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【完結】妹として迎えた婚外子が、私から夫まで奪いました  作者: モーヒアス


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33/39

番外編 リリアのその後 第6話「あの手この手」

本日2話更新します!

1話目は17時更新!

 アレクシスから茶会を禁止されてから、三日。

 リリアは、自室のソファに座ったまま不機嫌そうに頬を膨らませていた。


「……つまらない」


 目の前には、読みかけの本。

 しかし、数ページ読んだところで飽きてしまった。

 「これも良い機会だ」と、手にとってみたはいいがダメだった。

 読書は苦手だ。

 昔からそうだった。

 沢山の文字を見た瞬間に気持ちが冷めてしまう。

 そんな自分にうんざりしながら窓の外を見る。


 庭では使用人たちが忙しそうに働いていた。


 以前なら。

 この時間には、茶会の準備を考えていた。

 誰を呼ぶか。

 どんな料理を出すか。

 どんなドレスを着るか。

 そして。


 皆が自分を見て、どんな顔をするのか。


 それを考えるだけで楽しかった。

 だが。

 今は、それもできない。


「……どうして私ばかり我慢しなきゃいけないの?」


 お腹へ手を当てる。

 まだ目立つほどではない。

 けれど。

 確かに、そこには命が宿っている。


「私は妊娠しているのよ」


 それなのに。

 アレクシスは、茶会を禁止した。

 ドレスも。

 宝石も。

 今後は勝手に買うなと言われた。


「……まるで私が悪いみたいじゃない」


 リリアは唇を尖らせる。

 自分は侯爵夫人になった。

 しかも。

 侯爵家の跡継ぎを身ごもっている。

 普通なら。

 もっと大切にされてもいいはずだ。

 もっと自由にしてもらってもいいはずだ。


「お姉様がいた頃は……」


 そこまで言って、リリアは口を閉じた。


「……もう、いいわ」


 エレノアの名前を思い出すだけで、胸がざわつく。

 いつもそうだった。

 何をしても。

 誰と話しても。

 何か問題が起きても。

 最後にはエレノアと比べられる。


「私はお姉様じゃない」


 鏡を見る。


「私は私よ」


 そして。

 ふと、リリアの目が輝いた。


「……そうだわ」


 茶会が駄目なのなら。

 別の方法を使えばいい。


「贈り物よ!ちょっと、リストを持ってきてちょうだい!」

「……贈り物、でございますか?」


 傍に控えていた侍女が聞き返した。


「ええ」


 リリアは嬉しそうに立ち上がった。


「茶会を開けないなら、皆様に贈り物をすればいいのよ」

「……」

「そうすれば、皆様も私と親しくなりたいと思うでしょう?」


 侍女は少し考えた。


「奥様、それは……」

「何?」

「いえ……」


 侍女は言葉を濁した。

 だが。

 リリアは気にしない。


「茶会みたいに大勢を呼ぶ必要もないし、料理も用意しなくていい」

「……」

「それに、贈り物なら私が直接会わなくてもいいでしょう?」

「まあ……そうですが」

「でしょう?」


 リリアは得意げに笑った。


「アレクシス様だって茶会を禁止しただけで、贈り物まで禁止したわけじゃないもの」


 侍女は、何も言えなかった。


「だったら問題ないわ」


 リリアはそう結論づけた。


「早速用意してちょうだい」

「何をお贈りするのでしょうか?」

「そうね……」


 リリアは腕を組む。


「高級なお菓子と……あとは宝石?」

「宝石、でございますか?」

「ええ。女性なら喜ぶでしょう?」

「ですが、贈る相手によって好みも――」

「いいのよ」


 リリアは手を振る。


「侯爵夫人から贈られるものなら、何でも嬉しいでしょう」


