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【完結】妹として迎えた婚外子が、私から夫まで奪いました  作者: モーヒアス


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第九話 離縁してください

 数日後。

 朝食を終えたところで、アレクシスが珍しく真面目な顔をした。


「エレノア」

「どうしました?」

「話がある」


 その声に、リリアの肩がわずかに震えた。

 二人は昨夜、決めたのだろう。

 今日、すべてを終わらせると。


「書斎へ来てくれ」

「分かりました」


 エレノアは静かに立ち上がる。

 動揺した様子は見せない。

 夫もリリアも、それを「何も気付いていないからだ」と受け取っていた。

 書斎へ入ると、アレクシスはしばらく黙って窓の外を眺めていた。

 やがて意を決したように振り返る。


「……私は、お前に謝らなければならない」

「謝る?」

「他に愛する女性ができた」


 エレノアは小さく目を見開く。

 演技だった。

 心はもう、とっくに傷付き終えている。


「突然、何を……」

「私は、その人と生きていきたい」

「まさか……」


 アレクシスは深く息を吸った。


「リリアだ」


 沈黙。

 時計の針だけが静かに時を刻む。


「嘘……」


 エレノアは椅子へ手をついた。


「あなたは、妹のことを?」

「愛している」


 迷いのない返事だった。


「彼女も私を愛している」

「そんな……」

「さらに」


 アレクシスは続ける。


「リリアのお腹には、私の子がいる」


 エレノアは唇を噛み締める。

 知らなかった頃なら、きっと泣き崩れていただろう。

 けれど今は違う。

 この言葉を待っていた。


「だから……離縁してほし」


 書面が机の上へ置かれる。

 すでに離縁届まで用意されていた。

 ずいぶん前から準備していたのだ。


「そんな、急がなくても……」

「子どものためだ」


 アレクシスはもっともらしい顔で言う。


「父親として責任を取らなければならない」


 その言葉に、エレノアは思わず笑いそうになった。


 責任。


 その責任を、一番果たしてこなかった人が口にするとは。


「……分かりました」

「え?」


 アレクシスが驚いた。

 もっと取り乱すと思っていたのだろう。


「離縁を、お受けします」

「本当か」

「ええ」


エレノアは静かに頷く。


「ですが、一つだけお願いがあります」

「何だ」

「リリア本人の口から聞かせてください」

「本人から?」

「家族ですもの」


 アレクシスは少し考え、頷いた。


「それくらいなら構わない」


 扉が開く。

 廊下で待っていたリリアが、ゆっくりと入ってきた。

 目には涙を浮かべている。


「……お姉様」


 その涙さえ演技なのだと、エレノアは知っていた。


「ごめんなさい……」

「あなたは」


 エレノアは静かに尋ねる。


「この人を愛しているの?」


 リリアは迷わず頷いた。


「はい」

「お腹の子は?」


 リリアは自分のお腹へ手を添える。


「アレクシス様の子です」

「そう」


 エレノアはゆっくり目を閉じた。


「分かりました」


 それだけだった。

 怒鳴らない。

 責めない。

 泣きもしない。

 あまりにも静かな反応に、二人は逆に戸惑っていた。


「お姉様……?」


 リリアがおそるおそる声を掛ける。

 エレノアは穏やかに微笑んだ。


「幸せになってね」


 その笑顔を見て、二人は完全に安心した。

 何も知らない。

 何も持っていない。

 そう思い込んだのだ。




 しかしその夜。

 エレノアは老執事へ一通の手紙を手渡す。


「公証人を呼んでちょうだい」

「……いよいよでございますか」

「ええ」

「離縁は受け入れます」


 その瞳は静かに燃えていた。


「ですが──侯爵家には、一つも持っていかせません」


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