第12話 最強の冒険者誕生
グーラー陛下には魔王討伐の旅に出ると言ったものの、実際のところ今この時点で魔王を討伐する事はできない。
魔王は魔界と呼ばれる世界を支配しているが、魔界へ行く方法が現時点では誰も知らないのだ。
実は原作ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドをクリアした俺も知らない。
一定数のクエストをこなす事で魔界へ行くイベントが発生するのだが、肝心のそのイベントムービーシーンがバグのせいで画面が真っ黒になり、音声だけが流れてくる状態だったので、何が起きたのかさっぱり分からなかったのだ。
そのイベントシーンを文字に起こすとこうだ。
「待っていましたよ主人公(ここにプレイヤーの名前が入る)。これからあなた達を魔界へお連れ致します」
「あ、あんたは……その姿、まさか魔族だったのか」
「はい。隠していた事は謝ります。しかし、あなた達にも、そして魔王軍にもこの事を知られる訳にはいかなかったのです」
「……いいだろう。あんたが嘘をついていないという事は目を見ればわかる。俺達を魔界まで連れて行ってくれ」
「信じてくれてありがとう。それではこの魔法陣の上に乗って下さい。……はあっ!」
ギュオオオオーン
パシューン
ゴゴゴゴゴゴ
「あ、あれが魔界への入り口……」
「主人公(ここにプレイヤーの名前が入る)、時間がありません、お急ぎ下さい」
「ああ、ありがとう××××(ここで音声が一瞬途切れる。多分バグ)。必ず魔王を倒して戻ってくるよ」
ピシューン
ゴゴゴゴゴゴ
キュイーーーン
「着いた……のか?」
「ここが魔界……」
「よおし、行こう! 行こうぜ皆! 俺達の手で魔王を倒し、この戦いを終わらせるんだ!」
「おう!」
ここで画面が元に戻り、いつの間にか主人公達は魔界のフィールドの上に立っている。
余談だが哀愁漂う中に勇ましさが見え隠れしている魔界のフィールドのBGMは評判がよく、有志が行った投票式の好きなゲームの曲ランキングでは上位に食い込んでいる。
クソゲー程BGMが良いとはよくいったものだ。
俺達を魔界へ連れて行ってくれる人物のセリフには強烈なエフェクトが掛かっている為、その声からキャラクターを特定する事はできなかった。
キャラクターの性別すら分かっていない。
本当に余計な演出を入れてくれたものだ。
結局俺達は魔界へ行くイベントが発生するまでは適当にクエストをこなしていくしかないという結論に達した。
そんな訳で、俺とユフィーアはとりあえず冒険者ギルドへ行ってパーティの登録をする事にした。
冒険者ギルドの扉を開くと、顔見知りの冒険者達が声をかけてきた。
「お、英雄様の凱旋だ」
「ようマール。聞いたぜ、王国軍を率いて魔王軍を撃退したそうじゃないか」
「あの魔王軍四天王クロコワイバンを一太刀で仕留めたんだって?」
「まさかお前にあんな才能があったとはな。能ある鷹は爪を隠すってか」
実際に軍を率いていたのも、クロコワイバンを倒したのもバランドル将軍だ。
俺は前世の知識の一部を彼らに伝えただけだ。
どこかで話に尾ひれがついてるな。
「ホリンとミーリャはお前の事を役立たずだの不良債権だの言いたい放題だったが、何の事はねえあいつらに見る目がなかっただけじゃねえか」
「それで今度は竜殺しの勇者様と魔王討伐の旅に出るっていうじゃないか。あんたは俺達冒険者ギルドの誇りだ。頑張ってくれよ」
俺の戦闘力だけを見るならばホリンとミーリャの言う事も強ち間違っていないので複雑な気分だ。
「ああ、必ず魔王を倒してみせるよ」
俺は彼らと軽く話をして別れた後に受付へ向かった。
「いらっしゃいませ。元【トライアド】のマールさんと、新規登録のユフィーアさんですね。勇者ユフィーアさんのお噂はかねがね伺っています」
「元……?」
通常、冒険者ギルドに登録をしたパーティから外れるにはその本人かパーティのリーダーの申告が必要になる。
俺はいつの間にか【トライアド】のメンバーから外されていたらしい。
きっとリーダーの権限でホリンが勝手に除名手続きをしたんだろうが、これで俺が手続きをする手間が省けたというものだ。
まずはユフィーアが冒険者としての登録を行う。
用意した履歴書を提出し、登録申請用紙に記入をする。
ユフィーアは字も美しい。
「うーん……」
途中でユフィーアの手が止まった。
「マール様、希望する冒険職のところには何と書けばいいのでしょうか?」
冒険者はギルドに登録をする際に、自分の得意分野に合った冒険職を登録申請用紙に記入する。
武器での戦いが得意なら戦士、攻撃魔法が得意なら魔導士、回復魔法が得意なら治癒士といった具合だ。
冒険職の種類はたくさんあるので、別紙の冒険職一覧表を見ながら自分に合ったものを選択する人がほとんどだ。
ちなみに俺は魔法と武器での戦いが得意──という設定のキャラ──なので魔法戦士で登録している。
一応簡単な回復魔法も使えない事はないが、本職の人の魔法に比べれば雀の涙程しか回復しないので考慮していない。
ユフィーアの場合はどうだろうか。
確か原作では……。
ありとあらゆる武器に精通。
サイクロプス程度なら素手で倒した事があったはず。
攻撃魔法、回復魔法、召喚魔法、補助魔法、ほとんど全ての魔法を使いこなせる。
罠の解除も盗賊並だ。
騎馬や竜に乗って戦う事も可能。
貴族の嗜みである歌や踊り、楽器の演奏も得意。
水泳、料理、絵画の腕も超一流。
……なんだこれ。
俺は受付嬢になんて書けばいいのか相談をするが、受付嬢も困っているようだ。
「もう、そのまま勇者でいいんじゃないかな?」
いつまでも先へ進まないので、俺は冗談でそう言ってみた。
もちろんそんな冒険職はない。
「か、確認します……」
「え? いや、今のは冗談……」
受付嬢は俺がそう言うのを聞かずに奥へ行き、暫くして戻ってきた。
「ギルドマスターに確認をしてきました。ユフィーアさんは特別に勇者でOKだそうです」
「いいんだ……」
こうして特例が認められ、無事にユフィーアの冒険者登録が完了した。
次は特別な魔道具を使用したレベルの鑑定だ。
HP、力、素早さ、魔力等の様々な能力から現在の大まかな強さを数値化してくれる。
ユフィーアは魔法陣が描かれた床の上に乗ると、周囲に置かれたビデオカメラのような形をした魔道具が動き出して全身のスキャンが始まる。
ギルドのスタッフがその結果を読み上げる。
「ええと、勇者ユフィーアさんのレベルは……125です。……125!?」
現在最強の冒険者と言われるランスマスター、カイロウス氏でさえレベル108だ。
スタッフが驚愕するのも分かる。
でもまあ、ユフィーアは原作でもプレイヤーからパラメータ設定を間違えたんじゃないかと囁かれる程の最強キャラクターだ。
原作で仲間になった時にはもっとレベルが高かった。
今さら驚きはしない。
ちなみに俺はどうせレベル10のままなのでレベルの鑑定はパスした。