 その言葉に。

 侍女は黙った。


「何?」

「……いえ」

「早くして」

「承知いたしました」


 侍女は頭を下げた。




 数日後。

 バシード侯爵家から、王都の貴族たちへ次々と贈り物が届けられた。


 高級菓子。


 香水。


 装飾品。


 高価な布地。


 もちろん中には、宝石までつけて。


 どれも。

 決して安いものではない。

 リリアは満足そうに、その報告を聞いていた。


「どう?」

「皆様、受け取られております」

「でしょう?」


 リリアは嬉しそうに笑う。


「きっと、皆様も喜んでいるわね」

「……はい」

「明日にはお礼状がたくさん届くかしら?」

「いえ、あの……。はい、おそらく……」

「楽しみだわ〜」


 リリアは胸を張った。


「これで私も、社交界の皆様と仲良くなれるわね」




 翌日。

 届いた手紙は。

 思っていたほど多くなかった。


「……え、これだけ?」


 机の上に置かれた数通の手紙を見て、リリアは眉を寄せる。


「はい」

「どうして?」

「皆様、お礼状をくださっておりますので……」

「でも、もっとあるでしょう?」

「昨日お届けした数を考えますと……」


 侍女は言葉を濁した。


「何人くらいに贈ったと思っているの?」

「三十名ほどかと」

「それなのに、これだけ?」

「……」


 リリアは不満そうに手紙を開く。

 どれも。

 丁寧な礼が書かれている。


『このたびは結構なお品を賜り、誠にありがとうございました』


『身に余るほどのお心遣い、恐縮しております』


『ありがたく頂戴いたします』


 そこには。

 確かに感謝の言葉が並んでいた。

 けれど。

 リリアが期待していたような言葉はない。


「……つまらないわ」

「奥様?」

「もっとこう……」


 リリアは手紙を見つめる。


「『ぜひ今度お会いしたいです』とか」

「……」

「『リリア様ともっと親しくなりたいです』とか」

「……」

「そういうことを書いてくれてもいいじゃない」


 侍女は何も答えなかった。


「せっかく高いものを贈ったのに」


 リリアは唇を尖らせる。


「お礼だけなんて」


 そして。

 一通の手紙を手に取った。


「……この方には、宝石まで贈ったのよ?」

「はい」

「それなのに、これだけ?」

「十分丁寧なお礼状かと……」

「そうじゃないの!」


 リリアは手紙を机へ置いた。


「私は、仲良くなりたくて贈ったのよ」

「……」

「だったら、向こうもそれくらい分かるでしょう?」


 侍女は困った顔をした。


「奥様……」

「何?」

「贈り物というものは、必ずしも見返りを求めるものでは――」

「分かっているわ!」


 リリアが遮る。


「そんなことくらい知っているわよ」


 けれど。

 その顔は明らかに不満だった。


「でも、私は侯爵夫人なのよ?」


 リリアは言う。


「侯爵夫人から贈り物をもらったなら、それ相応にするのが普通でしょう?」


 侍女は答えなかった。

 一方。

 贈り物を受け取った側でも。

 困惑は広がっていた。


「……どういうつもりなのかしら」


 一人の伯爵夫人が、届けられた宝石を眺めていた。


「さあ……」


 向かいに座る夫人が答える。


「茶会を断った直後ですもの。何か意図があるのでは?」

「でも、こちらから何か頼んだわけでもないのに」

「だから困っているのよ」


 別の夫人が苦笑した。


「これ、返した方がいいのかしら」

「返すのも失礼でしょう」

「かといって、受け取ってしまえば……」

「侯爵家との付き合いですからね」


 誰も。

 リリアが望んでいたような親しみを感じてはいなかった。

 むしろ。

 どう対応すればいいのか分からない。

 それが現実だった。

 そんなこととは知らず。

