もしも其方と、余が友達になれば。
「お兄ちゃん――――ギガスラッシュ!!!」
僕の魂の咆哮と共に。
両手に握りしめた二本の剣から、紅蓮の炎と白銀の冷気が、一つに捻じれ合うようにして巨大な刃となって放たれた。
大気を爆ぜさせ、山頂の岩盤を捲り上げながら、二人の想いを乗せた渾身の斬撃が、轟音と共にロデオへと襲い掛かる。
だが。
「フンッ! ただ闇雲に剣を振っているだけだろうが!」
ロデオの蒼い瞳が、鋭く冷徹に閃いた。
その手に握った白銀の長剣を流麗に、かつ最小限の動きで操る。
ギギィィィィィィンッッ!!!
火花が激しく散る。
ロデオは炎と氷の斬撃を、正面から、寸分の狂いもなくその一振りだけで弾き返してみせた。
「見せてやる。これが、最強の力だ」
「――『超・彗星剣』」
ロデオの低い呟きと共に。
遥か彼方の星海より空間を割って顕現したのは、山をも穿つほどの圧倒的な質量を持った、巨大な輝きの鉄槌だった。
それが、大気をビリビリと絶叫させながら、超高速で僕の真正面へと迫り来る。
視界のすべてが、迫りくる白い光の壁で埋め尽くされた。
「お前だって……デカい剣を飛ばしてるだけだろォッ!!」
僕は、ひび割れた大地の割れ目を力強く蹴り上げ、上空へと向かって大きく跳躍した。
巨大な輝剣の側面を弾きながら、紙一重の隙間を縫って上へと躱す。
――だが、それは致命の悪手だった。
空は、彼の領域。
重力に縛られず、自由自在に宙を舞う流星ノ勇者の、絶対の独壇場。
「――『超・双星剣』」
僕の頭上へ。ロデオがすでに回り込んでいた。
その端正な顔が、僕を完全に見下ろしている。
「しまっ――」
彼の手にする白銀の刃が、容赦なく僕の肩口へと振り下ろされた。
直後。
一本、さらにもう一本の巨大な輝剣が、彼の動きを追尾するように、時間差で襲い来る。
一振りの動作で繰り出される、不可避の三連重撃。
「くッ! ――くッ!! ――があぁぁぁぁッ!!!」
空中で身動きの取れない僕は、二振りの剣を交差させて必死にそれを受け止める。
だが、その重圧に肉体が、骨が、ミシミシと悲鳴を上げた。
凄まじい衝撃と共に、僕は上空から地面へと激しく叩きつけられた。
「ガハッ……っ!」
肺の中の空気がすべて吐き出され、無様に転がり、大きく姿勢を崩す。
「――『超・瞬星剣』」
息つく暇すら与えないほど無慈悲な追撃だった。
頭上から降り注ぐのは、白銀の光を放つ輝剣の豪雨。
その一本一本が、地殻を容易く削り取り、人間の肉体など一瞬で崩壊させるほどの威力を秘めている。
それが、何十、何百と、容赦なく僕の頭上に降り注ぐ。
「お、兄ちゃん――――ハリケーンッッ!!」
僕は倒れた姿勢のまま、痛む身体を強制的に捻り、両手の剣を頭上で激しく振り回した。
赤の炎と青の冷気が渦を巻き、巨大な二色の竜巻となって立ち上る。
迫りくる光の豪雨を、その竜巻の勢いで強引に弾き、叩き落としていく。
何とか凌いだ。
そう思い、雨が止んだ視界の先を睨みつけた、その時。
「――『超・新星剣』」
ロデオが、自らの手の平の上で揺らめかせているのは。
小振りの、だが、まるで世界の終わりを告げるような、眩い輝きを放つ一振りの剣だった。
「お兄、危ないっ!!!」
背後からの、カレンの悲痛な悲鳴。
直後。
天を突くほどの巨大な光柱が、僕を呑み込んだ。
「お兄、様……っ!?」
「なん、の……これしきぃッ!!」
僕は炎と氷の刃を交差させ、光柱の齎す破壊に耐えていた。
カレンの叫びがなければ、防御すら間に合わず、一瞬で灰になっていただろう。
永遠にも感じられる数秒の後、光がようやく収束する。
「ハァ……ッ、ハァ……ッ!」
僕の全身の皮膚からは無数の血が滲み、立っているのが不思議なほどに膝がガタガタと震えていた。
「……あれを凌ぎ、まだ立ち上がるか」
「当たり前だろ……っ。これ以上ないほどの、お兄ちゃんとしての威厳を示すチャンスなんだからな……っ」
