第12話「運命の卒業パーティー」
そして、数年の歳月が流れた。
俺たちの、波乱に満ちた学園生活も、ついに終わりを告げる日がやってきた。
王立魔法学園、卒業記念パーティー。
俺にとっては、本来、断罪イベントが行われるはずだった運命の日だ。
原作の記憶が、嫌でも脳裏をよぎる。
『ジーク・フォン・クラインフェルト! 貴様の罪、断罪させてもらう!』
そんなセリフが聞こえてきそうで、俺は壮麗なパーティー会場の隅で、一人胃をさすっていた。
もちろん、俺はヒロインをいじめていない。
数々の破滅フラグはへし折った。
それどころか、数年前に起きた『王都襲撃事件』では、意図せず国を救う大活躍をしてしまった。
だから、断罪されるはずはない。
ないと、分かってはいるのだが。
「ジーク・フォン・クラインフェルト様。国王陛下がお呼びです。壇上へ」
衛兵に声をかけられ、俺の心臓が跳ね上がった。
『つ、ついに来たか!? やはり何か見落としが!?』
俺は覚悟を決めて、会場の中央に設えられた壇上へと向かった。
壇上には、国王陛下と、その隣に立つアレンがいる。
会場中の視線が、俺一人に集中する。
貴族も、騎士も、教師たちも。
そして、ドレスアップしたカイル、ソフィア、リリアも。
誰もが、固唾を飲んで俺を見守っている。
断罪台であるはずの場所。
俺が壇上の中央に立つと、隣にいたアレンが一歩前に出て、高らかに声を張り上げた。
「皆、静粛に!」
会場が、水を打ったように静まり返る。
アレンは、満足げに頷くと、俺の肩に手を置いた。
そして、満場の聴衆に向かって、誇らしげに宣言した。
「本日、この卒業の日に、皆に伝えたいことがある! 数年前に我々の国を襲った未曾有の危機、『王都襲撃事件』を覚えているだろうか! あの絶望的な状況の中、我々を導き、身を挺して国を守り、黒幕を打ち破った者がいる!」
アレンの言葉に、会場がざわめき始める。
「我が唯一無二の親友、ジーク・フォン・クラインフェルトこそ、この国を救った真の英雄である!」
その言葉が響き渡った瞬間、一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手と、地鳴りのような歓声がホール全体を包み込んだ。
万雷の拍手と「ジーク様、万歳!!!」という声が耳を劈くように響き渡る。
俺は、熱狂の渦の中で呆然と立ち尽くしていた。
恐れていた国外追放。
悲惨な爵位剥奪。
そんな破滅ルートは、もはやこの世界のどこにも存在しなかったのだ。
目の前にあるのは、俺を英雄として称える、国民たちの熱狂的な笑顔だけだった。
『……終わった。俺は、破滅を回避したんだ……』
全身から力が抜け、安堵のため息が漏れた。
長かった。
本当に、長かった……。
これでようやく、俺の平穏な日々が始まるんだ。
そう思ったのも束の間。
隣でアレンが、「最高の参謀になってくれ」と満面の笑みで俺の背中を叩く。
壇の下では、カイルが「ジーク様! 生涯お仕えします!」と涙ながらに騎士の礼を捧げている。
そして。
「ジーク様、おめでとうございます!」
「ジーク様、素敵ですわ!」
純白のドレスをまとったリリアと、真紅のドレスをまとったソフィアが、二人同時に俺の元へと駆け寄ってくる。
その両手に、俺の腕が捕らえられる。
二人の美女に両脇を固められ、熱烈な視線を至近距離で一身に受ける俺。
周囲からは「ヒューヒュー!」と囃し立てる声が飛び交い、無数の嫉妬と羨望の眼差しが突き刺さってくる。
俺は、満面の笑みを浮かべるヒロインたちと、頼もしすぎる親友たちに囲まれながら、ただ静かに悟った。
『……俺の平穏な生活は、どうやら、まだずっと先らしい』
悪役令息は、救国の英雄として歴史に名を刻むことになった。
そして彼の、胃痛と勘違いに満ちた戦いは、まだ始まったばかりだったのである。