 リリアは次の贈り物を考えていた。


「今度は、もっと高いものにしましょう」

「奥様?」

「前のものでは足りなかったのよ!」

「ですが……」

「例えばグリーバー公爵夫人」


 リリアは名前を挙げた。


「確か、宝石がお好きだったでしょう?」

「はい」

「じゃあ……大きなものを贈って」

「……どの程度でしょうか?」

「そうね……」


 リリアは少し考える。


「私が今持っているものより、少しだけ高いもの」

「奥様、それは……」

「何?」

「かなりの金額になりますが」

「だから何?」


 リリアは不思議そうにする。


「侯爵家でしょう?」

「……」

「それに」


 リリアは自分のお腹へ手を当てる。


「私は今、侯爵家の跡継ぎを身ごもっているのよ」

「……はい」

「この子が生まれたら、大きなパーティーを開くでしょう?」

「……」

「そのためにも、今から人脈を作っておかなくちゃ」


 リリアは笑う。


「母親になる私が、皆から嫌われていたら困るでしょう?」


 侍女は答えなかった。


「だから必要なの」


 リリアは断言した。


「全部、この子のためよ」


 その言葉を聞いて。

 侍女は、もう何も言えなかった。




 その日の午後。

 アレクシスの執務室に。

 一枚の書類が届けられた。


「旦那様」

「何だ?」

「あの、こちらを……」


 アレクシスが受け取る。

 そこには。

 最近の侯爵家の支出が一覧になっていた。


「……」


 目を通す。


「……贈答品?」

「はい」

「これは何だ?」

「奥様が、最近になって貴族の方々へ贈られているものです」

「……こんなに?」

「今のところは、これだけでございます」


 アレクシスは眉間を押さえた。


「茶会は禁止したはずだ」

「はい」

「なのに、なぜ社交費が増えている?」

「奥様は『贈り物なら問題ない』と……」

「……」


 アレクシスは黙った。

 そして。

 金額を見る。


「……馬鹿な」


 思わず呟いた。

 決して侯爵家が一度で破綻するような額ではない。

 だが。

 今の侯爵家には。

 明らかに破綻に繋がるほどの必要のない支出だった。


「これを全部、リリアが?」

「はい」

「誰か止めなかったのか?」

「……申し上げました」

「何と?」

「今は社交費を抑える必要がある、と」

「それで?」

「『子供のために必要なのだから問題ない』と……」

「……」


 アレクシスは目を閉じた。

 また。

 子供を理由にしている。


「……分かった」

「旦那様?」

「私から話す」

「承知いたしました」


 執事が退室する。

 アレクシスは一人、書類を見つめた。

 その時。

 ふと。

 机の端に置かれた古い帳簿が目に入った。

 エレノアが残したものだった。

 ページをめくる。

 そこには。

 以前、社交費について記された記録があった。


『今年は南部の税収が減少する見込み。社交費は前年より一割削減する』


 その下には。


『ただし、取引先への贈答品については削減しない。今後の商取引に影響するため』


「……」


 アレクシスの指が止まった。

 ただ贈り物を減らしていたわけではない。

 必要なもの。

 必要ではないもの。

 相手との関係。

 領地への影響。

 その一つ一つを考えていた。


「……贈る相手に合わせて全て変えている。全員の好みを覚えているのか」


 エレノアからすれば至極当たり前のことだった。

 だが。

 アレクシスには、それが見えていなかった。

 エレノアが侯爵夫人として何をしていたのか。

 社交の場でしたささいな会話からそれぞれの好みを把握していた。

 自分は知らなかった。

 知ろうともしなかった。


「……」


 アレクシスは帳簿を閉じた。

 自分の無能さに頭が、胸が痛くなった。

 



