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【完結】妹として迎えた婚外子が、私から夫まで奪いました  作者: モーヒアス


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番外編 エレノアの恋 第9話「王の後押し」

 謁見を終えた翌日。

 エレノアは王城の庭園を案内されていた。

 海へ向かって緩やかに下る王立庭園。

 潮風に揺れる花々の向こうには、青く輝く海が広がっている。


「こちらは、我が国自慢の王立庭園です」


 案内役の侍従が誇らしげに胸を張る。


「王妃様が特にお気に入りの場所でして」

「本当に素敵なお庭ですね」


 エレノアは穏やかに微笑みながら歩みを進めた。

 その時だった。

 前方で、一人の若い侍女が大きなワゴンを押していた。

 花瓶や植木鉢がいくつも積まれたワゴンはかなり重そうで、緩やかな坂道を上るたびに速度が落ちていく。


「大丈夫ですか?」


 エレノアは迷わず駆け寄った。


「えっ……!」


 侍女は慌てて振り返る。


「そのままでは大変そうです。一緒に押しましょう」

「そんな、いけません!」

「お気になさらないでください」


 そう言うと、エレノアは自然にワゴンへ手を添えた。

 二人で押すと、重かった車輪は驚くほど軽く動き始める。


「ありがとうございました!」


 侍女は何度も頭を下げた。


「お役に立ててよかったです」


 エレノアは微笑み、その場を離れようとした。

 しかし数歩歩いたところで足を止める。


「……あの」

「はい?」

「今日は朝から何度も重そうなお荷物を運んでいらっしゃいましたよね」


 侍女は目を見開いた。


「ご覧になっていたのですか?」

「ええ」


 エレノアは優しく頷く。


「ご案内いただいている間も、何度も行き来されていましたから」


 侍女は少し困ったように笑う。


「こんなことをお客様に申し上げても良いのか分かりませんが、実は人手が足りなくて……」

「そうでしたか……」


 エレノアは責めることなく微笑んだ。


「皆様がこうして支えてくださるから、この美しい庭園を楽しめるのですね」


 その言葉に、侍女は思わず目を潤ませる。


「ありがとうございます……」

「いいえ、私も貴重な経験をしました。こちらこそありがとうございます」


 その様子を、回廊の影から二人の人物が見つめていた。


「どう思う?」


 国王が腕を組む。

 隣には王妃が立っている。


「噂以上のお方ですね」


 王妃は穏やかに微笑んだ。


「普通の方なら、美しい庭園をご覧になって終わりでしょう。ですが、あの方は庭を支える者へ自然と目が向く。困っている人を見つけても、自分が手を貸したことを恩着せがましくしない。それが当たり前のようにできる方なのでしょう。これはやろうと思ってできることではありませんわ」


 国王は満足そうに頷く。


「なるほど。だからウィリアムは惹かれたのだな」

「ええ」


 王妃は静かに答えた。


「きっとあの方は、誰に対しても同じなのでしょう。素晴らしい人間性です」


 国王は小さく笑う。


「ウィリアムには惜しいくらいだ。いっそ儂が……「陛下?」」

「じょ……冗談だ」


 そう言いながらも、その目はどこか本気だった。




 昼食後。


「エレノア殿」


 国王が声を掛ける。


「午後は、ウィリアムが城下町をご案内する」

「陛下?」


 ウィリアムが少し驚く。


「ですが、本日は政務が……」

「ああ……それならもう終わらせた」

「……はい?」

「今朝、全部片付けた」


 外務大臣ロジャーが咳払いをする。


「正確には、陛下が昨夜遅くまで執務をなさいました」

「お前たちに時間を作るためにな」

「父上……」


 国王は悪戯っぽく笑った。


「父親には父親の仕事がある。気にせず行ってきなさい」


 


 城下町は港町らしい活気に満ちていた。

 魚市場からは威勢のいい声が響き、パン屋からは焼きたての香りが漂ってくる。


「賑やかな街ですね」

「ええ」


 ウィリアムはどこか嬉しそうだった。


「幼い頃からこの街が好きなんです」


 二人は露店を覗きながらゆっくり歩く。


「殿下!」


 魚屋の主人が大きく手を振った。


「今日はお忍びじゃなさそうですね!」

「ああ、大事な任務中……ということにしてくれ。今年の漁の調子はどうだ?」

「過去最高です。殿下が主導して動いていただいた港の改修のおかげです!」


 別の店では、パン屋の女性が焼きたてのパンを差し出した。


「殿下、お一つどうぞ」

「代金は払わせてくれ」

「またまた、昔から真面目なんだから」


 周囲から笑い声が上がる。

 エレノアはその光景を静かに見つめていた。


(皆さん、本当にウィル様を慕っている)


 形式だけではない。

 心から信頼されている。

 それが伝わってくる。


「意外でしたか?」


 ウィリアムが尋ねる。


「……はい、少しだけ。王子様というと、もっと近寄りがたい方を想像していました」

「子どもの頃、父に言われたんです」


 ウィリアムは照れくさそうに笑う。


「『王城の中だけを知る王では国は治められない。市場で魚の値段を聞き、港で船乗りと話し、子どもの泣き声を聞け』と」

「陛下は素敵なお父様ですね」

「ええ。身長はすぐに追い抜けても、あの背中を越えるには骨が折れそうです」


 ウィリアムは頷く。


「とても尊敬しています。自慢の父であり我が国の国父です」




 夕暮れ。

 城へ戻る馬車の中。

 窓から海が見えていた。

 しばらく沈黙が続いた後、ウィリアムが静かに口を開く。


「エレノア様」

「はい」

「……実は」


 少しだけ言葉を探す。


「帰国してから、この半年。毎日のように、あなたのことを考えていました」


 エレノアの心臓が小さく跳ねた。

 しかし、ウィリアムはその先を飲み込む。


「……ですが、今日は、この話はあえてここまでにしておきます」

「……?」

「王子という立場で軽々しく話したくないことがあります。きちんと準備をして肩書きは関係無く、一人の男として改めてお話ししたいのです」


 その真剣な横顔を見て、エレノアは胸の奥が温かくなるのを感じた。

 彼は急がせない。

 答えを迫らない。

 自分の立場を理由にしない。

 だからこそ、その言葉には重みがあった。


「分かりました」


 エレノアは穏やかに微笑む。


「その日を、お待ちしています」


 その返事を聞いた瞬間、ウィリアムは静かに息を吐いた。

 迷いは消えた。

 もう決めた。

 次にこの想いを伝える時は、王子として命じるのではない。

 一人の男として、彼女に未来を共に歩んでほしいと願おう。




 その夜。

 ウィリアムは父王の執務室を訪れた。


「陛下……」

「今は政務中ではない。父上で良い」

「父上」

「その顔は、どうやら決めたようだな」


 父は息子の表情を一目見ただけで察した。


「はい」


 ウィリアムは深く頭を下げる。


「エレノア・アシュフォード殿に、正式に結婚を申し込みたいと思います」


 父はゆっくりと立ち上がると、息子の肩へ手を置いた。


「よく言った!王子としてではない、お前自身の言葉で行ってこい」


 その一言に、ウィリアムは力強く頷いた。

 明日。

 彼は人生で最も大切な言葉を伝えることになる。

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― 新着の感想 ―
陛下、その一言は王妃の前で言ってはいけないやつですよwwwエレノアとの恋が進展しましたね!ドキドキします!
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