“紅蓮ノ勇者”カレンが、あんたらを灰滅する
第4話です。
前回、お兄ちゃんのお留守番中、訳あり勇者二人組は“妹”カレンに挑むと決意しました。
今回は、対峙するシーンからになります。
「待たせたか。紅蓮の勇者」
「あと十秒出てこなかったら焼き払おうと思ってた」
正面からじっくりと向き合うのは初めてだ。
黒の長髪。焔が宿る瞳。
左手には竜を模した紅い手甲。右手には竜の牙を思わせる幅広で分厚い剣。
その要素すべてが、こちらに問いかけているようだ。
お前は、竜に挑む覚悟があるのかと。
「腹が減って、やっぱり矢を拾って食ってんのかと思ったぜ。だが、悠長にしてくれたおかげで、お前さんをぶっ飛ばす最高の作戦を思いついた」
もちろん嘘だ。作戦なんてあってないようなもの。
大岩が前で戦い、私が後ろから撃つ。それしかないし、それしかできないのだから。
「あっそ」
相手にまるで興味がない。私たちは瞳に映っていないと言うべきか。
故に、情けは期待できない。
「俺様の力はちょっぴり面倒でな。草木の生い茂る場所だと全力が出せねぇんだ。動かす岩がねぇからな」
彼の力の制限など、私でさえ知らなかった。
互いの能力について、細かく擦り合わせておくべきだった。
そんな当たり前のことすらこれまでしてこなかったのは、一人に慣れ過ぎてしまっていたからだ。
そして、私が信用していなかったからだ。
「お前さんみてぇに、体から岩が出せりゃ便利なんだが」
「だからなに? さっきは手加減してたって言いたいの?」
「ダッハッハ! その通りだ。ブ男になっちまうから、あんまりやりたくねえんだがな」
周囲の岩が躍りだす。大地が震え、唄いだす。
「鷹の目。やばいと思ったらすぐに逃げろよ。俺様は――」
無数の岩が大岩に集まる。十や二十ではない。優に百は超えている。
そのすべてを大岩は纏っていく。
「――ここを俺様の墓場にする」
そして、十メートルを超える岩の巨人となった。
巨人に弱点となる下半身はない。それは退かぬ覚悟の現れか。
「さぁ! 本気でやろうや! 紅蓮の竜よ!!」
正直、私は驚いていた。大岩の本気の力がこれほどのものだとは。
――瞬間、紅蓮は爆ぜるように駆けた。
そして左腕、竜の爪を思い切り振りかぶる。
「竜爪――灰滅!」
それはまさしく竜の一撃。
大岩の巨大な胴体、その端から端まで赤熱した爪痕を残す。
「効かねぇな」
大岩の両手が紅蓮のいた場所を圧し潰す。
ハエを潰すかのような単純な動作。だが、その巨体ゆえに必殺となる。
「上だ大岩!」
跳んでいた。翼のない少女が、大岩の頭を超える高さまで。
「竜牙――灰、滅!」
右腕の剣。高熱を帯びた竜の牙を、縦一直線に振り下ろす。
「それも俺様には効かねぇ!」
腕で振り払うが捉えられない。巨体ゆえに動きが重い。
だが、それを補うのが私の役目だ。
「そこ!」
脇から切り崩そうとする紅蓮に、二本の矢を放つ。
それは当然のように防がれるが、向こうの攻めも失敗に終わった。
「二本とか三本じゃなくて、五、六本一気に撃てねぇのか?」
「普段は一本で十分なんでな」
私の主な標的は“普通の人”だ。そして方法は暗殺。
天空の目で窺い、必殺の一矢を放つ。それゆえに、威力よりも正確さを求めてきた。
「こんなことになるなら訓練しておくべきだった」
「ダッハッハ! 人生なにがあるかわかんねぇな!」
――均衡が続いた。
紅蓮が攻め、大岩が迎え、私が追い返す。
これが繰り返されれば、紅蓮が次にとる行動は容易に予測できる。
「あんた、いい加減うざい!」
「そう思ってくれて光栄だ!」
対処は簡単だ。
大岩を中心に円を描くように逃げるだけ。私には天空の目がある。
壁越しの戦いでは圧倒的に有利となる。
「目が回るだろうが!」
大岩が腕を振り下ろす。躱した紅蓮を私が撃つ。
結局、こうなる。
「……思ってたより、あんたら強いね」
大岩の必殺の拳と、私の必中の矢を、変わらぬ表情で捌きながら紅蓮はそう言った。
おそらく皮肉を言うタイプではない。彼女なりの素直な賛辞のようだ。
「ダッハッハ! 竜も俺様の硬さには歯が立たねぇか? それとも鷹の目のうざさにいい加減うんざりか」
誇らしげに笑う大岩。
ジリ貧な状況ではあるが、時間はこちらに味方するはずだ。
他の勇者が来れば、強者である紅蓮を狙う。紅蓮からすれば、その場から動けない大岩に付き合う必要はない。撤退すればいいだけだ。
ここで討っておきたかったが、欲は言えまい。
紅蓮の勇者の撃退は、私たちにとって大きな財産になる。
互いを知り、作戦を練れば、次は必ず討てる。
紅蓮に仲間がいない前提の話だが、いるのならとっくに呼んでいる状況だろう。
「力を使うことにする。こんなに時間がかかると思わなかった」
「……なんだと?」
きっと私は、一線を越えた話をした時の大岩と同じ顔をしている。
力を使うとはどういうことだ? 今まで、使っていなかったのか?
「ハッタリだ。騙されんなよ鷹の目。相当追いつめてるってことだ」
そうだ。ありえない。
竜の爪と竜の牙。その灼熱こそが紅蓮の力のはずだ。
「これはあたしが狩った火竜から作られた、特別な装備ってだけ」
黒く分厚い剣は、刃の部分だけが高熱により赤熱していた。
それがさらなる熱により、剣全体が緋色に燃えていく。
「おもしれぇ。だったらよ、勿体ぶってた自慢の力で、俺様を止めてみろおぉ!」
大岩の拳が放たれる。が、様子が先ほどまでとは違う。
避けようとしていない。どころか重心を落とし、左手に力を込める。
そんなことは不可能だ! 何倍、何十倍、何百倍の重量差があると思っている!
「竜轟――灰滅!!」
巨大な爆発が荒々しく大地を揺らし、空気を震わせた。
次に目にしたのは、吹き飛ばされてバラバラになる大岩の腕。
突き出された紅蓮の左手は巨大な爆破を放ち、大岩の肘から下を爆散させたのだ。
私は一歩も動けない。思考が働かない。紅蓮の瞳から目が離せない。
「“紅蓮ノ勇者”カレンが、あんたらを灰滅する」
その声は、爆炎と岩の破片が飛び交う戦場にあって、驚くほど静かに、そして明確に響いた。
私と大岩を隔てるように、地面に真一文字の亀裂が走る。
亀裂からは紅蓮の炎が揺らめき、まるで地獄の境界線が引かれたようだった。
予感ではなく、確信。
私と大岩は業火に焼かれ、灰燼に帰す。
瞳に映る私の姿は、宿る焔に焼き尽くされていた。
第4話お読みいただきありがとうございました。
次回、大岩&鷹の目ノ勇者対紅蓮ノ勇者、決着。
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