 その日の夕食後。

 リリアの部屋を訪れた。


「アレクシス様?」


 リリアは驚いた顔で振り返った。


「どうしたんですか?」

「少し話がある」

「何でしょう?」


 リリアは笑顔になる。


「もしかして、この前の茶会のことを褒めてくださる気になったんですか?」

「違う」

「……」


 笑顔が消えた。


「では、何です?」

「贈り物のことだ」

「ああ」


 リリアは納得したように笑う。


「そのことですか」

「今後、勝手に高価なものを贈るのはやめてくれ」

「……どうして?」

「茶会を禁止した意味を理解しているか?」

「理解しています」


 リリアは即答した。


「だから茶会は開いていないでしょう?」

「そういう問題ではない」

「でも、贈り物ですよ?」


 リリアは不思議そうにする。


「茶会よりずっと安いじゃありませんか」

「あんな数……ましてや宝石まで……決して安くない金額だ。侯爵家を破綻させる気か」

「でも……」

「リリア」


 アレクシスは静かに言った。


「これは侯爵家の金だ」

「分かっています」

「なら――」

「だからこそです」


 リリアが遮った。


「侯爵家のために使っているんです」

「……何?」

「私は、社交界で皆様に認めてもらわなければならないんでしょう?」

「誰がそんなことを言った?」

「言われなくても分かります」


 リリアは胸を張った。


「侯爵夫人なんですもの」


 そして。

 お腹へ手を添える。


「それに、この子のためでもあります」

「……」

「この子が生まれた時、母親が皆様から嫌われていたら困るでしょう?」

「誰も君を嫌っているとは――」

「茶会の時だってそうでした!」


 リリアの声が大きくなる。


「確かに皆、私を見ていた!」

「……」

「……でも、誰も私を認めてくれなかった!こんなに、こんなに努力したのに……!!!」

「だから贈り物を?」

「ええ!そうです!」


 リリアは涙を浮かべる。


「私は、この子のために頑張っているんです!」

「リリア」

「何ですか?」

「子供を理由にすれば、何をしても許されるわけではない」

「……」


 リリアの顔が強張った。


「……どうして……どうしてアレクシス様までそんなことを言うんですか?」

「私は君を責めているわけでは――」

「責めているじゃありませんか!」


 リリアは叫んだ。


「私は妊娠しているんですよ!」

「分かっている」

「なら、もっと優しくしてください!理解してください!寄り添ってください!」

「……」

「お姉様には、そんなことを言わなかったでしょう?」


 その名前が出た瞬間。

 アレクシスの表情が僅かに曇った。


「君もエレノアか」

「だって!」


 リリアは涙を拭う。


「何をしても、皆んなお姉様、お姉様って……」

「……」

「私は、お姉様の代わりになるために侯爵夫人になったんじゃありません」

「それは分かっている」

「なら、私のやり方を認めてください」


 アレクシスは答えなかった。

 しばらくして。


「……これ以上、勝手に支出を増やすのはやめてくれ」

「……」

「必要なものなら相談してほしい」

「……分かりました」


 リリアは俯いた。

 けれど。

 その声には、不満が残っていた。


「でも」


 顔を上げる。


「私は諦めませんから」

「何を?」

「皆様に認めてもらうことです」

「……」

「私は侯爵夫人です」


 リリアは強く言った。


「いつか、皆が私を羨ましがるような侯爵夫人になってみせます」


 アレクシスは何も言わなかった。

 ただ。

 静かに部屋を出ていった。

 扉が閉まる。

 リリアは一人になった。


「……」


 そして。

 お腹へ手を当てる。


「大丈夫よ」


 誰に言うでもなく呟いた。


「お母様が、あなたを立派な貴族にしてあげるから」


 鏡を見る。


「私がもっと頑張ればいいの」


 もっと綺麗に。


 もっと豪華に。


 もっと大切にされるように。


「そうすれば……」


 きっと。

 皆が自分を見る。

 エレノアではなく。

 自分を。


「……私を見て」


 小さく呟く。

 けれど。

 その願いが叶う日は。

 まだ遠かった。




 そして。

 執務室では。

 エレノアが残していった帳簿を前に。

 アレクシスが、一人でページをめくっていた。

 知らなかったこと。

 気付かなかったこと。

 見ようとしなかったこと。

 そこには。

 自分が失った妻が、侯爵家のために積み重ねてきたものが。


 いくつも。


 いくつも。


 残されていた。

感想、レビュー、☆、励みになります(小躍りします)

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― 新着の感想 ―
先生、リリアの苦手な物が読書じゃなくて読者になってます!
2026/08/19 23:58 たい焼きになりたい
典型的な無能な働きモードじゃねぇか。何もしないほうがまだマシだし ってかなんでエレノアのやってることを真似しようとしないんだんろ?
悪知恵だけは働くねwww あ、だからエレノアを蹴落とし後釜に居座ることができるんだねwww しかも常に被害者面のところもポイントが高い! そうやって、常に被害者面してれば周りに同情してもらえて脚光を浴…
2026/08/11 21:20 活きラット
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