表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全てを識る百識の男  ~ また俺だけ知らない伝説が増えている ~  作者: 浦賀やまみち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/5

第04話 ヘルドラゴンを討ちし者




「ふっ……。」



 気づくと、ギルドの天井が見えていた。

 どうやら一瞬、意識が飛んでいたらしい。


 横綱五人が突っ込んできたような衝撃だった。


 全身が痛い。

 むしろ、無事な場所を探すのが難しいほどだ。



「マスター、やりましたよ!」



 いや、今は痛みより、もっと重大な問題がある。


 倒れた俺に、ティアナがぎゅっと抱きつく。

 そのまま俺の胸に顔を押しつけ、猛烈な勢いで頬ずりを始めた。



「課題の赤、青、黄のドラゴン討伐!」



 馬鹿野郎、今の俺はパンツ一枚だぞ。


 十五歳の癖して、けしからん成長しやがって。

 お前の凶器をぎゅうぎゅうと押し付けられたら、健全な成人男性の証拠が反応するだろうが。


 過大評価な『百識』の二つ名も御免だが、セクハラ野郎の称号はもっと御免だ。

 こういうときは、超むかつく親父の顔を思い浮かべるに限る。



「実は、黄色いドラゴンなんて、本当にいるのかなーって、少し疑っちゃいましたけど……。」



 失敗した。


 頭上を見上げようとしたら、受付嬢の足があった。

 肌色の向こうに、オレンジ色があった。


 どうせ抱きつかれるなら、受付嬢のほうがまだよかった。

 俺は、未成年にときめいたりはしない。



「ふっ……。」

「黄色いドラゴン、本当にいました!」



 俺は目を静かに閉じ、心頭滅却する。



「ドラゴンを倒したってのも、すげえけど……。」

「……だな。イエロードラゴンなんて、聞いたことないよな」

「イエロードラゴン……。もしや、ヘルドラゴンっ!?」

「知っているのか! ライディン!」



 何か始まった。


 だが、俺は屈しない。

 心を澄み切った水面のようにし、そこに落ちる一滴の水を捉える努力を重ねる。



「皆も温泉は好きだろ?」

「まあ、そりゃな」



 温泉か、いいな。

 次は、温泉があるところに行こう。


 半年くらい、のんびりしたい。

 俺のささくれだった心を癒すには、それくらいの期間は必要だ。



「温泉は、生きとし生けるものの楽園だ。

 それは……。ドラゴンも同じだ!」

「なんっ、だとっ!」



 そのためにも、今も俺の上から退こうとしないティアナをどうにかする必要がある。


 さっさと退けよ。

 抱きつくのを止めたのはいいが、いつまでも馬乗りになっているつもりか。


 絵面が悪すぎる。

 一応、無実を証明するために両手は上げておく。



「しかし、ドラゴンほどの巨体が浸かることができる温泉となると、そうない。

 そして、温泉といえば、硫黄だ」

「つまり、どういうことだってばよ!」



 それにしても、盛り上がっているな。

 ギルドには百人以上いたはずなのに、今はもうライディンの解説と合いの手しか聞こえない。



「分からないか?

 ドラゴンが浸かることができる温泉があるような場所を……。人は、地獄谷と呼ぶ!」

「地獄……。ヘルっ!」



 何が『ヘルっ!』だよ。


 減るのは、俺の財布だ。

 そう言えば、そろそろ借金の取り立てが来る頃だった。


 どうやら、この国を旅立つときが来た。

 カジノにハマっているなんて知られたら、かなりヤバい。



「……とはいえ、強靭なドラゴンに硫黄は無意味。

 だが、硫黄は鱗に『月日』を刻み、やがて黄色へと染め上げるのだ」

「おおっ……。」



 とりあえず、ティアナから逃げるための課題は何がいいだろうか。


 役立たずで、根性無しのドラゴンめ。

 ドラゴン三匹なら、一年は保つと思ったのに、俺の自由はたった一か月半で終わった。


 赤、青、黄を選んだのは、ただの信号機の色だ。

 俺は、ヘルドラゴンなんて知らない。



「それだけではない。

 ドラゴンが持つ時間は、人間と比べものにならない。

 当然、湯治も長くなる」



 しかし、ライディンの解説は役に立った。

 ティアナにはどんなモンスターをぶつけても無駄だと分かった。


 勇者の名で呼ばれるのも、伊達ではない。



「すなわち、ドラゴンそのものが硫黄という毒になる!

 もはや、人が近づくことすら許さず、立てた刃は腐る。……その名を、ヘルドラゴン!」

「な、なんだってぇ!」



 今度は、あり得ないアイテムを探させよう。

 竹取物語のかぐや姫に倣い、『蓬莱の玉の枝』とかどうだろうか。


 我ながら名案だ。



「やっぱりマスターはすごい!」

「ふっ……。」



 どういう理屈かは謎だが、ティアナが俺を褒め称える。


 気にしたら負けだ。

 こいつは、そういうやつなのだから。


 だが、この空気なら、ティアナを自然に退けることができる。

 俺は上半身を起こした。



「た、大変です! じょ、城門に、巨大なモンスターが!」



 その瞬間だった。

 風雲急を告げる報せが、ギルドに飛び込んできた。


 ここには、勇者がいる。

 俺の出番はない。逃げるが勝ちだ。



「マスター!」

「盆東風は……。好みじゃない」



 駄目だった。

 まだ俺の上に乗っているティアナの両足が、がっちりと俺を挟み込んだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