婚約者と反省
リーデシアはアルフレッドの婚約者である。
花嫁修行と称して同居どころか同衾しているが、今まで一線を越えたことはない。
一緒にお風呂に入ったり、一緒の布団で寝たり、意味もなく触れ合ったりしているが、一線を越えたことはないのだ。ないったらない。
それはひとえに、アルフレッドの忍耐によるところが大きい。
アルフレッドはリーデシアを愛している。
わざわざ言葉に出さなくても態度で丸分かりなのに、わざわざ言葉で伝えてくるくらいには愛している。
どれくらい好きかと言うと「いっぱい好き」と照れた様子で言ってみせるくらいには愛している。
偶然近くに居合わせた不運なハンナから表情が抜け落ちるくらいには愛している。
そんなアルフレッドだからこそ、どれだけリーデシアからくっつかれようがべたべたされようが、しまいには何度も繰り返しキスされようが、決して一線を越えることはなかったのだ。
何故ならば、リーデシアが触れ合う以上の行為を望んでいないから。
***
寝室のベッドで横になりながら、アルフレッドはひたすらに耐えていた。
向かい合って抱き着くように寝ているのは、婚約者のリーデシアだ。
リーデシアは昨日、友人であるハンナから「地位ある者が、一つの国に肩入れし過ぎてはならない」と窘められてから落ち込んでいた。
友人は商人としての能力を使って、現人神がどうとか象徴が何とか、調べられる範囲で情報を収集してきたらしい。
リーデシアにとってみればお祝いごとらしい雰囲気なので祝ってみたのだが、何やら色々と問題があるようだ。
そこら辺を含めて言動には気を付けなさいと叱られてしまい、彼女は随分と反省していた。
落ち込む婚約者を見かねて普段よりも甘やかしにかかったアルフレッドは、己の理性耐久試験に自ら望むことになったのだった。
アルフレッドが呼吸をする度に、花のように甘い香りが吸い込まれる。
彼の首から胸元にかかるリーデシアの長髪はかすかにウェーブがかっており、身動ぎすれば意図せず首筋をくすぐった。
規則正しく上下する柔らかな胸が押し当てられ、少々低めの体温を知らせてくれる。
たまに漏れる寝言には多分に吐息が含まれ、どこか色っぽい。
リーデシアがアルフレッドに甘えるのに、特別な理由は存在しない。ただそこにいるからひっつくし、忙しそうにしていなければ引き留める。
アルフレッドも彼女に対してだけは態度が砂糖よりも甘くなる。
普段はどこか冷たい印象を受ける目元も、リーデシアを前にすれば優しげに緩んでいる。
誰がどう見ても恋人を愛しく思っている雰囲気を撒き散らしており、リーデシア以外の第三者には激しく手厳しい。
彼の贔屓は露骨で顕著過ぎた。
愛しい恋人の無防備な姿に、信頼に対する嬉しさと、あまりの無邪気さに心配を覚える。
果たして自分の婚約者がこんなに可愛くて大丈夫だろうか。
こんなに警戒心の欠片もないなんて、いくらアルフレッドでも正気を失っていれば即抱いていただろうに。とても危ない。
このまま何事もなく朝を迎えるのか、それともとうとう一線を越えてしまうのか。
もちろん、答えは言うまでもない。




