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じどうしゃぶ!〜手芸部JKが30年物のKP61スターレットをDIYレストアしたら、日本アルペンラリーで総合優勝の奇跡を起こしてしまった件〜  作者: YKO


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第5レグ 咆哮する4Kエンジンと奇跡のファースト・ドライブ ①

二月に入ると、教習所のコースを囲む金網の向こうには、冬の澄み切った北風が吹き荒れていた。



「はい片岡さん、次はクランクコースに入って。車体をコースの中央に維持しながら、ポールに接触しないように通り抜けてね」



瑞穂自動車教習所の場内教習コース。教習車であるトヨタ・コンフォートの助手席でバインダーを抱えたベテラン教官の細川は、横目でチラリと運転席の少女——片岡想与香を窺った。


(ふぅ……まだ十七歳の女子高生か。

高校生で教習所に通い始める子は多いが、車体の大きさも感覚も掴めていない段階で、このクランクコースは最大の難関だからな。

どうせスピードコントロールができずに縁石に後輪を乗り上げるか、焦って前方をポールにぶつけそうになってパニックを起こすに決まっている。

いつでも即座に車両を緊急停止できるよう、補助ブレーキの上に右足をしっかり構えておかないと……)


細川教官は心の中でそう身構え、右足のつま先を助手席側の教官用ブレーキペダルにそっと乗せた。


だが、教習用コンフォートのステアリングを握る想与香は、背筋をピシッと伸ばし、真剣そのものの澄んだ瞳で前方のクランクコースを見つめていた。



「はいっ! クランクコース、進入します!」



想与香はハキハキとした元気な声で返事をすると、AT車のチェンジレバーが『D』レンジに入っていることを確認し、右足のペダルワークで微小なクリープ現象をコントロールしながら、時速数キロの徐行スピードで教習車をクランクの狭い進入路へと滑り込ませた。


道路交通法の改正により、MT免許の取得方法が一新されていた。


MT車希望者であっても、まずはAT限定の教習課程で入校して路上教習や卒業検定までを行い、その後に所内にて最短4時限の「AT限定解除教習」を受けて技能審査をパスすることでMT免許を取得する新カリキュラムが導入されていたのだ。


そのため想与香も、まずはAT教習車でコース走行や基本的な車幅感覚、速度調節を身につけている段階だった。


普通、教習生が教習所で最初に最も深い恐怖と苦手意識を感じるのが、このS字コースとクランクコースだ。


車幅感覚がまったく掴めず、ボンネットの影に隠れた前輪や後輪の位置が見えないため、パイロンや黄色い縁石にガツンと脱輪・接触し、教官にズドンと補助ブレーキを踏まれてやり直しになるのがお約束のパターンである。



だが、想与香のハンドリングには一切の迷いも戸惑いもなかった。


車体がクランクの最初の右直角コーナーに差し掛かる。


想与香はフロントガラス越しにボンネットの先端を漠然と見つめるのではなく、車体全体の「四隅の位置とタイヤの接地点」を頭の中で完璧に立体把握しているかのように、スッと滑らかにステアリングを切り込んだ。


(あ、カプちゃんのエンジンルームに比べたら、このコンフォートのボンネットはちょっと長めで、車幅も広め……。

でも、前輪の車軸の位置はシートに座った私の位置から見てちょうどこの真下あたりで、左フロントバンパーの角はあそこ……!)


去年の六月末におじいちゃんの納屋からKP61スターレットを引き出し、半年以上もの間、『篠塚モータース』のガレージで車体下に潜り込み続け、サスペンションやブレーキアーム、タイヤハウスの構造を自分の手で汚れまみれになりながら磨き込んできた想与香にとって、自動車のサイズは単なる数字ではなかった。


金属のフレームがどこを通っており、タイヤがどの角度で地面を捉えているのか


——それは彼女にとって「自分の手足の長さ」と同じくらい、明確な皮膚感覚として理解されていたのだ。


スルスルと吸い込まれるように右直角コーナーを曲がり、左前のフロントバンパーが黄色い縁石スレスレを通過する。



「……!?」



助手席の細川教官は、思わず目を見開いて身を乗り出した。


左フロントバンパーとクランクのポール、そして縁石との隙間は、わずか数センチ。


普通ならヒヤヒヤして思わず補助ブレーキを力いっぱい踏み込んでしまう絶妙な距離感だが、車体は擦ることもなく、まるで定規で描いたかのように美しい円弧を描いてコーナーをクリアしていく。


続く左直角コーナーでも、想与香はリヤの内輪差を完璧に計算に入れ、右側の縁石ギリギリに寄せながら、後輪を一切乗り上げさせることなくスムーズにクランクを脱出してみせた。



「よし、クランク脱出完了です! ……あうぅ、ごめんなさい教官!」



無事にクランクを抜け切った直後、直線コースに出たところで想与香がハンドルを真っ直ぐに戻し、運転席でがっくりと肩を落とした。



「え? な、なにがだい……?

