12がつ13にち 晴れ (憑き物落としとかそんな日) その3
12がつ13にち 晴れ (憑き物落としとかそんな日) その3
「私達が、こっくりさんをやるのですか。いったい何故?」
驚きと少し怒りが混じり、声が大きくなっている。
まぁ、その疑問は分かる。
娘が風邪をひいたのに、親に薬を飲ますような事を言っているのだからね。
また、宏美ちゃんがオカシクなった儀式をヤラされるというのは理解できないうえに恐怖もあるだろう。
正直アタシも面倒だからやりたくはないのだけれど。
「宏美さんが、どうしてこのような事態を引き起こしたのかは推測出来ています。そして、どう対応するのかも」
内心はともかく、自信満々の態度と声で改めて言う。
「ただし、その対応の仕方は今の段階だとお二人には理解されないと考えています」
特に、霊などを胡散臭いと考えている父親の方は。
両親を無視して、宏美ちゃんの狐落としをやってしまってもいいんだけど。
下手すると不審者扱いされるかなぁ。
「納得してもらう為に、順を追って説明していきますが言葉だけでは理解度が違うので体験していただきます」
有無を言わせぬように、言い切った。
やらないなら帰る位の勢いで言い切る。
とにかく、こちらのペースに乗せる。
「…分かりました。やりましょう」
娘の為だと割り切ったのか、やや憮然としながらも父親が頷く。
寧ろ母親の方が恐怖を感じ渋ったが、了承することになった。
「では用意を致しますので、少々お待ちください」
鞄からA3サイズの紙を出して、テーブルの上に広げボールペンでこっくりさん用のシートを作り始める。
上部中央に鳥居のマーク。
その左右に『はい』と『いいえ』。
その下に本来ならば右から順に、0~9までの数字を書き込むのだが。
今回は訳あって、パソコンのキーボードとは逆の左の方に固めて数字を書いた。
後は、ひらがな50音を書き込んで終了。
その間に、チセは重たそうなスポーツバックからビデオカメラと3脚を取り出し設置している。
それも、3セット分。
勿論これもアタシの私物ではなく、チセが手配した物。
こんな高級そうなビデオカメラ、買おうとする発想すら湧かない。
アタシの食費の何ヶ月分だろう。
まだ準備は終わらない。
アタシはスマホを取り出すとアプリを起動させ、テーブルの上に置いた。
「それは何ですか?」
奥さんが、興味深げに聞いてきた。
スマホです、とそのまんま答えるボケを繰り出しても今の雰囲気では笑ってもらえないだろうから普通に答える。
「デジタルコンパスです。方位磁石のアプリですね」
得意げに語っているが、こんなアプリがあることなど先日まで知らなかった。
今回の準備の為に百円ショップで方位磁石を買ってこようとしたら、チセが少し呆れながら教えてくれたのだ。
どうもデジタル機器には疎いから、あまり手が出ないのだよ。
このスマホもチセのお下がりだけれども、全然使いこなせてはいない。
「えーと、北は…と」
室内を見回すと………良かった、あった。
「すみませんが、そちらの北側の窓を少し開けても宜しいでしょうか?」
「はい。換気ですか?」
「いえ…通り道ですね」
何が通るのかは、敢えて言わない。
「あと、照明の明るさを少し落とせますか」
丁寧に丹念に、場の雰囲気を作り上げていく。
「お待たせしました。では、始めましょうか。こちらに座ってください」
テーブルを挟んで向かい合うように、夫婦二人を座らせる。
二人とも緊張からか、表情が強張っている。
チセがカメラの位置を微調整している間に、こっくりさんに必要な最後の一品を取り出す。
財布からではなく、小さな封筒に大切に入れられていた10円玉。
パチリと音を立てて、鳥居のマークの上に置く。
チセの方を確認すると、準備出来たと合図を送ってきた。
「ではお二人は、右手の人差し指を10円玉の上に置いて下さい。指は儀式が終わるまでは、絶対に離さないで下さいね」
チセは部屋の隅まで下がっており、アタシもテーブルから少し離れる。
ここまでお膳立てして、トリックだろと疑われたら嫌だからね。
「では私が言うセリフを、変化があるまで繰り返し唱えてください」
さぁ、上手くいくかな。
「こっくりさん。こっくりさん。居られましたら『はい』の所へおいでください」
ゆっくりと厳かに囁き詠うように。
アタシの言葉に続けて二人は唱え始めた。
「こっくりさん。こっくりさん。居られましたら———」
………
2回。
3回。
繰り返される呪文。
4回。
そして、5回目。
来たっ。
ほんの少し10円玉がズレた。
そう感じた動きは、そのまま止まらず気持ち悪いぐらいスムーズに『はい』の上へと移動した。
「お前、指で動かしているだろうっ」
「アタシはそんな事していない。あなたが動かしているんじゃないのっ」
悲鳴に近い、お互いを疑う夫婦の声。
「降霊に成功しましたね」
思ったより早かったなと、内心ホッとしながら声を掛ける。
この段階までいけば、9割方成功だ。
「では、幾つか質問をしてみましょう」
二人の戸惑いを無視する様に、アタシは儀式を進める。
「貴方は人間の霊ですか?」
動くという事態がごく当たり前のような感じで、『いいえ』の所まで10円玉が移動する。
上に置かれた夫婦の人差し指は、それに引きずられているかの様だ。
「貴方は狐ですか?」
『はい』
「旦那さんの血液型を教えてください」
『び い』
「娘さんの小学校は?」
『こ ま が た し よ う が つ こ う』
「娘さんの誕生日は?」
『2 が つ 2 3 に ち』
アタシの質問に淀みなく答える、というか動き回る10円玉。
これくらいでいいかな。
「こっくりさん。こっくりさん。どうぞ、お戻りください」
『はい』
「ありがとうございました」
緊張が抜け、フーッと長く息を吐く。
よし、終わった。
「お疲れ様です、終了しました。お二人とも指を離していただいて結構ですよ」
二人も脱力して、背もたれに寄りかかっている。
今目の前で起こった現象に、なんとか折り合いをつけようとしているのだろう。
「窓も閉めますね。さすがにこの季節の外気は冷たいですねぇ」
そんな様子を横目に、呑気な声を上げながら北側の窓を閉める。
「チセ、どう?」
「うん。上手く撮れてるよ」
ビデオの映像を確認していたチセの声も明るい。
よしよし。
では、両親に対する仕上げをしよう。
こっくりさんの存在を信じさせるのに成功した。
それを踏まえたうえで、今度は心理学など用いてこっくりさんの存在を否定しちゃうよー。




