12がつ11にち 曇り (憑き物落としとかそんな日) その1
12がつ11にち 曇り (憑き物落としとかそんな日) その1
『人はパンのみにて生きるにあらず』という言葉を、文字通り実感している今日この頃。
ケチャップ・マヨネーズ・塩・砂糖をローテーションさせても、パンの耳で空腹を凌ぐのは流石に飽きた。
お肉食べたいよぅ。
働きたくないでござるが、そろそろ何か仕事を探さねばなるまい。
そんな考えを見透かしたかのようなタイミングでの来訪だった。
「佐奈姉ちゃん、おひさ~」
「久しぶり、チセ。とりあえず、上がって」
「お邪魔します」
うわぁ、寒いと呟きながらチセが炬燵に入り込む。
確かに外は風も強く、冷気が肌に刺さるようだ。
まぁこの部屋の中も暖房設備が炬燵だけだから、暖かいとは言い難いが。
「珈琲で良い?インスタントだけど」
「うん、ミルクと砂糖大盛りで」
「まだ、ブラックが飲めないか。子供だねぇ」
「お姉ちゃん、知ってる?舌の味覚センサーは年を取るとドンドン減少して、大人は子供の3分の1程度になるんだよ。苦味が分かる大人って結局、舌が劣化して味に鈍感になっているだけ」
相変わらず、口が減らない。
いったい、誰に似たのだか。
夕食は、チセが持ってきたお肉で、焼肉カーニバルでフェスティバルでイヤッホーとなった。
「それで、電話で言っていた相談事って何」
パクつきながら聞いてみる。
何これ、めちゃめちゃ美味しい。
やばい。
久々の焼肉ということもあり、泣きそうになる。
「まぁまぁ、それはもうちょい後で。そんな事よりお姉ちゃんさぁ」
「ん?」
「いくら一人暮らしで部屋着とはいえ……高校時代のジャージと半纏ってどうなのよ」
「うぐっ。いいじゃない、楽なんだし」
「もう少しオシャレしなよ。素材は良いんだからさ」
「そりゃ、ファッションモデルの目から見たらダサいかもしれないけど」
「いやいや。職業関係なく、誰が見ても同じ評価だから」
くそぅ、言い返せないぞ。
服よりも、食費優先だからねぇ。
逆にチセは昔から服好きで、そのままそこそこ売れてるモデルにまでなっちゃったから。
「で、何かな。今日はわざわざ、アタシをいじめにきたのかな。泣くぞ」
「そんなに暇でもないし、性格も悪くないから。お姉ちゃんの中の私のキャラはどうなってるの」
「可愛い妹」
「ふぇっ………あ、ありがと」
この子、ちょろいな。
こんなに充実した満腹感は何時以来だろう。
このまま幸福感にだけ浸っていたいとも思うが、そうもいくまい。
「そろそろ相談事ってのを聞きたいんだけど」
厄介な事じゃなきゃいいなぁ。
「先に言っておくけど、お金は無いよ」
「そんな相談はお姉ちゃんにしないよ。私の方が数倍は稼いでいるし」
…うん。
殆ど働いてないから、本当はチセは数十倍は稼いでるけど。
それ言うとまた説教が始まりそうだから黙っていよう。
「海外のイベントが一段落したから、暫く休みをもらって日本に帰ってきたんだけどね。暇だから近所の子の家庭教師みたいなことやっているのだけど」
仕事を休んで暇だから、仕事をしている?
何を言っているのか分からない。
これがワーカーホリックというやつなのだろうか。
「大学には、行ってないの?」
「自主休学中だね。仕事の方が重要だから。もうすぐ大学も休みに入ってしまうから、今行ってもあまり意味ないし」
「ふーん」
「まぁ、そんなこんなで近所の子達に勉強とか教えているのだけど。そのうちの一人、小学4年生の女の子が問題を起こしてしまって」
「何かやらかしたの?」
「真嶋宏美ちゃんっていうんだけど。学校で先生を殴って、今は休学中」
「なかなかバイオレンスな子だね」
チセは小さく首を振った。
「少しおとなしめな、優しい子だよ」
「ふーん。でもまぁ、どうしても許せないような事を言われたとかではないの」
それなら教育委員会やスクールカウンセラーの仕事だ。
助けてあげたいけど、アタシは門外漢だよなぁ。
「違うの。彼女はそういう不満があったとかではなく、急にオカシくなってしまったらしいのよ」
「突然?」
「うん。コックリさんをやっていて、狐に取り付かれたのだとか」
あー。
やっと、アタシに話が回ってきたのかが分かってきたかも。
「ちょ、ちょっと待って。アタシ、憑き物落としなんてやったことないよ」
「えー、でもお姉ちゃんこういう変な事は得意分野でしょ」
なんか誤解をしてらっしゃる。
「それに巫女さんをやってたし」
正月にバイトでね。
「いやいや。アタシはフツーのフリーターだから。それこそ、チセの中のアタシのキャラはどうなってるのよ」
「頼れるお姉ちゃん」
「ふぇっ………あ、ありがと」
いや、でも流石に無茶な要求でしょ。
「・・・話は変わるけど、夕食のお肉美味しかった?」
「え、あ、うん。ほんとに唐突に変わったね。美味しかったよ。結構良いお肉だったんじゃない」
「100g、4000円」
「えっ」
「100g、4000円」
「えーっ」
アタシは普段、100g100円のお肉を買うのすら躊躇っているのに。
「食べたよね」
「う、うん」
「イッパイ食べたよね」
「うぐっ」
「さて、話は戻るけど。お姉ちゃんに頼みごとがあるのだけど」
「わ、分かったわよ。やってみるよ」
「さすがお姉ちゃん、頼りになる」
はぁ。
「とりあえず、色々準備が必要なんだけど」
「何が要るの」
スマホを取り出し、チセが聞いてきた。
メモを取るのかなと思ったら、アタシが品物を言うたびに様々なところに電話をかけてる。
「オッケー。明後日には、必要な物全部揃うよ」
「は、早いね」
こんなに素早く手配するとは。
チセの顔の広さは昔から異常だったけど、さらに拡張しているのか。
知人友人が数千人は居ると言っていたけど、あながち冗談ではなさそうだ。
このリア充め。
コチラとしては、もっと準備期間をとってくれた方が良いんだけど。
「では、明後日の夜に宏美ちゃんちに行くとして」
少し下準備もするか。
「チセは、真嶋さんの両親とは仲良いの」
「んー。一緒に食事とかはしてるよ」
「じゃあ、チセは明日真嶋さん家に行って、両親にアタシの事を信頼できる人物だと伝えておいて。大げさなくらい期待値アゲアゲで」
「おー、自信有り」
「いや、ないよ」
「え。それじゃ失敗した時に、紹介した私に評価まで下がっちゃうんじゃ」
「一蓮托生だね。それは、仕方がない。ただ信用されていたほうが成功率が上がるからね」
「分かったよ」
「明日は両親だけで、宏美ちゃんには会う必要はないからお願いね」
チセが帰った後、食事の片付けをした。
肉は小さい欠片まで、残らず取っておかないと勿体無いな。
しっかし、憑き物落としか。
はてさて、どうなることやら。