今の、文句の付けようがない完璧なラインだったじゃないか」



ポカンとする細川教官に、想与香は本気で悔しそうな、申し訳なさそうな顔でバックミラーとサイドミラーを確認しながら言った。



「うう……さっきの最初の右折のとき、自分の理想のイメージより、左前輪の通過ラインが外側に1センチズレちゃいました……!

ホントはあと1センチ内側スレスレを通すつもりだったのに、AT車のクリープの進みがほんの少し早かったです……!」


「い……1センチ……!???」



細川教官は完全に目が点になり、手に持っていた教習バインダーを座席に落としそうになった。



「き、君……1センチのズレが感覚で分かったの……!?

ていうか、あの速度で、ミリ単位の車体感覚持ってるっていうのか……!?」


「え? はい! 六月末からずっと車の骨組みとかサスペンションとかタイヤの位置を手で直接触ってメンテナンスしてるので、タイヤが今地面のどこを踏んでるか、自分の足の裏みたいに手に取るように分かるんです!」



そうケロッと言ってのける想与香に、細川教官は開いた口が塞がらなくなり、心の中で激しく叫んだ。


(な、なんだこの十七歳の教習生は……!?

まだ免許も持ってない素人の女子高生のはずなのに、まるで何年もラリーやサーキットで極限の走りを叩き込んできた熟練レーサーみたいな異次元の車両感覚じゃないか……!!)


こうして、AT教習車での基礎教習やコース走行を驚異的な完璧さであっさりとパスした想与香は、いよいよ本命である「AT限定解除教習(MT車実習)」へと進んだ。


所内で行われる最短4時限の限定解除教習。


教習所の指導員たちの間では「あの車両感覚が化け物みたいな片岡さんでも、MT特有のクラッチ操作とシフトチェンジだけは苦戦するだろう」と噂されていた。


多くの教習生がクラッチを急に繋ぎすぎてガクンガクンと激しいノッキングを起こしてエンストさせたり、坂道発進で後ろに下がってパニックになるからだ。


だが、MT教習車のコンフォートに乗り込んだ想与香は、細川教官の予想をはるかに上回る衝撃を与えることになる。



「じゃあ片岡さん、クラッチペダルをゆっくり戻して、半クラッチのポイントを探って……」


「はい! クラッチ踏み込みます。

1速に入れて、半クラ……あ、ここですね!

ディスクがフライホイールに当たり始めて、エンジンの回転音がわずかに低くなるポイント!」



想与香は、足の裏の微かな振動と耳に届くエンジン音の変化だけで、クラッチディスクが圧着される瞬間を完璧に捉えた。


右足でアクセルペダルをミリ単位でわずかに踏み込みつつ、左足のクラッチをシルクのように滑らかに解放する。


教習車はガクつきひとつ立てず、スーッと滑るようにスムーズに発進した。



「な……!? エンストもノッキングもなし……!? 初めてのMT車だぞ!?」


「えへへ、カプちゃんのミッションを自分たちで車体から下ろしてクラッチ交換したとき、トランスミッションの中でダイヤフラムスプリングやクラッチディスクがどう動くか葵さんに詳しく教えてもらったんです!

だからペダルを押すと中で何が起きてるか頭に浮かぶんです!」



それだけにとどまらず、想与香は直線でのスムーズな2速、3速へのシフトアップはもちろん、コーナー進入手前での素早いブレーキと減速シフトダウンまで、一切のショックなくこなしてみせた。


(信じられん……!

クラッチの繋ぎに一切の無駄がないばかりか、エンジンの回転数を合わせるような滑らかなペダルワークまで自然にやってのけている……!

一体どんな環境で育ったら、こんな女子高生が生まれるんだ……!?)


実技教習において、想与香の評価は指導員たちの間で「瑞穂自動車教習所の開校以来の超天才」「伝説のスーパー教習生」として一気に噂が駆け巡ったのだった。

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