強がって見せるが、僕の限界はとうに超えていた。
全身の筋肉が悲鳴を上げ、内側からも破壊されそうな脈動を感じる。
カレンとギンカの、二つの異能をいきなり最高出力で振り回すなど、そもそもが無理な話だったのだ。
意識が、白く飛びそうになる。
「……もしも」
そんな僕に、ロデオがふと、口を開いた。
「なんだよ……っ」
「もしも其方と、余が友達になれば。……其方は、其方の本当の願いを、余に聞かせてくれるか?」
それは。
最強の全能者が、この島で、いや、これまでの人生で初めて見せた、人間らしい『迷い』と『歩み寄り』の言葉だった。
風が、ピタリと止む。
僕は、痛む身体を引きずりながら、ゆっくりと顔を上げた。
そして、彼を真っ直ぐに見据えて、はっきりと答えた。
「――それは、無理だな」
「何故だ? 其方は先ほど、『家族でも友達でもない奴には教えられない』と言ったぞ」
「それはな、お前とは、絶対に友達になれないからだ!」
僕は胸を張って、堂々と叫んだ。
「僕はなぁ……お前みたいな、『異性なんかこれっぽっちも興味ない』って顔してフワフワ浮いてスカしてるイケメンが、一番大嫌いなんだよッッ!!」
命懸けの最終決戦。
その最中に放たれたむき出しの想い。あまりにも泥臭く、しょうもなく、そして身も蓋もない、ただの男の嫉妬。
ロデオは、まるで虚を突かれたように目を丸くし。
ほんの数秒の硬直の後。
「……ふっ、」
次の瞬間。
「アッハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」
今日一番の、いや、産まれて以来初めての、腹の底からの大笑いを、夜空に高らかに響かせた。
「それは良い! 実に良い! 余もな、其方のような、理屈も知性も全く感じられない、ただ泥臭い野蛮な者が、一番大嫌いだ!!」
「ふんっ。もうこうなったら、魔王の陰謀とか、願いとか、もう全部どうでもいい! ただ、ムカついてお前のことが大嫌いだから、ぶっ飛ばす!」
「其方の蛮勇に付き合って、正面から完膚なきまでにねじ伏せるのが、余にとって、最も気分が良い」
ロデオの顔に、明確な闘争の悦びが張り付いていた。
彼は極星剣を握る反対の手を、夜の深い闇へとそっと添えた。
「――『超・虚星剣』」
空間が歪み、引きずり出されたのは。
光すらも拒絶する、暗黒の輝きを放つ、絶対なる闇の輝剣。
炎と氷の双剣を構える、最弱の勇者。
光と闇の双剣を構える、最強の勇者。
相反する二つの力をそれぞれに宿した、二振りの双剣が。
雲一つない、冷たい満月の下で、真っ向から対峙する。
「――『超・流星剣』!!!」
ロデオが、両腕の光と闇の双剣を大きく振るうと同時に。
天上のすべての光と闇が、意思を持ったように激しく駆動した。
幾千、幾万の、光の輝剣と闇の輝剣。
それらが、空を覆い尽くすほどの流星の雨となって、僕の全存在を塵一つ残さず抹消せんと、一斉に襲い来る!
「負けるなーーーー!! お兄ーーーーッ!!」
「行けーーーーッ!! お兄様ぁぁぁっっ!!」
背後から、大好きな妹たちの、声が枯れるほどの声援が聞こえる。
それに呼応するように。
ドクンッ、と。
感じるぞ。僕の内側で。
カレンの紅蓮の炎と、ギンカの蒼氷の冷気が。
互いを追い越し、互いを高め合うようにして、螺旋を描いて無限に増幅していくのを。
二つの強すぎる想いが完全に交じり合い、僕の肉体が消失してしまいそうなほどの、爆発的なエネルギーが収束していく――!!
「うおおおおおおおおおおっっ!!」
僕は、その巨大すぎるエネルギーの塊を、正面に向かって、ただ思いきり、力の限りに解き放った。
「お兄ちゃん――――ビッグ・バン!!!!!」
炎と氷、そして三人の絆が完全に混ざり合った、巨大なエネルギーの超爆発。
それは、迫り来る幾万の剣をすべて呑み込み。
静寂の夜空に瞬く星をも飲み込み。
創世の輝きで白一色に染め上げたのだった。




