表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】妹として迎えた婚外子が、私から夫まで奪いました  作者: モーヒアス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/26

番外編 エレノアの恋 閑話「副船長の報告」

本日2話更新です。

 ヴァーレン商会の船は、故国へ向けて静かに海を進んでいた。

 甲板には心地よい潮風が吹いている。

 副船長は船尾に立ち、遠ざかっていく海を眺めていた。

 もう、あの港は見えない。

 短い滞在だった。

 しかし、あまりにも多くの出来事があった。


「……殿下」


 自然と、その名が口から漏れる。

 私はウィリアム殿下に仕えて十五年になる。

 幼い頃からお側に仕え、王族として成長されていく姿を見てきた。


 殿下は完璧な方だった。

 剣も。

 学問も。

 政治も。

 外交も。

 何一つとして隙がない。

 特に、相手との駆け引きにおいては誰も殿下の本心を読むことができなかった。

 笑顔で相手を安心させながら、必要なところでは一歩も譲らない。

 敵でさえ、殿下の本音を探ることは困難だった。

 だからこそ、私は思っていた。


 恋愛においてもこの方はきっと同じなのだろう、と。


 誰かを好きになったとしても、決して周囲には悟らせない。

 完璧な王族として、冷静に振る舞われるのだろう、と。


 ……そう思っていた。


 エレノア様に出会うまでは。




 殿下は、恋愛に興味がない方だと思っていた。

 国のためなら政略結婚も受け入れる。

 愛情など必要ない。

 極端な話、夫婦としての形だけを整えた白い結婚であっても、淡々と受け入れる。

 そんな方なのだと思っていた。


 だが。

 違った。

 ただ単純に。

 まだ、心から想う相手に出会っていなかっただけだった。




 エレノア様と出会ってから、殿下は少しずつ変わられた。


「今日は港へ行く」


 そう仰る回数が増えた。

 もちろん建前は積み荷の確認。

 そう言われれば、我々も反論できない。

 しかし。

 昨日も確認した。

 その前の日も確認した。

 もはや積み荷の確認なのか、積み荷の確認の確認なのか分からない。

 そして、帰ってこられた殿下は明らかに機嫌が良い。

 普段なら簡潔に終わる報告書も、エレノア様について書かれる部分だけ妙に長い。


『現地責任者は非常に優秀である』

『判断力に優れ、信頼できる人物である』

『今後も長く友好関係を築くべきである』


 ……名前を書かれていないだけで、誰のことなのかは明白だった。


 ある日など。


「副船長」

「はい」

「例えば、例えばの話だが……女性への贈り物とは、何が喜ばれると思う?」


 思わず聞き返しそうになった。

 殿下が。

 女性への贈り物について相談されている。

 あの、どんな交渉でも冷静だった殿下が。

 私は十五年もお仕えしている。

 殿下にこちらの動揺を悟られるわけにはいかない。

 私は必死に無表情を保った。


「相手を想って選ばれたものなら、きっと喜ばれるかと」

「……そうか」


 殿下は少し安心したように微笑まれた。

 そして頬が朱に染まっているのを見逃さなかった。


 その瞬間、私は理解した。

 ああ。

 殿下は、本当にこの方を大切に想っておられるのだ、と。

 



 港で正体を明かされた時。

 私は殿下ではなく、エレノア様を見ていた。

 普通なら驚くだろう。

 王子と知らずに接していた相手が、まさか一国の第一王子だったのだから。


 しかし。

 エレノア様は変わらなかった。

 王子だから敬意を払ったのではない。

 最初から、ウィルという一人の人間を見ていたのだ。

 だからこそ。

 殿下もあれほど穏やかな顔をされていたのだろう。


 何度も言うが私は十五年お仕えしている。

 だが。

 あんな表情を見たのは初めてだった。




 船室へ戻る。

 机の上には、陛下へ提出する報告書が置かれている。


 ワインの取引。

 港湾設備。

 新たな契約。

 すべて重要な報告だ。

 しかし。

 陛下が最も喜ばれる報告は、この紙には書かれていない。

 いや、見る者が見れば書かれてはいるが書かれてはいない。

 私は最後の確認を終え、報告書へ署名を入れる。

 ペン先が紙の上を滑る。


 ――フック・セーンチョウ。


 セーンチョウ伯爵家次男。

 それが私の名である。

 普段は誰も、私を名前で呼ばない。

 長年この船に乗っている者たちでさえ、私を「副船長」と呼ぶ。


 だからなのか。

 時折、名前を聞いた者は不思議そうな顔をする。

 だが、私にとっては昔から変わらぬ名だ。

 フック・セーンチョウ。


 たまたま殿下に仕えることになっただけ。

 たまたま船に乗ることになっただけ。

 たまたま副船長になっただけ。


 そして。

 ヴァルハイム王国第一王子ウィリアム殿下が、初めて心から愛した女性を見届けた男でもある。


 私は報告書を閉じた。


「陛下……殿下は、ようやく出会われました。不肖フック、全てお話させていただきますぞ!」




 交易の成功以上に価値ある報告。

 それを胸に、私は故国へ向かう船の進路を見つめた。


 なお、後世の記録にはこう残っている。

 ヴァルハイム王国第一王子の変化を最初に見抜いた忠臣。


 その名は――


 フック・セーンチョウ。


 セーンチョウ伯爵家次男である。

 ……ちなみに、彼が副船長だったことから、一部の歴史家は彼の名を聞いて混乱したという。

感想、レビュー、☆、励みになります(小躍りします)




ちょっと遊んじゃいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 片手、フックじゃない? そっか(笑)
最初に考えたのはカチカチワニき片腕を奪われた船長のほうでしたが、「副船長」のほうでしたか! セーンチョウさんのお名前、汎用性高いですね。 そういやモツの部分でもなかったっけ? ストーリーのメインキャラ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