと都合がいい。

 表向きはバランドル将軍に花を持たせるという事にしておこう。


 原作ではバランドル将軍とクロコワイバンは同じくらいの強さだ。

 兵士達に援護させながら戦えば充分勝機はあるだろう。


 やがてクロコワイバンの号令が盆地内に響き渡り、ゴブリンとオーガの群れが一斉に襲いかかってきた。


 兵士達は俺の指示通り防御キャンセルを駆使して殆どノーダメージのまま敵を仕留めていく。


 思ったより兵士達はダメージを受けないので、一定時間戦ったら怪我をしていなくても後列と交代するように兵士達に作戦の変更を伝える。


 戦闘が小一時間程経過した頃、予想通り痺れを切らしたクロコワイバンが役立たずのゴブリンやオーガを掻き分けながら自ら攻め上がってきた。


 俺はクロコワイバンを指差し、バランドル将軍に合図を出す。


「バランドル将軍、今です!」

「おうよ!」


 クロコワイバンが手にした巨大な斧で兵士のひとりを叩き切ろうとした刹那、後方から飛び出てきたバランドル将軍の大剣がクロコワイバンの身体に深々と突き刺さる。


「ぐ、ぐぎゃああああああ!」


 クロコワイバンは断末魔の悲鳴を上げながら、実にあっけなく事切れた。


「ふん、こんなものか」


 バランドル将軍は物足りなさそうに溜息をつく。


 おかしい。


 いくら隙をついたとはいえ、クロコワイバンはこんなに簡単に倒せる相手ではない。


 バランドル将軍の全力の攻撃を十回は耐えられる程のHPはあるはずだ。

 俺が知っているゲームよりも弱体化しているのか?


 ……いや、違う。逆だ。


 原作よりもバランドル将軍が強くなってる。


 指揮官のクロコワイバンが討たれた事で、魔王軍は大混乱となった。

 バランドル将軍はすかさず兵士達に突撃命令を出し、魔王軍を一網打尽にする。


 ここから先は一方的な展開だった。


 そして魔王軍の殲滅後、その勢いに乗って東の砦まで進撃する。

 砦を守る魔物達はほぼ無傷で現れた王国軍に驚き、我先にと逃げていった.


 砦を制圧して休憩をしていると、バランドル将軍が上機嫌で声をかけてきた。


「マール殿、お主の作戦は見事に当たったな。これ程の一方的な勝利は過去に経験がない」


「いえ、それよりもクロコワイバンを仕留めたあの一撃、お見事でした」


「ふん。マール殿にはいずれリベンジをさせて貰わなければならんのでな。昨日は一睡もせずにお主の訓練方法を実践させて貰ったのだよ。それなりの成果はあったであろう? 今は眠たくてかなわんがな。はははははは」


「は、は、は……。王都に戻ったらちゃんと睡眠をとって下さい」


 こうして、俺達はたったひとりの犠牲も出さずに完全勝利をしたのである。


 ちなみに今日の戦いで兵士達は大量の経験値を獲得し、全員レベルが20相当までアップしていた。


 もう間違いなく俺より強くなってるな。

 ちょっと複雑な気分だ。


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