第05話 鳳伏絶刃、解放
「……超デカいカバだ」
そう言うしかないモンスターが暴れていた。
俺は、向かい風を浴びながら、ギルドの屋根の棟に右足を乗せ、腕を組む。
「もう駄目だ! この街はおしまいだ!」
「いや、まだだ!」
「勇者がいる! 百識も!」
「ああ、そのとおりだ!」
眺めはいいが、誰か服を貸してくれないかな。
勇者であるティアナが隣にいるせいで、街中の視線がパンツ一枚の俺に集まっていた。
「あれはっ……。ベヒーモス!」
ライディンがまた何かを言い出した。
下を見ると、ライディンが感極まったように打ち震えている。
「いや、超デカいカバだろ」
俺は訂正した。
だが、超デカいカバが暴れ、誰も気づかない。
ズモモモモッ、と城門が土煙をあげながら崩れ落ちた。
「ベヒーモス、地上の王者とされる獣。
神話曰く、グルニカの大岩砂漠は、ベヒーモスが山を砕いて出来たとある」
「な、なんだってっ!」
そのくせ、ライディンの解説の合間は音が止むのだから、納得がいかない。
俺はため息をついた。
どうでもいいや。
こういうのは、勇者の仕事だ。
俺の仕事ではない。
超デカいカバは、勇者のティアナが何とかしてくれるだろう。
「じーーー……。」
早く行けよ、と隣を見た。
ティアナの眼差しはキラキラと輝き、俺に向けられていた。
嫌な予感しかしない。
その目が、完全に『期待』の形をしていた。
「……どうした?」
「久々にマスターの技が見たいです!」
ティアナの一言で、さらに街中の視線が俺に集まった。
「百識の技か……。すげえんだろうな」
「あの勇者の師匠だぞ。すげえに決まってる」
「伝説に立ち会えるとは! このライディン、感激の極み!」
街の興奮が勝手に高まってゆく。
お前がやれ、とティアナに言えない雰囲気だ。
「ふっ……。ふっふっふっふっふっ……。
はぁ~~はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」
もう笑うしかない。
「あれはっ……。鳳伏絶刃!」
「し、知っているのか! ライディン!」
ごくりっ、ごくりっ、とあちこちで生唾を飲む音が聞こえる。
ティアナまでだから、笑いが止まらない。
「裸身流、鳳伏絶刃!
天空を飛ぶ鳳凰すらも、カラーテチョップで叩き落とす極めの奥義!
ああして、呵呵と笑うことで、東洋でいう『気』を内に限界まで溜めこむのだ!」
「……き、気?」
ライディンは、もう冒険者を止めて、学者になったらいいと思う。
『百識』なんて呼ばれて、無駄に増えた俺の要らないコネで何とかしてやりたい。
「つまり、今の百識は……。人間爆弾っ!」
「な、なんだってっ!」
だが、それは間違っている。
爆発する予定はない。
パンツ一枚で爆発したら大惨事だろ。
みんな、冷静になって欲しい。
「おおっ……。最後の封印が解かれるっ!」
俺は、パンツに手を伸ばした。
「キャっ!? どうして、裸なんですか! マスター!」
ティアナが両手で顔を隠して照れる。
お前の目は、節穴か。
今更すぎるだろ。
しかも、どっちの手も中指と薬指が離れ、節穴が見えている。
隠す気がなさすぎる。
そもそも、ミニスカートで屋根に上がっているやつに言われたくない。
丸見えだろうが。
年頃の女の子なのだから、慎みを持てと何度も言ったよね。
風だって吹いている。
少しは押さえて、隠そうとする努力をしろよ。
「ふっ……。暁が眩しいな」
しかし、もう引っ込みがつかない。
俺は、ただ戦う前にパンツをしっかり穿いておこうと思っただけなのに。
「はい! マスターの絶技、しかとこの目に焼き付けます!」
見てる。
めちゃくちゃ見てる。
お前、もう節穴を隠す気ないよね。
弟子を名乗るなら、師匠の恥ずかしいところは見るなよ。




