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結局暗殺じゃねぇか!

第3話です。

前回、妹に〇〇〇ーしてると思われているお兄ちゃん。

しかし、裏では元山賊の大岩ノ勇者と元暗殺者の鷹の目ノ勇者の訳ありコンビが不穏な作戦を立てていました。


今回は、作戦実行編、鷹の目視点からスタートです。

 竜を討つ物語を読んだ。ガキの頃だ。


 強大な竜は、一夜にして国を滅ぼした。

 人々は竜を討つためあらゆる手段をとるが、その力の前に為す術はない。


 そんな中、一人の若者が名乗りを上げる。その若者は竜にたった一人で挑んだ。

 誰もが無謀だと思ったが、なんと、見事に強大な竜を討ち果たしたのだ。


 人々は感謝し、その勇気ある若者を“勇者”と呼んだ。


 子供の頃は素直に、自分もかっこいい勇者になりたい! なんて思っていたが、歳を食った今、全く別の感想を抱く。


 私は思う。勇者とは“竜を討った者”ではない。

 勇者とは――“竜を討つ者”なのだと。


「無事か。大岩」


「俺様が無事に見えるなら、あんたは節穴の勇者を名乗るべきだぜ」


 岩を操る力を持つ大岩ノ勇者。


 その力で身に岩を纏うことで、生きる巨大な石像となる。

 その硬さは生半可な剣では傷一つ付かず、その重さは鉄骨すら粉砕する。

 逃げる相手には、地面を隆起させ足を奪い、岩を弾丸のように放つ。


 不器用に見える大男だが、その実小器用で戦闘経験も豊富。並みの勇者では手も足も出ないだろう。


「くそったれ。ちっこいが、まるで竜だぜあれは」


 自慢の岩の鎧は赤熱した幾つもの傷が刻まれ、所々剥がれ落ちている。


 作戦は失敗した。油断はなかった。ただ、見くびっていた。

 引くことも守ることも許さない圧倒的な火力。


 大岩は隙を作るどころではなく、それこそ岩のように固まることしかできなかった。

 矢を放ち、援護をしたが灼熱の刃に焼き切られた。


 そうして打つ手がなくなった後、煙幕を巻き、無様に逃げて来たというわけだ。

 今は小さな小屋に身を潜めている。


「名に違わない火力だな」


「火力に全振りしてるぜ。なんだあの剣と爪は。あんたが助けてくれてなけりゃ石焼き芋になるところだったぜ」


 紅蓮の力。

 右手の剣と左手の手甲に岩をも焼き切る灼熱を付与する。

 刻まれた傷は未だに高熱を帯びていた。


「腹減ってたから丁度いいぜ。飯でも作るか。火とフライパンには困らねぇ」


「良いアイデアだが……三人分の食材が必要なようだ」


 私の能力、『天空の眼』。

 上空からの俯瞰視点は、壁に隔てられた屋外の様子すらも映し出す。


 戦闘では無用だが、情報収集や逃げ道の確保、そして迫る危機への対応においては大いに役立つ。


「……誰だ」


「君の言う通りだな。竜は狙った獲物を逃したりしない」


 大岩は戦える状態ではない。私一人では追い払うことも難しいだろう。

 私たちは所詮、暗殺者と山賊。竜を討つことなどできない。


「よく聞け鷹の目。俺様が死ぬ気であいつをぶっ潰す。あんたは遠くへ逃げろ。自慢の目を使えばすぐだろ」


「……勇者のようなことを言うんだな」


「ダッハッハ! なに言ってやがる。勇者だろうが。俺様も、あんたも」


 大岩と、物語の、たった一人で竜に挑んだ勇者が重なった。

 だが、結末は物語のようにはならない。


「君は……」


「あん? なんだよ? 俺様は勇者じゃねぇってか?」


「勇者にいつなるのだと思う? 竜を討つ前か、竜を討った後か」


「そんなもん決まってるじゃねえか」


 大岩はニカっと、白い歯を見せて笑った。


 それはかつて旅人を震え上がらせた山賊の嘲笑ではない。

 強大な敵を前にして、己の全てを賭ける挑戦者の、清々しいほどの笑顔だった。


「竜を討つと、心に決めたその瞬間だ。前でも後でもねぇ。今、なるんだよ!」


 その言葉は、まるで必中の矢となって、私の胸を貫いた。

 長年、冷えた血と泥に慣れていたはずの心臓が、微かに、そして熱く脈打ち始めるのを感じた。


 竜を討つと決めた、その時。


「……なるほどな。なら私は決めた。竜を討つ」


 恐ろしい。逃げだしたい。勝てない。

 物語の勇者も案外こんな心境だったのかもしれない。


 だが、そんな弱い自分に打ち勝った時、人は勇者となる。

 全く、素晴らしい解釈じゃないか。


「頭おかしくなったのか? 俺様は逃げろって言ったんだ」


