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兄としての最後の尊厳を守るために戦ってくる……ッ!!

第28話です。


前回、もぐもぐなお兄ちゃん。


今回は、情報の共有から。

「――って感じかな」


 僕の胃袋の奥底でビッグ・バンを起こしていたお腹のコスモが、ようやく穏やかな凪へと向かい始めた。


 冷や汗でぐっしょりと濡れたシャツが肌に張り付く不快感を感じながら、僕は約一時間ほど暗黒の彼方へ沈んでいた意識を、どうにか地上へと浮上させることに成功したのだった。


 正体不明のカラフルなキノコを軽率に一気食いしたのは、言葉にできないほど深く反省している。


 けれど、あの場にいた三人同時に腹を壊すという、最悪の全滅事態にならなかったことだけは救いだ。

 僕一人の尊厳とお腹の自爆には、それなりに価値があったのだと、今はそうポジティブに思い込みたい。


 僕が気絶して寝込んでいる間、カレンとギンカの二人が交互に――あるいはお兄ちゃん争奪戦を繰り広げながら、付きっきりで看病してくれていたらしい。


 僕の右半身がやけにポカポカと熱く、逆に左半身がヒエヒエになっているのが、その激しいバトルの動かぬ証拠だった。


 何はともあれ、少しだけ体力が回復した僕は、起き抜けの妙に重い身体をどうにか支えながら、新しく僕たちのチーム(?)に加わったギンカに向けて、これまでの経緯をすべて話した。


 魔王、流星ノ勇者。そして、僕が持つ「継承」の能力を使った『お兄ちゃん最強計画』を。


 一通り話し終えて、僕はギンカの反応を伺った。


 だが、やっぱりと言うべきか。

 僕のやること為すことを盲目的に全肯定してくれていた、あのギンカでさえも、その美しい眉根をこれ以上ないほど不機嫌そうに中央へと寄せていた。


 腕を組んだカレンも、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向いている。

 普段は犬眼の仲であり、顔を合わせれば「クソ犬」「バカトカゲ」と罵り合っている二人だが、こと僕のこの計画に関する現実的な評価に関しては、意見が概ね一致しているようだった。


 二人の言い分をまとめると、こうだ。

 まず、弱い能力をいくら掛け合わせたところで、流星ノ勇者のような化物には通用しないこと。

 そして何より、僕が能力を奪うために戦わなければならないような「強い能力を持つ勇者」は、例外なく、その性格や精神構造に大いに難がある(ぶっちゃけ全員頭がイカれている)ということ。


