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【完結】妹として迎えた婚外子が、私から夫まで奪いました  作者: モーヒアス


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第十一話 失って初めて知る

次回!最終話!

 エレノアが侯爵家を去ってから、一か月。

 侯爵家は、静かに崩れ始めていた。


「侯爵様、お時間をいただけますでしょうか」


 執務室へ入ってきたのは、王都南部ワイン商会の支配人だった。

 アレクシスは安堵する。


「待っていた。契約の件だな」

「はい」


 支配人は一通の書類を机へ置いた。


「本日をもちまして、お取引を終了させていただきます」

「……何だと?」

「本日までがエレノア様との契約でございましたので」

「私は侯爵だぞ!」


 思わず机を叩く。


「契約者が変わっただけだ!」


 支配人は困ったように首を横へ振った。


「申し訳ございません」

「我々は、侯爵家ではなく、エレノア様というお人柄を信頼して取引を続けてまいりました」


 その一言が、胸へ突き刺さる。

 支配人が去ると、今度は羊毛商会。

 その次は薬草組合。

 さらに港湾商会。

 次々と契約終了の通知が届いた。

 昼には十件。

 夕方には二十件。

 翌日には三十件を超えた。

 アレクシスは頭を抱える。


「どうしてだ……」


 彼には理解できなかった。

 契約は金や権力で動くものだと思っていた。

 しかし違った。

 エレノアは長年、自ら商会を回り、相手の家族の名前を覚え、祝い事には花を贈り、困った時には利益を後回しにして助けてきた。

 だから商人たちは契約ではなく、彼女を信じていたのだ。



 その数日後。

 侯爵家の使用人達からも話し合いが行われていた。


「私は辞めます」


 料理長が静かに頭を下げる。


「私もです」


 庭師も続いた。


「申し訳ありません」


 老執事だけは驚かなかった。

 皆、エレノアに恩がある者ばかりだった。

 子どもの学費を援助してもらった者。

 親の治療費を貸してもらった者。

 結婚祝いを贈ってもらった者。

 主人はアレクシスだった。

 だが、屋敷を支えていたのはエレノアだった。


 『私が去った後、一月ほどはよく考えて欲しい。それでもここを去りたければ責任を取りましょう』

 

 使用人達は一月ほど考えた結果、侯爵家で働くという栄誉を捨てエレノアについていくことを決めた。


「使用人の分際で裏切るのか!」


 アレクシスは怒鳴る。

 料理長は静かに答えた。


「違います」

「私どもは、エレノア様を裏切れないのです」


 その言葉に、誰も反論できなかった。

 数日後。

 社交界でも噂が広がる。


『侯爵が義妹を孕ませた』

『恩人から夫を奪った婚外子』

『離縁した途端に商会が離れたらしい』

『ああ、あの侯爵家はもう終わりだ』


 夜会へ出席しても、以前のように声を掛けられることはない。

 笑顔を向けられているようで、その実、陰ではひそひそと囁かれる。

 リリアは耐えられなかった。


「どうして……」


 鏡の前で涙を流す。


「私は侯爵夫人になったのに……」


 夢だった。

 姉のように誰からも認められ、愛される侯爵夫人。

 そのはずだった。

 現実は違う。

 令嬢たちは距離を置き、夫人たちはお茶会へ呼ばない。

 使用人の数も半分以下になり、屋敷は目に見えて荒れていく。

 ある夜。

 リリアはアレクシスへ泣きついた。


「もう嫌です……」

「少し我慢すれば落ち着く」

「本当に?」

「もちろんだ」


 そう言ったアレクシス自身にも、確信はなかった。

 机の上には請求書の山。

 返済期限の迫る借入金。

 空になった契約書の棚。

 その時だった。

 執事が一枚の名刺を差し出す。


「侯爵様」

「今度は誰だ」

「王都銀行の支店長がお見えです」


 アレクシスは嫌な予感がした。

 支店長は椅子へ座るなり、一枚の書類を差し出す。


「融資の件で参りました」

「追加融資か?」

「いいえ」


 支店長は首を横へ振る。


「返済期限を繰り上げさせていただきます」

「……は?」

「保証人がエレノア様からリリア様に変わりましたので」


 その瞬間。

 アレクシスの顔から、血の気が引いた。

 彼は初めて理解する。

 失ったのは妻ではない。

 侯爵家そのものを支えていた、たった一人の存在だったということを。

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