「私が君に見せていたのは全て“暗殺”だ。“戦闘”を見せたことは一度もない。悪いが信用していなかったからな」


 所詮は利用し合うだけの関係。いつか対峙する時がくる。そう思っていた。


 だが、大岩は違った。

 私を信用し、命懸けで逃がすと、そう言ったのだ。


 大岩は口を開け、何かを言いかけ、やがて大きなため息をついた。

 呆れて言葉も出なかったらしい。


「ここで見ているといい。“鷹の目ノ勇者”の竜狩りを」


 矢を三本、弓につがえる。

 願わくば、これが必殺となるよう、力の限り弦を引く。


「なにやってやがる! ここからじゃ紅蓮は見えねぇだろ!」


「君こそ、頭がおかしくなって忘れたか? 私の力に壁は関係ない」


 天空の眼には、こちらに向かう紅蓮の勇者がはっきりと映っている。


 あと十五歩。


「弓使いは戦闘で、どんな技を使うと思う?」


 十歩、九歩。


「ああ? あ~、空から雨みてーに矢を降らせたり、五本くらいまとめて撃ったり……」


 六歩、五歩。


「古臭いイメージだな。私が最も得意な技は――」


 二、一。


「――壁抜きだ!!」


 零。三本の矢を同時に放つ!

 音速の矢は小屋の壁を容易く貫き、穴を開ける。その奥には紅蓮の勇者。


 完全に意表を突いた。

 誰にも真似できない、視認不可能な位置からの必殺技だ!


「結局暗殺じゃねぇか!」


 三本の矢は胴に二本、頭に一本。

 それぞれが意思を持つように、唸りを上げて紅蓮を襲う。


 左手の手甲で一本を叩き落とし、右手の剣で一本を斬り捨てた。

 ありえない反応速度。なんという手さばき。


 だが、本命である頭への矢は処理しきれない!


った!」


「なに!? 俺様にも見せろ!」


 興奮した様子で、矢が空けた穴から大岩が覗く。


 私の眼に狂いはない。

 上空からの視界では、確かに頭部への直撃を確認した。


 私は、竜を討ったのだ。


「見たか大岩! 私の竜狩りを。暗殺には違いないがな」


「……あのよ、感極まってるとこ悪いが、あんたもこっから見てみろ。真上からじゃねぇ。ちゃんと正面からだ」


「なにを言っている。頭に矢を受けて無事な…………」


 私は絶句した。


 そんなことができる人間が存在するのか? してもいいのか?

 だって、ありえないじゃないか。


 紅蓮の勇者は――矢を歯で噛み止め、受け止めていた。

 やがてそれを噛み砕き、冷酷に吐き捨てた。


「毒でも塗っておくんだったな」


「…………」


 大岩の軽口に返すことができない。

 噛み砕かれた矢を見たとき、私の心も同時に砕かれてしまった。


「……鷹の目。カッコよかったぜ。あんたは強いし頭も切れる。だから、こんなところで死ぬべきじゃねえ。動けねぇノロマなんざ置いていけ」


 だが、それでも。やらなければならない。大岩のために。自身の魂のために。


「違う。逃げてもここは鳥籠の中。今生き延びても意味がない」


 絶海の孤島。微かな文明の残骸が残る大自然。

 そして、悪意を持って縮小する氷嵐の檻。


 この閉鎖空間に、私と大岩と紅蓮。そして九十七人の勇者が閉じ込められた。


「ここで後顧の憂いを断つ。今、紅蓮をやれば、他の連中は私たちを警戒して近寄ってこなくなる。一石二鳥じゃないか」


「ダッハッハッハ! 理屈が意味不明なのと、九十九%勝てねぇのを除けば最高の作戦だ。そうだな。俺様たちは竜を討って、このクソみてぇな殺し合いを生き抜いて、二人で朝まで酒を飲む! そうだろ? 相棒」


「ああ。詩人に詩を作らせよう。暗殺者と山賊が、竜を討つ詩を」


 自分に、そして仲間に酔っている。自覚はあるがそれでいい。

 酔いこそが凡夫を勇者に変えるのだから。


 暗殺者として、人々に煙たがられて生きてきた。

 一人きりで、誰にも知られることなくドブ底で息絶えると思っていた。


 それがどうだ? 勇者として仲間と共に、果敢に竜に挑む。

 私の人生も、なかなか良い物語になったじゃないか。


「準備はいいか、“鷹の目”」


「いつでもいいさ、“大岩”。私は飢えている」


 私たちは今から――“竜”を討伐する。

第3話お読みいただきありがとうございました。


弓使いって技のレパートリー少ない? 少なくない?


次回、3人の勇者がいよいよ正面衝突。

生き残るのは誰なのか。


活動の、もの凄い励みになりますので、高評価やブックマーク、アドバイスや感想を是非是非よろしくお願いします。 

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