「……二人が言うと、ものすごく説得力があるな」


 僕の喉の奥から、無意識にそんな本音がポロリと漏れ出てしまった。


 瞬間。


「「……なん(ですっ)て?」」


 ピキィ、と周囲の空間が一瞬で凍りつき、それと同時にゴゥッ! と肌を焦がすような熱風が正面から吹き荒れた。


 僕の右頬には絶対零度の冷気が、左頬には火竜の熱波が、同時に撫でていく。

 二人の美少女からの、非常に熱く、そして冷たい圧力。


「なんでもありません! お二人は世界一性格が良くて、世界一優しくて美しい、僕の自慢の家族です!!」


 僕は素早く背筋をこれ以上ないほどピンと垂直に伸ばし、キレの良い返事をしてその場の危機を回避した。


「まぁ、性格破綻者の最たる例が、そこに転がっている『あれ』ですわね」


 ギンカが、不快そうに視線を向けた先――。


 そこには、月明かりを浴びて青白く輝く、巨大で醜悪な氷の彫像が鎮座していた。

 さっきまで僕たちを追い詰め、この地獄の島を「楽園」と呼び、恍惚とした表情で笑っていた異常者――“翠玉ノ勇者”の成れの果てだ。


 彼は今、ギンカの凍結の権能によって、永遠の静止を余儀なくされていた。


「……思い出すだけでまたムカついてきた。やっぱり今からでも焼き尽くしてやろうかな」


 カレンが剣の柄に手をかけ、鼻息を荒くして毒づく。


「お止めなさいな。そんなことをすれば、氷が溶けてまたあの男の再生の循環が始まってしまうだけですわ」


「ふん! 次は油断しないし、最初から最大火力で消し飛ばすから勝てるもん!」


 言い合う二人を見ながら、僕は改めてその氷の像を見つめた。


 ギンカの言う通り、あの翠玉の勇者は、性格こそ最悪だったけれど、間違いなくとんでもない規格外の能力の持ち主だった。

 肉体を切り刻まれようが、首を刎ねられようが、瞬時に元通りになる。

 朽ちることも、砕けることもなく、再生の循環によって老いすらも完全に拒絶する、完全な『不老不死』。


 それは、人類が遥か古来より夢想し続けた最強の力であり、この狂った殺し合いの島を生き抜く、最有力候補だったはずなのだ。

 それが今では、ギンカという最悪の天敵によって、細胞の一つにいたるまで完全に凍らされている。

 能力の強さだけでは測れないのが、この島の戦いの恐ろしさだった。


「……そっとしておこう。なんとなく……満足そうな顔をしてるしね」


 一時は本気で殺されかけた相手ではあるけれど、不思議と僕の胸の中に恨みの感情は残っていなかった。

 彼だって、元は、ただ少し痛いだけの優雅な詩人だったのかもしれない。

 彼をあんな化け物に変え、狂気へと走らせたのは、すべてはこの島のシステムであり、それを企てた魔王なのだから。


「私が合流したからには、もう何も心配することはありませんわ」


 ギンカはふん、と誇らしげにその豊かな胸を張り、僕に力強い視線を向けた。


「不本意ではありますが、そちらのバカトカゲと私が力を合わせれば、あの流星ノ勇者だって、完膚なきまでにボコボコですの」


「…………」


 いつもなら「誰がバカトカゲよ、このクソ犬!」と即座に噛み付くはずのカレンが、珍しく、唇を噛んだまま静かに沈黙を守っていた。

 先ほど、翠玉の勇者に手詰まりにされた時の無力感が、彼女の心にまだ深い影を落としているのだろうか。


「……まぁ、お兄様の言う『お兄ちゃん最強計画』を、本当に万が一の『もしもの為』として、安全な範囲で可能な限り進めておくこと自体には、私も賛成いたしますわ」


「ああ。そう言ってもらえると、本当に助かるよ、ギンカ」


「あ・く・ま・で・も! もしもの為ですからね、お兄様? お兄様自身が、進んで危険な戦いの最前線に身を晒す必要性は一ミリもありませんの。そういう役割は、私たちにすべて任せておけばよろしいのですわ」


 ギンカが釘を刺すように、僕の目をじっと至近距離でのぞき込んできた。


 本当は、僕の「継承」の力を使って、一人でも多くの勇者たちの能力を平和的に回収し、全員で生還できる可能性を模索したい。

 けれど、二人の協力が必要不可欠である以上、無力な僕がこれ以上の我が儘を言える状況じゃないのも事実だ。


 僕は彼女の言葉に、力強くコクリと頷き――。


 ――その、直後だった。


 ドクン……! と、僕のお腹の最深部で、再び未知の暗黒衝撃波が縦横無尽に吹き荒れた。

 おさまりかけていたはずのキノコの残滓が、僕の体内で第二のビッグ・バンを引き起こそうとしている。


「うっ……あ、熱いっ……!お、お腹が……! ちょっと兄としての最後の尊厳を守るために戦ってくる……ッ!!」


 僕は額から滝のような脂汗を流しながら、お腹を抱え、近くの生い茂る茂みへと突進した。


「お、お兄様!? 大丈夫ですか!? 何を言っているのか全く意味が分かりませんが、必要とあらば私が看病して――」


「お兄! その辺の変な草とかキノコを絶対に拾い食いしないでよ! あたしたちはその間に、今後の移動方針でも固めとくから!」


「もう懲りたよ! すぐに戻るからぁぁーっ!」


 ガサガサガサッ! と、激しく茂みが揺れる音が遠ざかっていき、辺りには再び、虫の鳴き声だけが響く静寂が訪れた。

第28話お読みいただきありがとうございました。


次回、作戦会議(裏)。


活動の、もの凄い励みになりますので、高評価やブックマーク、アドバイスや感想を是非是非よろしくお願いします。 

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