Chapter 2 : チートスキル全書 (2)
少年は異世界へと召喚された。
彼はマンガやアニメを通じて、「チートスキル」という存在を知っていた。
幸運なことに、神界は彼に一つのスキルを授けてくれた。
スキルとはいえ、それは伝説の勇者が持つ聖剣のような大剣と共に与えられたものだった。
「これなら、絶対に魔王を倒せるぞ!」
少年はそう口にした。
月日は流れ、やがて少年はその圧倒的な強さで冒険者たちの間に名を知られるようになった。
それがチートスキルによるものであっても、異世界の人々にとって召喚者は計り知れない強さを持つ存在だと理解はしていたが、スキルの存在までは知らなかった。
「これは秘密にしておこう!」
少年は、自分に向けられる崇拝のまなざしを失いたくないという思いでそう言った。
自分が手にした強さが、異世界人が触れることすら許されない神界からのスキルによるものだと、誰にも知られたくなかったのだ。
……だがその後、少年は恋に落ちた。偶然一緒に冒険することになった、一人の普通の少女と。
「どうして君はそんなに強いの?」
いつもなら冗談で受け流す問いだった。しかし、二人が結ばれ、ベッドの上で横たわっている今、この問いを「生涯の伴侶」に対して避けることは、少年にはできなかった。
生涯の伴侶。その時、少年は心からそう信じていた。
「誰にも言わないって、約束してくれ」
「うん!」
少女は満面の笑みで応えた。
少年は時折思い返す。もしあの時、その約束に呪術的な契約を交わし、彼女に誓わせていたら、物語は変わっていたのだろうか……。
少年が授かったチートスキルには、二つの能力があった。
『100%ブレード』 と 『EXPダブル』。
この剣によるあらゆる攻撃は常に急所を貫き、もう一つのスキルは彼に他の冒険者の二倍の経験値をもたらした。
どんな相手にも負けない攻撃と相まって、少年のレベル上げは瞬く間に進み、短期間で名を馳せる強さを手に入れたのだが……。
「この人が強いのは、女神様からスキルを授かっているからです」
一週間ほど姿を消していた少女が、突如として現れ、国王の前でそう宣告した。
彼女は最初からその秘密を知るために少年に近づき、そして今、それを手に入れたようだった。
本来、少年が隠していたのは個人的な理由からだった。
だが、もし秘密が暴かれたとしても、精々それまで敬意を払っていた周囲の目が「あぁ、ズルをしていただけか」と変わる程度のはずだった。
……あるいは運が良ければ、何も変わらないかもしれない。そうだとしたら、少年はただ取り越し苦労をしていただけだ。
不運なことに、少年の心を奪ったその少女は、国王の娘だった。
国王は以前から少年のことを快く思っていなかった。
「女神からのスキルだと? ならば、貴様の得た名声も、富も、すべては女神の加護という後ろ盾があったからこそというわけか?」
「俺は異世界の人間だぞ!? 多少の便宜は図ってもらって当然だろ!?」
ゼロからのスタートなんて無理な話だ、と少年は思った。
「それにチートスキルがあったとしても! これまで俺が何度この世界を救ってきたと思ってるんだ!?」
少年は国王に反論した。だが、最初から意見を聞く耳持たず、常に嫌がらせの機会を伺っていた者にとって、この絶好の口実を見逃すはずがなかった。
結局。
「貴様の爵位を剥奪し、全財産を没収する」
「ふざけるな!?」
「その剣もだ」
少年の耳には、その剣を技術部門へ送り、内部のスキルを複製して王国が選別した者たちに配布する方法を探らせる、といった言葉が流れてきた。
それが可能になれば、少年に利用価値はなくなる。
少年は強い。
まるで神の如く。
これしきの拘束など、容易に振りほどくことができる。ここにいる全員を皆殺しにして逃げることなど、造作もない。
……だがその一歩手前で、少年は「生涯の伴侶」と信じていた少女に視線を送った。
返ってきたのは、ゴミ屑を見るような、あるいは使い古した道具を見るような冷ややかな目だった。
それを見て、少年は思わず笑い声を漏らした。
「ははっ……そういうことか」
決心が固まると、少年は拘束を解き、神界から与えられた剣を掴んで逃走した。
最悪のタイミングと言うべきか、あるいは国王が最悪の時期を選んだと言うべきか。
少年が逃げ出した時、城門の前には既に魔王軍が迫っていた。 これから大戦へと発展するであろう大軍勢。
その中からは魔王の禍々しい魔力が渦巻いているのが感じられた。
少年は大剣を肩に担いだ。
「誰が何と言おうと、俺がこの世界を守る」
それが少年のすべてであり、神界に選ばれた理由だったからだ。
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「『誰が何と言おうと、俺がこの世界を守る』……言ってみると、なんだかむず痒いわね」
私はその少年の声を真似て言った。語りを遮られたフォーがこちらを向く。
「何かお気に召さない点でも?」
「だって、あんなに酷い目に遭わされて。私だったらそんな場所捨てて、死ぬまで静かに暮らせる場所を探すわよ。魔王だか何だか知らないけど、街なんて勝手に滅んじゃえばいいのよ!」
「そうですか」
「ちょっと、リアクションくらいしてくれてもいいんじゃない?」
「私見を述べるつもりはございません」
こいつのこと、「家の壁」って呼ぼうかしら?
「ねぇ、家の壁」
思わず呼んでしまった。
「はい?」
こいつもこいつで、分かってやがる。
「それで、その後はどうなったの? その人は魔王を倒して、私と同じように勇者の勲章をもらって、元の世界に帰った後に廃人にされたって話?」
「残念ながら、先ほどの遺物の物語と今回の件に相関性はございません」
「ちぇー」
「おまけに、その少年は魔王の討伐に成功しておりません」
「は?」
私は思わず、間抜けな声を漏らした。




